第12話 顔面国宝集団
「お待たせしました」
「私達も今来たところよ」
玄関にはクリスチャンとクラウドがすでに待っていた。
「じゃあ、一緒に行こうか」
二人の後ろからついていき馬車に乗り込む。
騎士団の本部は町から少し離れた見晴らしが良い丘の上にあるそうだ。
「そもそも騎士って何をする職業ですか?」
馬車に乗ると俺は二人に聞いた。
なんとなくはわかるがはっきりとはわからない。
そもそもゲームぐらいでしか騎士という言葉を聞いたことがないならね。
「トモヤくんの世界では騎士がいないのか……」
クリスチャンはどこか寂しそうだった。
代々騎士家系って言っていたからそれも仕方ない。
「そもそも剣みたいな刃物を普段から持っていると犯罪者になりますからね……」
「えっ!?」
俺の言葉に二人は驚いていた。
確かに日本でも犯罪はある。
ただ、普通に生活していて何かの事件に巻き込まれることの方が少ない。
「トモヤくんの世界は平和なのね」
「平和は平和ですけど、警察官とか国で雇われている人達はいますよ。街の見回りとか悪いやつを捕まえたり」
「ならその警察官が騎士に近いわね。基本的な仕事に街の中での見回りも含まれてるわ。あとは基本的に貴族の護衛とかが主な仕事だね」
話からして警察官やボディガードに近い気がする。
胸を張ってクラウドが騎士について色々教えてくれた。
誇りを持って騎士としての仕事をしているのだろう。
「ロベルトの話でもあったけど、試験とかもあるんですよね?」
「騎士になる学校に通って、試験を受けて合格すると自身の希望と成績で配属先が決まるのよ」
話を聞く限り本当に警察官とかに近かった。
ロベルトが試験を受けると言っていたのは、この騎士になるための試験だった。
騎士になるのも狭き門で、どうやら今行くところはエリート集団の集まりらしい。
「当主様、着きました」
「ありがとう」
気づいた頃には騎士団の本部近くに着いていた。
「トモヤくん降りるよ」
クリスチャンに言われるまま降りると、本当に本部は丘の上にあった。
「街って結構大きいですね」
上から街が見える場所にあるのも何かあった時に対処できるようになっているのだろう。
わざわざ騎士団に直接馬車が行かないのは、貴族から騎士に変わるためと言っていた。
二人とも派手な装いをしているのに、キリッとした姿がカッコよく見える。
警察官や消防士がカッコよく見える制服補正は異世界にもあったようだ。
「ちなみにあれが公爵家ね」
公爵家は街の奥の方にあり、どこの建物よりも大きかった。
そして、ラブホテルに見えるのは変わらなかった。
「とりあえず中に入るけど、初めはびっくりするかも知らないから気をつけてね」
初めからそんなことを言われると、建物の中に入るのが嫌になってきていた。
「ちょっと失礼しますね」
俺はクリスチャンとクラウドの腕を取り、挟まれる形で中に入る。
「びっくりしない対策です」
「くっ……トモヤくんは本当に無自覚だね」
「ますます欲しくなるじゃない」
感覚的にはお化け屋敷に入る前と同じだな。
中に入ると俺は周囲をキョロキョロと見渡す。
騎士団の本部自体も広々としており、チラホラと人がいた。
ただ、どの人を見ても大きな体をしていた。
だからびっくりすると言ったのだろうか。
高身長、美形、筋肉質のコンボで女性がいたら黄色い歓声が止まらないだろう。
「団長、剣姫おはようございます!」
いや、びっくりしたのは体格もだったが、声の大きさと迫力だった。
俺達が通るたびに大きな声で挨拶をしてくる。
ちなみにクリスチャンがここの騎士団の団長でクラウドが剣姫と呼ばれているらしい。
「みんな元気だから初めて来る人はびっくりする人が多いんだよね」
「もう、うるさいぐらいだわ」
どうやらこれが毎日の日課でクラウドは嫌になっているらしい。
「ここの騎士団は実力も含めて上位の騎士団だけど、少し元気が有り余る人達が多くてね」
確かに遠くを見ると取っ組み合いになっている人達もいた。
元気が有り余る人達を通り越して問題児達が多いのだろう。
「だからこそソードマスターの私がここの団長をやっているんだけど……ちょっと待っててね」
クリスチャンは優しく微笑んだ。
俺が手を放すと取っ組み合いをしている人達に向かった。
「少しあのまま見てるといいわ」
気づいた時にはすぐに間に入り、二人を投げ飛ばしていた。
あれ?
俺のイメージとしている騎士はもう少しお堅くカチッとしているか、煌びやかなイメージだった。
目の前で見ている光景が、全然エリート集団の感じがしない。
ロベルトが俺を騎士団に行くのを止めようとしていた理由がなんとなく理解できた。
力は力で制すってことか。
「トモヤくんごめんね」
「うぉ!?」
さっきまで向こうにいたクリスチャンは急に俺の目の前に現れた。
もはや神業レベルの何かだった。
これがソードマスターと呼ばれる人の実力なんだろう。
「騎士達の喧嘩を見て驚かせちゃったかな?」
「いえ、とてもかっこよかったです」
人間業とも思えない姿に俺は目を輝かせていた。
サバスの隠れる能力にも驚いたが、やはりここは異世界だろう。
「本当に可愛いわね」
クリスチャンは俺の頬をムニムニすると再び歩き出した。
きっと子どもを相手しているような感覚なんだろう。
「騎士達の朝礼があるから、今日はそこにトモヤくんを連れていくね」
どうやらこの後朝礼があり、騎士団の仕事が始まるらしい。
そのまま歩いていると、学校の運動場の倍ぐらいの訓練場があった。
そこに騎士達が整列しており、どうやらさっき取っ組み合いの喧嘩をしていた二人も遅れて整列していた。
「えっ? なんで子どもがいるんだ?」
「それにしても可愛らしい子だな」
何かしらコソコソと聞こえてくるが、きっと俺のことを言っている。
ただ、隣で歩いてる二人はニヤニヤとしている。
まるで自分のオモチャを誉められているような感覚なんだろう。
騎士達の横を通り過ぎて前にいくと、その人数と体の大きさに圧倒された。
百人近くいるのにみんなが高身長でガタイがよかった。
筋肉が引き締まってスラッとしているクラウドが、なぜ剣姫と呼ばれているのか理解できた。
「クラウドさんって騎士の中でも綺麗だから剣姫って呼ばれてるんですね」
「あら、嬉しいことを言ってくれるわね」
俺を優しく撫でると俺はあまりの心地良さに目を瞑ってしまった。
手が大きいと撫でられた時に心地よくなってしまう。
本当に扱いとしてはペットって感じだな。
さっきから二人とも俺にベタベタと触れてくる。
「やっぱり騎士団に連れくるのは、あまり良くないのかもしれないわね」
「じゃあ、朝礼が始まるから見ててね」
クリスチャンが名残惜しそうに台に載ると、周囲は静かになる。
「整列!!」
クリスチャンの一言に周囲はピリッとした雰囲気になる。
誰一人ずれることもなくピシッと整列していた。
みんなの顔は凛々しくこちらを見ていた。
本当に全員とんでもないぐらいイケメンだ。
騎士団の顔面偏差値は顔面国宝と呼んでもいいほど高かった。
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