男の名前、それから守りたいもの

no_no(すぺ)

男の名前、それから守りたいもの

 男の名前は、雨。今日の成人式に行けなかった19歳の気弱な青年だ。

 幼い頃から病弱で、学校も休みがち。今までちゃんと友達と言える関係の知り合いができたことはない。

 いつもあやふやで、気象のほうの"雨"に打たれ強い雑草みたいに丈夫な精神力は、彼は持ち合わせてはいなかった。

 気弱な原因もなにかあるのだろうが身内にも口に出したことはない。

 家族も、それでよしとしていた。病院に繋ごうとか、そういう適切な行為をしなかったのだ。

 そんな気弱な彼でも、働くことはできていた。内職をしているのだ。親のパソコンで検索してでてきたらしい内職の募集内容は「しょうゆさしのキャップ付け」。

 外に出て働くことが難しい彼の、まさに天職だった。稼ぎは微々たるものだったが、わずかでも社会に繋がっているという安心感は、たいそう心強い。拠り所だ。

 そんな彼の拠り所は、内職と散歩、身内にそれからもう一つ。

 猫だ。

 捨て猫だったのを保護したという。

 猫は、彼奴は気ままで意外と人懐っこい。

 ふさふさの毛を撫でればゴロゴロと喉を鳴らし、ご飯のときには人間ににゃーにゃー鳴いて急かしてがっつく。

 現金なところもあるが、それで癒しにならないわけがなかった。


 今日も自分に課したノルマをこなして、そして夜が来る。

 成人式に出席したであろう、友達だとも思えない知り合いの顔は、おぼろげに記憶の奥底に流れていく。


 先のことは考えなくもない。脆弱な自分に、なにができるか。できないか。

 それでも、この生き物を守っていきたいという気持ちは、本物だという。


end

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男の名前、それから守りたいもの no_no(すぺ) @nosupenosupe

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