第12話 決闘での事故

学園の入学式の舞踏会の翌日である。


アッシュ王子と付き人のルーナは学園へ向かって歩いていた。

学園の門にさしかかると、突然アッシュに男子学生が駆け寄ってきた。


「このちんちくりんは、すぐにみただけでわかるぞ!

昨日の舞踏会では、この私に、よくも恥をかかせてくれたな!」


どうやらこの生徒は、昨日王女にダンスを申し込んだ男子生徒であり、

今日になっても、まだしごくご立腹らしかった。


ルーナは内心、


「このものは、リリア皇女に無視をされたのだから、

皇女に矛先をむければいいものを、

弱いものに矛先を向けるとはとんだ不届きものだ」


とは思いながらも、トラブルを外部に感知されないように、念のため強力な人払い魔法をかけた。

そして、何のことかよくわからない王子を代弁して会話を始める。


「これは学園の生徒様ですか、ご機嫌うるわしゅう、

さて、どちら様でありますでしょうか。お名前をお聞かせください。」


「私はサンフォーレ皇国のロペス家の次男、リックである!

昨日はよくも私に恥をかかせてくれたな。」


「私にはなんのことかわかりませんが、

もし失礼をしていたら謝罪をいたします。」


とアッシュは答えた。


「謝罪して済むことではなーい!私は。貴様に、決闘を申し付ける!」


とこの男は、地面に手袋をたたきつけた。


とリックと名乗る男は、

アッシュに本気で決闘を申し込む気らしい。


ルーナは念のため聞いた。


「学園内での死闘は「厳禁」とお聞きましたが、それでも行うのですか?」


「稽古の延長上であれば、「決闘」も禁止されてはいない!

受けるのか受けないのか、

まぁ、貴様のなりでは私に勝てるはずもないがな!」


といいうやいなや、


「それは面白そうですわね。」


と、騒動を見つけたリリアがうしろから、会話に入ってくる。


ルーナは再び魔法を突破されたことにぎょっとする。


リリア皇女に男子生徒は答えた。


「これは、リリア皇女殿下、たいへん失礼いたしました。

こちらの方は皇女殿下様のお知合いの方ですか?」


皇女にはつよくでれないのか、丁寧に生徒は応対した。


「いいえ、まさか、私はこの方をまったく存じません。

そもそもこの方のお名前はなんというのですか?」


ルーナ・ノーヴァがおそるおそる答える。


「フロストヴァルド王国からきましたアッシュ・ノースフォード様にございます。」


「あら、フロストヴァルドの王子様なの、ご機嫌麗しゅう。」


と白々しくリリアは挨拶をする。


そしてリリアは、リックに再度話しかける。


「ただ、おそらく私の予想では、

あなたは決闘をすれば、「敗北する」と思いますわ。

下手をすれば死んでしまいます。

おやめになったほうがいいと思いますわ。」


とリリアは、扇子を片手に楽しそうに話す。


「皇女殿下、お戯れを、

私がこんなちびに負けるはずがありません。

私の剣技はこの学園でも上級位なのです。

それとも、皇女殿下はこの決闘に反対されるということですか?」


とリックは反駁する。


リリアがくすくす笑う。


「剣技ですって、面白いことですの。

決闘、とくに反対はしませんわ。

鍛錬、たいへん良いことではなくて、

ただ、私はあなたを案じているだけのことです。

我れらサンフォーレの神のご加護があらんことを。」


と、この場を抑えてから、

リリアはアッシュにこう目くばせをして念話で直接会話をする。


「アッシュ様、あなたが負けるはずがないことを、

このサンフォーレの皇女リリアが保証いたしますわ。」


「リリア様、でも私は剣技も魔法も多少心得がある程度でして、

特に戦闘に秀でているわけではないのですが。」


「リリアに策がありますので、ご安心を、

もしもの場合は、その付き人ルーナの魔法で、

相手を殺してくださってかまいません。」


リリアが手袋を拾ってアッシュに渡してしまい、

アリアが言葉をはさむ余地もなく、

決闘が決まってしまい、アッシュもどぎまぎする。


「明日が楽しみだな!」


と言い残して、リックと名乗る学生は立ち去って行った。

アッシュは、この間、立ちすくんでいるだけであった。


____________________________


翌日の決闘のために、ルーナがアッシュ王子に一日かけて丹念に施した強化魔法は、


・ボディアーマー(一般防護魔法)

・リカバー(神聖魔法 自動ヒーリング)

・ボディスピード(一般加速魔法) 


である。


もともアッシュは剣技には疎いものの、

エリザ様の修行のせいか、

耐久力や抵抗力だけは強いため、防御さえ挙げておけば、

少なくとも死にはしないという布陣であった。


また魔法をかけていることを諭されないように、


・魔法偽装(大魔導士レベル)


偽装工作も行ったので、ルーナ以上の魔法使いがいなければ、

魔法をかけたのも見破られないはずであった。


そして念のため相手からの遠距離魔法を警戒し、


・マジック プロテクション 3重掛け


を行い、


ルーナ的には、準備万端のはずであった。


もし相手の攻撃や魔法が予想以上に強い場合や想定外の時は、

会場全体を沼にして、皆を沈めてしまえばいいだけのことで、

ルーナはそこまで心配はしていなかった。


ただ、リリア皇女の言動が気になっていた。

リリア皇女の意図がなんなのかが、見極められないのである。

最悪、リリア皇女がアッシュを暗殺するためにすべて仕組んでいる可能性もある。

なによりも、ルーナの認識阻害と人払い魔法を簡単にレジストしており、

何者なのか見極められなかった。


ただ、昨日の発言も、どこかおかしなところがあり、

どう考えてもアッシュを陥れようとする意図は感じられなかったのである。


「王子の命を狙っているの?それとも、何か別の意図があるのかしら。」


とルーナは考えながら、会場に向かった。


決闘会場である鍛錬場では、

リックが他の生徒に練習のデモンストレーションをしており、

剣技の腕は確かなようであった。


「まぁ、アッシュの練習相手にしては悪くないかもしれない。」


とルーナは思いながら、決闘の準備に入る。


学園での決闘は、模擬戦闘の形式をとるらしく、

伝統的な模擬レイピアとチェーンメールの装備から始まる。

模擬レイピアはチェーンメールを貫通しないように工夫がされていた。


試合が始まった。

アッシュをいたぶるのを楽しむつもりか、

じりじりリックは距離を詰めてくる。


パリーーーン!!


直後にアリアは驚愕する。

いきなり王子に張った3重の魔法結界が破られたのだ。


直後にルーナの知らない魔法が発動しアッシュ王子を取り囲む。

魔法はどうやら皇女リリアから発せられているようだった。

魔法属性は『暗』、暗黒魔法である。


ルーナはリリアが自分以上の魔法使いであることを認識し、

ルーナはしてやられたと思い、

一目散に王子のもとに駆け付ける。


ぁぁ、私は王子を守ることができなかったのだ。

と泣きだしそうになりながら、

必死になって。


しかし異変が起きたのは、アッシュ王子に近付いたリックのほうだった。


リックは突然吐血し苦しみだす。

苦しんだと思いきや、そのまま脱力して倒れた。


アッシュはきょとんと立ちすくんでいたので、

リリア皇女の魔法が王子に害をなすものではないことにルーナはまず安堵した。


と同時に、これがアッシュ王子に害をなす魔法であれば、

命の危険があったことに身の毛のよだつのを感じた。

自分の魔法の力に驕りがあったのだ。


「大丈夫ですか?」


アッシュ王子がリックに近づくと、

リックはより苦しみ始め、

アッシュの言葉に返事することなく、

リックは脱糞し脱力した。


すぐにリックの友人たちがあつまり、

リックを介抱し始め、決闘は終了となった。


なんのことかわからずアッシュ王子は茫然としていたが、

リリア皇女がアッシュにそっと寄り添い、


「アッシュ様、私の言ったとおりだったでしょう?

彼は、何か罰が下ったんですわ。

何か、とても、してはいけない罰が。」


「リリア様、今は何が起こったの?」


「私にもわかりませんわ。

きっと彼は日頃の行いも悪いのでしょう。

誰かに呪われでもしたのかもしれません。」


と、白々しく言った。


「それでは、アッシュ様また明日お会いしましょう。

次は、図書館でお話しできると良いですね。

あそこなら、人目もありませんから。」


と言って、リリアも去っていった。


ルーナはアッシュの試合後の身支度をしながら、

リリア皇女の動向に頭を悩ませるのだった。


「ルーナ、何が起こったんだろうね。」


とアッシュには聞かれた、

ルーナは何も答えられず、

とりあえず安全のために現場から離れることにした。


______________________


本日は、ルーナの完璧な敗北であった。


ルーナ・ノーヴァ、

フロストヴァルド軍参謀、

天才錬金術師にして、

王国最高の土精霊魔法使いは、

サンフォーレの皇女リリアに魔法戦闘で

手痛い大敗を決したのである。

直接の勝負ではないが、負けのようなものである。


後にルーナがアッシュの魔法を解析してわかることであるが、

アッシュには高レベルの「呪い」の暗黒魔法術式がかけられていた。

呪いの機能としては、


「アッシュに悪意をなすものが近寄ると、強力な死の呪いをうける」


という術式であった。


このレベルの呪い受けると、

あの男子生徒はおそらく高位神官の助力がないと、

再起不能だろうと予想された。


ルーナはこの魔法の解呪を検討したが、

今のところアッシュに害をなすものではないのと、

リリアとの魔法の力量に差がありすぎたので、

残念ながら解呪をあきらめざるをえなかった。


ルーナは、リリア皇女が自分より格上の『魔法使い』であることを知った。

ルーナは自分が、外の世界を知らずうぬぼれていただけであり、

上には上がいることに、人知れず涙し、大反省するのであった。


そしてルーナは、今回の件を契機に、

アッシュがフロストヴァルドの王子であることが

皆に認識され始めるリスクを危惧した。


サンフォーレ皇女と舞踏会で仲良く踊っていたことが、もし他国の耳に入れば、

国際的な政治的な駆け引きや、サンフォーレからの暗殺の標的となる可能性もある。


ルーナは、この状況が引き起こす波紋を思い描きながら、

今後の対策を練る必要があると痛感した。

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ジュリエットは暗黒魔法使いだったので、悲劇は爆散いたします 清涼 エーリッヒ @SeiryoEhrich

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