第6話 傷の誓い

フロストバルドの王女、エリザ・ノースフォードは、

小さなころからよく同じ夢を見る。


かわいい弟とかくれんぼをしている夢だ。

夢の中で会えるのが幸いといったところか、

私のかわいいアッシュ!


侍女のニコラが悲鳴を上げて走ってきた。

二コラ、はやく逃げて!!!


そして、いつも通り

ニコラは後ろから来た男達に、惨殺される。


そしてもう一人の男は、アッシュを手にかける。

ああ、かわいい私のアッシュ!!!!


「これがターゲットか、依頼は一人だったな。」

「いや、ガキは二人いて、大きいほうだぞ。」


物音に気が付いたのか、

別の男がまっすぐにこっちにくる。


そして男は剣を突き出した。

エリザの左肩に剣は刺さった。


エリザは声を出さずに、

剣にクローゼットの洋服を巻き付かせる。

自分の血をふき取ったのだ。


男は剣を引き抜くと、不思議そうな顔をしながら、


「手ごたえがあったのにな」


と言った瞬間に、

警護隊長のイングリスが男に切りかかった。


男は、イングリスに反撃を加えると、

レイヴァルト兄さんの居室のほうに逃げ始めた。


男たちがいなくなると、

エリザは飛び出していた。


「アッシュ!」


私のかわいいアッシュ!!

エリザは必死であった。


弟を抱きしめて、見よう見まねで、

神官のいつものセリフを口走ってみる。


「生けるもの、生きるべきものに、その力を与えん。

ハイヒーリング!!!」


驚くべきことに、ハイヒーリングが発動する。


エリザは6歳にして、

上級の神官しか使用ができないハイヒーリングを発動させる。


エリザは何回も魔法を唱えた。

でも、アッシュは動かなかった。


エリザの魔力が枯渇したあとも、

生命のエネルギーを使用し、エリザはヒーリングをかけつづけていた。

エリザの髪は、きれいな金色から白髪になった。


駆け付けた父がエリザの肩に手を置き言った。


「エリザ、もうやめなさい。

死んでしまったものには、ヒーリングは効かない。」


エリザは泣き崩れた。

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エリザはティアモの難民キャンプで目を覚ました。


私は弟を守れなかった。

それは、私に力がなかったからだ。


エリザの左肩にはいまだ傷が残る。

エリザは、左の肩の傷の治療を拒んだのだ。


今でも左腕が上がらない。

エリザには左の傷は唯一残るアッシュとの絆であり、

傷を一生背負うことで、自らの戒としたのだった。


エリザは、傷の痛みがうずくたびに


「力なきものは大切な人を守れない」


ことを思い出し、強くなることを再び誓うのであった。

___________________

フロストヴァルドにはその後、三男の王子が誕生した。


「この子を、どうか… どうか、強く、立派な王子に…」


王妃であるエリザの母は、出産と同時に息を引き取った。


家族の強い希望により、次男と同じ名前である


「アッシュ」


と名付けられた。


姉のエリザと警備隊長のショーン・イングリスは、

アッシュを守り抜くため、厳格に育てることを誓った。


こうしてアッシュは法術と剣術の

英才教育を受けることとなった。


しかし、アッシュは真面目に修行に取り組んだものの、

その実力はごくごく一般的であった。

残念ながら、王子としての特別な才能は


「かわいらしい」


という点を除いて見当たらなかった。


アッシュは優れた魔法や剣術の才能は持ち合わせていなかったが、

不屈の精神と優しい心を持っていた。


エリザとイングリスは、彼に剣術や法術を辛抱強く教え続け、

次第に彼のリーダーシップと強さを引き出していった。

_______________________


アッシュが13歳になった時、

兄であるレイヴァルドは伝言を伝えた。


「アッシュよ」

「何ですか、兄上」


「お父様からお言葉だ。私は跡継ぎ故、

他の国へ見分を深めに行くわけにはいかない。

その役目は、お前が担うことにある。

学業の才もあるお前は、

14歳として魔法学院に入学し、見分を広めてまいれ。


そして兄の目となり、脳となり、顔となるように、

勉学や交友関係を作ってまいれ。」


口数少ない兄がこんなにしゃべるのを、

アッシュは初めて聞いた。


こうして、三男アッシュは、東の国の魔法学院に入学することになった。


王子の教育係のアリアも魔法学院の講師として派遣され、

アッシュの補助役として彼の成長を見守り続けることになった。


こうして、フロストヴァルドの三男アッシュは、

東の国の魔法学院への入学を果たした。

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フロストヴァルド王国のレイヴァルドの居室


暗殺者は、居室に入った。

そしてそこに少年がいることを確認した。

(ターゲットだな!)

剣を持ったまま、暗殺者は一歩近づく、


「何か用か」


少年が言葉を発する。


男は無言で一歩近づく。


「そうか」


と少年は続けた。


暗殺者は、次の一歩を踏み出した。

はずであったが、

着地の瞬間に、膝が崩れるのを感じる。


というのも、一歩を踏み出したと思っていた

左足は、もうなくなっていた。


下腿で体重をささえるが、

着地と同時にその下腿も崩れ去る。


そして男は、自分の体が、

地面につくなり瞬間的に凍り、

崩れ去ることを目撃した。


「!!!!」


転倒した彼は、一瞬で凍結した肉片となり、四方に飛び散った。


「レイヴァルト様!」


警備隊長のイングリスが駆け付けると、


そこには、凍結された肉片が散らばっていた。


「ご無事でしたか。」


とイングリスが聞くと、レイヴァルドはうなづくのであった。

________________________


長男のレイヴァルドが氷結魔法の加護があることが判明した。

以後、長男レイヴァルドが、「戦略級の」氷結魔法使いであることは、

フロストヴァルド王国の国家機密となった。

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