第209話 あぁ、1点足りない!

 リバースとヴァルキリーが自分の予想を言い終われば、次は鬼童丸が質問される番なので宵闇ヤミが鬼童丸の方を向く。


「鬼童丸は何が提出されると思う?」


「意外とメディーパとか出て来るんじゃないか?」


 鬼童丸が口にしたメディーパは、彼の従魔であるメディスタの素材となる融合フュージョンアンデッドだ。


 そのメディーパだが、ジャック・ザ・リーパーとリビングパラディン、メディレイスを融合フュージョン素材とする。


 これらのアンデッドモンスターならば、掃除屋が含まれていないからある程度の実力があれば揃えられるだろう。


「なるほどね~。鬼童丸も融合フュージョンするまでの間はメディーパを使役する従魔枠に入れてたもんね」


「そういうことだ。ヤミはどうなんだ? 考える時間はたっぷりあったと思うけど」


「アハッ、鬼童丸にはバレちゃってたかぁ。ヤミはグラッジロードが提出されると思ってるよ」


 グラッジロードはグラッジを冠するアンデッドモンスターの中でもトップ争いをする強さを持っており、グラッジミキサーとグラッジミルメ、グラッジナイトメアを素材とした人型の融合フュージョンアンデッドである。


 宵闇ヤミが一時期使役していたグラッジミキサーはさておき、グラッジミルメとグラッジナイトメアも癖が強い。


 グラッジミルメはミルメコレオがモチーフとなっており、グラッジナイトメアは黒い靄に白いホッケーマスクの顔がある幽体の融合フュージョンアンデッドモンスターだ。


 それらが融合フュージョンすることにより、ライオンの頭部を持ち、左腕が蟷螂の鎌で右腕が鍬形虫の鋏、胴体と脚は黒タイツのようで背中から怪しげな模様の蛾の翅を生やした見るからに融合フュージョンアンデッドっぽい外見になる。


 なお、男型か女型になるかは元の素材に雄が多いか雌が多いかで決まる。


 4人の予想も出揃った後、まだ少し余ったので宵闇ヤミがコメント欄に投稿されたいくつかのスーパーチャットの質問に答えたり、鬼童丸達もそれに対する私見を述べた。


 その後、融合フュージョンフェーズの終わりを知らせるブザーが鳴ったから、宵闇ヤミが進行を再開する。


「はい、融合フュージョンフェーズはここまで! じゃあ、今から参加してるヤミんちゅ達に1体だけ融合フュージョンアンデッドを提出してもらうね。この段階で基礎点数が80点未満のヤミんちゅ達は脱落だから悪しからず」


 宵闇ヤミに言われてヤミんちゅ達が次々に融合フュージョンアンデッドを提出していく。


「よしっ、基準突破!」


「あぁ、1点足りない!」


「お゛での゛ネ゛グロ゛が…」


 イベントエリアは悲喜交々な状況だけれど、アンデッドラボラトリーが出す点数はデーモンズソフトが設定した点数だから全プレイヤーに等しく公平だ。


 無論、基礎点数がギリギリ80点を超えたところで、100点満点に近い基礎点数を出した者がいれば勝ち目はない。


 篩いにかけられたことにより、基礎点数が80点以上で残ったヤミんちゅは5人まで絞られた。


 その中で上位3人に入れば、デーモンズソフトから2枚目の量産型カードを貰えるので評価フェーズで残ったヤミんちゅ達は緊張した様子である。


 なお、提出された融合フュージョンアンデッドの基礎点数については、鬼童丸達が自身の評価を告げた後に公表されてその合計点も併せて発表される。


 だからこそ、鬼童丸達が基礎点数に引っ張られた評価はしないため、基礎点数の差が大きく開いていなければ、逆転の余地はある訳である。


 しかも、審査の順番は提出順であって基礎点数の順番ではないから、本当に鬼童丸達の評価が終わらないと得点について何もわからないようになっている。


「では、特別審査員3人から評価してもらうよ。最初は世紀末マイコーのグラッジドラゴバイク! リバースの予想がいきなり的中したね!」


「やはりバイク! バイクが予選落ちするはずない! 知ってた!」


「リバース、ステイ。落ち着いて審査しろ。これはヤミのイベントだぞ。リバースが主催してる訳じゃないんだ」


「おっと、すまん。俺の予想があったってつい興奮しちまったぜ」


 まだ引き返せるぐらいの盛り上がりだったようで、鬼童丸に注意されたリバースはすぐに冷静になれた。


 宵闇ヤミは円滑な進行に協力的な鬼童丸に感謝する。


「ありがとう、鬼童丸。それじゃあ、特別審査員の3人はお手元のパネルに10点満点で評価してね」


 10点満点は好き嫌いで決めるのではなく、鬼童丸達が予め決めておいた判断軸に則ってその基準を満たしているかで評価する。


 その判断軸は公開せず、あくまで各々がコメントのところで触れるぐらいの予定だ。


 評価が出揃ったため、宵闇ヤミが世紀末マイコーの得点を発表する。


「世紀末マイコーのグラッジドラゴバイクの得点は、基礎点数が93点、リバースが8点、ヴァルキリーが7点、鬼童丸が7点で合計115点!」


 (最初で115点はまあまあ高いね)


 鬼童丸は宵闇ヤミの発表した点数を聞き、世紀末マイコーが最初にしてはなかなかの高得点だと感じた。


 基礎点数が90点以上であり、特別審査員全員が5点以上の評価をしているというのはそれだけグラッジドラゴバイクが優れていることの証明でもある。


「世紀末マイコー、今の気持ちを教えて」


「ヒャッハー! バイクは最高だぜぇ!」


「わかる」


「ステイ」


 リバースがノータイムで世紀末マイコーに同意したが、それはすぐに鬼童丸によって落ち着かされた。


 時間の関係で次の提出者の評価に移る。


「2番手はヤサーイ王子のコープスキマイラ! 今度はヴァルキリーの予想が的中したね!」


「畜生、俺の行動なんて読まれてたのか。頭に来るぜ」


 頭に来るなんてヤサーイ王子は言っているが、それはロールプレイであって本気で頭に来ている訳ではない。


 ヴァルキリーはリバースのようにはしゃいだりしていないが、自分の予想が的中してドヤ顔である。


「はい、特別審査員の3人はお手元のパネルに10点満点で評価してもらうよ」


 すぐに評価が出揃い、宵闇ヤミがヤサーイ王子の得点を発表する。


「コープスキマイラの得点は、基礎点数が90点、リバースが5点、ヴァルキリーが5点、鬼童丸が5点で合計105点! 特別審査員全員が5点だけど、鬼童丸に理由を聞いてみようかな。どうして5点なの?」


「コープスキマイラは確かに掃除屋として出現するから強いけど、俺の中ではコープスキマイラは融合フュージョンアンデッドの印象よりも融合フュージョンの素材って印象の方が強い。だから5点にした」


「強い融合フュージョンアンデッドのつもりが素材…だと…」


 敵の強さが桁外れで絶望する野菜の星の王子の顔芸を披露するヤサーイ王子に対し、コメント欄にいるヤミんちゅ達が草を生やした。


 いつまでもヤサーイ王子の顔芸に付き合っていても仕方ないから、宵闇ヤミは次に移る。


「3番手はタケアッキーのスケリトルデルタワイバーン! 遂にヤミ達の予想を超えるヤミんちゅが現れたよ!」


「スケリトルワイバーンを3体集めるのは苦労したぜ」


 (確かによく集めたと思う)


 掃除屋ではないものの、スケリトルワイバーンは容易に3体集められるアンデッドモンスターでもないから、鬼童丸はそれら3体を融合フュージョンしてスケリトルデルタワイバーンを誕生させたタケアッキーに感心した。


 それから評価が始まり、鬼童丸達の評価が出揃ったタイミングで宵闇ヤミがタケアッキーの得点を発表する。


「スケリトルデルタワイバーンの得点は、基礎点数が95点、リバースが7点、ヴァルキリーが7点、鬼童丸が7点で合計116点! この時点でタケアッキーは上位3人に入ったよ! おめでとう!」


 宵闇ヤミが拍手したら、それに続くように特別審査員だけでなくイベントエリアにいるヤミんちゅ達もタケアッキーに拍手した。


「次はヴァルキリーに評価の理由を訊こうかな」


「移動手段として有用であり、頭の数が多いからこそ複数の攻撃が一度にできるのがポイント高めだね」


 ヴァルキリーのコメントに頷く者は多く、予選落ちしてしまったヤミんちゅ達はスケリトルデルタワイバーンを羨ましがっていた。


 その後、4番目のカニカマが宵闇ヤミの予想したゲイザリオンを提出し、基礎点数81点と審査員合計9点の90点と評価された。


 ラストは猫貴族だったが、宵闇ヤミが予想したグラッジロード(女型)を提出して基礎点数が89点と審査員合計15点の104点であり、ヤサーイ王子に1点差で負けた。


 以上より、タケアッキーと世紀末マイコー、ヤサーイ王子が2枚目の量産型カードを宵闇ヤミから授与されて第一回ヤミんちゅ杯は幕を閉じる。


「みんな、突発的なイベントだったのに参加してくれてありがとう! 一緒に日本を守ろうね! おつやみ~」


 宵闇ヤミが締めの挨拶をした後、イベントエリアにいたプレイヤー全員がUDSのホーム画面に強制転移された。

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