第208話 ええじゃないか

 ガチャフェーズが終了したら融合フュージョンフェーズが始まる。


 ヤミんちゅ杯では、特別にイベントエリア内でミニゲームのアンデッドラボラトリーに接続できるようになっており、参加しているヤミんちゅ達はこの場にいながらアンデッドラボラトリーの評価システムを利用できる。


 200人近いプレイヤーが一斉にシステムウィンドウを表示し、融合フュージョンを行っている様子が配信に映し出される訳だが、その様子を眺めるだけなのは退屈でしかない。


 だからこそ、宵闇ヤミはこのフェーズでも特別審査員の3人に話を振っていく。


「鬼童丸の中でこれは太鼓判を押せるって融合フュージョンのレシピがあれば教えてほしいな」


「甲乙つけがたいな。ヤミ、再現性のあるレシピ方が良いの?」


 鬼童丸の質問は参加しているヤミんちゅ達のためのようで、実は自分とドラクール達のためのものだ。


 何故なら、リビングフォールンを除いて基本的にどの守護悪魔や従魔も融合フュージョンしており、その中で1つ好みによって選ぶとなれば、選ばれた者と選ばれなかった者でギスギスしてしまう恐れがある。


 特に鬼童丸の場合、自我を持つ守護悪魔が3体と従魔が1体いるので、この中の誰かを選べば残り3体が落ち込んでしまう。


 そんな展開は避けたいから、鬼童丸は参加しているヤミんちゅ達のために質問している風を装った訳だ。


 条件に乗っ取って答えたならば、鬼童丸が選ぶ最高のレシピということにはならないので、ドラクール達を傷つけずに済む。


 宵闇ヤミも自分の質問で鬼童丸に余計な負担をかけてしまったことを察したため、心の中で詫びながら鬼童丸の誘導した流れに乗って頷いた。


「そうだね。誕生した従魔が強くて再現性の高いレシピの方が良いかな」


「であるならば、ビヨンドカオスかな。融合フュージョン回数は多いけど、掲示板での目撃情報を加味したら手に入りやすいアンデッドモンスターの融合フュージョンと進化を繰り返しただけだし」


 鬼童丸が回答に選んだのはビヨンドカオスだった。


 ドラクール達に配慮しつつ、強さと再現性を考慮するとビヨンドカオスと答えるのが適任だったからだ。


 この回答を受け、ドラクール達は異議を申し立てたりしなかった。


 再現性が高いと言うところに当てはまらないということは、自分が特別であると思われていると考えられるから、わざわざその優越感を自ら捨てる者はいない。


 ビヨンドカオスはレギネクスとフロストパンツァー、アンフェアリッチを素材とした融合フュージョンアンデッドだ。


 レギネクスは融合フュージョンアンデッドのレギランプが2回進化した姿であり、元々はレギオンとデッドリーキャンドルを素材としている。


 フロストパンツァーはフロストキャリッジが2回進化した姿であり、元々はスカルキャリッジとボックスイーター、ペイルゴーストを素材としている。


 アンフェアリッチは融合フュージョンアンデッドではなくリッチの特殊進化だから、ビヨンドカオスの素材となったアンデッドモンスター達は掃除屋が含まれていないので、その意味で再現性が高いということだ。


「再現性が高いって言ってたのにビヨンドカオスを出してくるあたり、鬼童丸がいかに段違いなのか思い知らされたよ」


「そういうヤミはどうなんだ?」


「再現性の高さを考慮するとゲイザリオンかな。実力だけで選ぶならヴィラ一択だけど」


 ちゃんとヴィラについてもフォローしたのは、嫉妬を司るヴィラに嫉妬されたくないからだ。


 宵闇ヤミの場合、自我のある従魔がヴィラだけだからヴィラを選びたかったけれど、鬼童丸のことを配慮できていない質問の仕方をしてしまったから、自分の回答をヴィラに配慮した形で変更した。


 ヴィラも再現性が高いと思われていないことに優越感を抱いたらしく、宵闇ヤミに対して異議を申し立てることはなかった。


 ゲイザリオンの素材だが、融合フュージョンアンデッドのゲイザスと通常アンデッドモンスターのデッドトレントだ。


 ゲイザスはレギオンとキングゴブリンゾンビが素材なので、このレシピもまた掃除屋が含まれていないという意味で再現性が高いと言えよう。


「ヴァルキリーはどう?」


「再現性が高くて強いって条件が難しいよね。実は私ってその条件に当てはまる融合フュージョンアンデッドっていないんだ。ファントムホークなら私以外にも使役してる人っているから、再現性は高いけど火力の観点で言うとやや不足気味だし」


 それこそファントムホークは鬼童丸の師匠であるタナトスも移動手段として使役しているが、タナトスにとってファントムホークは主戦力ではない。


 そう考えると、ヴァルキリーの従魔では強欲を司るネクロノミコンの強化に力を入れて来たのだとわかる。


 他に使役しているエンドガルムやメディレイスは融合フュージョンアンデッドではないので、今回の質問におけるヴァルキリーの回答はあまりヤミんちゅ達のためになるとは言えない。


「ネクロノミコンはいっぱい融合フュージョンしたんだっけ?」


「うん。かれこれ6回ぐらいしてるかも。ちょこちょこレアなアンデッドモンスターも素材にしたね」


「あー、それは再現性が高いとは言えないかもね。リバースはどうかな?」


「俺だったらグラッジドラゴバイクかな。ファンタズマは再現性が低いし」


 グラッジドラゴバイクは灰色の地龍を模ったバイクの見た目をしていて、その融合フュージョン素材はグラッジレックスとスカルワイバイクだ。


 グラッジレックスはアッシュレックスとグラッジミキサーを素材としており、アッシュレックスとグラッジミキサーはそれぞれ掃除屋ではないアンデッドモンスターが素材である。


 スカルイワイバイクだが、スケリトルワイバーンとスカルバイクが素材だ。


 こちらも掃除屋はいないから、再現性の高いレシピなのは間違いない。


「グラッジドラゴバイクって見たことないんだけど、ドラゴン要素があるから飛べたりするの?」


「自由に空を飛ぶって意味での質問なら答えはNOだな。ただのグラッジバイクとは比べ物にならない速さだし、衝突してもブレない安定感もあれば攻撃できるアビリティもあるから戦力にもなる。スピードとパワーを兼ね備えたグラッジドラゴバイクは良いぞぉ」


「唐突な早口で草」


「ええじゃないか」


 リバースはリアルでもバイクを持っており、UDSでもグラッジドラゴバイクを誕生させたことでバイクに乗れて大喜びしていた。


 それゆえ、その喜びのせいで早口で布教してしまったのだ。


 宵闇ヤミ達が自分のイチ押しレシピを発表した後、まだ融合フュージョンフェーズの時間が半分以上余っていたから、宵闇ヤミは次のトークテーマに移る。


「じゃあ、ここで3人の予想を発表してもらおうかな。ヤミんちゅ達はどんな融合フュージョンアンデッドを誕生させると思う? 今度は逆順で訊いちゃおう。リバースから答えてね」


「おっと、俺からか。そうだなぁ、ウルピールとかじゃね? 鬼童丸がレンタルタワー攻略戦で使ったから人気だと思う」


「「それはそう」」


「2人共肯定が早いんだわ」


 鬼童丸大好きな宵闇ヤミとしては、鬼童丸が使う従魔は人気というリバースの読みを肯定しないはずがない。


 ヴァルキリーもシンクロして頷いているあたり、鬼童丸は今日も宵闇ヤミとヴァルキリーからアピールされている。


 実際、鬼童丸を機会があれば自分も鬼童丸の使役した従魔を使役したいと思っているプレイヤーは多く、鬼童丸を見守るスレでは鬼童丸の従魔に対して考察する者が後を絶たない。


 リバースが苦笑するけれど、宵闇ヤミもヴァルキリーもこれが平常運転だから、コメント欄のヤミんちゅ達は特にざわついたりしない。


「やれやれ、なんで当然のことを言ってるのやら。それよりも、ヴァルキリーはどんな融合フュージョンアンデッドが提出されると思う?」


「私はコープスキマイラも出て来ると見てるよ。掃除屋のコープスキマイラだけど、掲示板で融合に成功したって投稿してる人がいたから」


「なるほどね。掃除屋を使役できるなら使役したいって考えたい人もいて当然か」


 ヴァルキリーの情報はかなり新しいもので、コープスキマイラが実は融合フュージョンアンデッドで融合フュージョンでも入手可能と報告されたのは今日の夕方のことだ。


 目敏いプレイヤーならその情報も入手しているだろうから、ヴァルキリーの着眼点は大したものである。


 ちなみに、ヴァルキリーがコープスキマイラと予想した時に何人かのヤミんちゅがピクッと反応したことから、本当にコープスキマイラの融合フュージョンを狙っているのだろう。


 そして、次はいよいよ鬼童丸が予想を答える番だ。

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