第189話 清濁併せ吞まなきゃ守れるものも守れない。世知辛いね
オノスケリスの顔色が真っ青になったところで、久遠は更なる圧をオノスケリスにかけていく。
「オノスケリス、さっきまでの威勢はどうした? 勝手に突っかかって来たくせに身の程を知ったらブルブル震え上がっちゃったのか?」
「だ…れ…が…」
口を動かそうとするが、ここから戦って勝てるビジョンが見えなかったようでオノスケリスは上手く喋れずにいた。
その時、久遠達の上空の地獄の門が閉じられ、それと入れ替わるようにして久遠達の正面に地獄の門が出現した。
門の中から現れたのはデビーラとタナトスであり、久遠を見て待ったをかける。
「鬼童丸、ストップよ」
「鬼童丸、そこまでにしてくれ」
「デビーラとタナトス? こんなところにいて大丈夫なのか?」
自分達よりも忙しいであろうデビーラとタナトスに対し、久遠は当然の疑問をぶつける。
「優先度の問題でこちらに来た。オノスケリスを殺すと引き出したい情報が引き出せない。このまま私達にオノスケリスの身柄を預けてくれないか?」
「戦う手間が省けるなら別に構わない」
「助かる」
タナトスがそういったのと同時にデビーラがオノスケリスの背後に周り、ストンと手刀を入れてオノスケリスの意識を刈り取った。
それからすぐに桔梗と寧々が合流し、久遠達はデビーラとタナトスに連れられてデーモンズソフトまで移動した。
デーモンズソフトまで移動したらタナトスがオノスケリスを連れて行き、久遠達はデビーラに連れられて社長室へと移る。
ドアをノックすれば、中にいるパイモンが許可して久遠達は社長室に入った。
「鬼童丸と宵闇ヤミ、ヴァルキリー、獄先派の侵攻による被害を最小限にしてくれたこと、それから特務零課が移動中に全て終わったことを知った時の微妙な表情を見せてくれる副産物までくれたことを感謝しよう」
「前者については素直に受け取るけど、後者については知らん。相変わらず性格悪いな」
「しょうがないじゃないか。だって我は悪魔なのだから。さて、不味い事態になったので、鬼童丸達には出張先から急いで戻って来てもらった」
「不味い事態?」
パイモンがはっきりと不味い事態なんていうものだから、久遠達は何か危機的な事態になってしまったのではないかと唾を飲み込んだ。
久遠達に聞く態勢ができているから、パイモンは勿体ぶらずに説明する。
「親人派の戦える半魔が軒並み殺されてしまったんだ。プレイヤー達の師匠で生き残っているのは、ここにいる3人の師匠とリバースの師匠だけだ。しかも、まともに動けるのはタナトスだけだね」
「急過ぎじゃないか? 今までそんなことはなかったはずなのに、一体どうしてそんなことになったんだ?」
戦力が減るにしても急激にごっそりと減った訳だから、久遠はその原因について訊ねた。
桔梗と寧々も自分達の師匠とリアルで会ったことはないが、知らない仲ではないのでどうしてそんなことになってしまったのか訊きたくて頷く。
「アリトンだよ。我にとっても予想外なことだったのだが、アリトンがわざわざ出張ってこちら側の戦力を削りに来た。タナトスにはベルヴァンプとデビーラがついていたから、まともに戦うと時間のロスになると思って撤退したそうだ」
「アリトンが直々に手を下すか。獄先派の手が足りなくなったから?」
「足りないことはないはずだが、アリトンは徹底的に実力主義だ。使えないと思った悪魔は殺しているせいで、結果的に足りなくなったという可能性はある。それで自身の立てた作戦を遂行するため、他の悪魔に頼らず自ら動いたと考えれば頷けるね」
「敵に厳しいのは当たり前として、味方にも厳しいとは獄先派もやりづらいだろうに」
久遠はアリトンのやり方に苦笑するしかなかった。
規模や内容は全然違うけれど、アリトンは社会人でいう他人を信用できないが仕事はできてしまうタイプである。
他者を巻き込むことで自分の思い描いていたプランとズレるなら、自らの力で強制的に進めていくパワープレーを行っている。
そのやり方ではいずれ限界を迎えるのだが、アリトンのスペックが高過ぎて成立してしまっているからこそ、久遠は苦笑したのだ。
「まあ、そういう訳で我としても色々と本筋の計画を立て直さねばならなくなった。だから、そこそこ強くて情報を持っている悪魔は生きたまま捕えたくてね。鬼童丸が始末する前に介入させてもらったんだ」
「別に俺が始末したくて仕方なかった訳じゃないぞ。倒す手間が省けたのは良いことだと思ってるし」
パイモンの中で自分が悪魔絶対殺すマンのイメージを持たれている気がしたため、久遠はそんなことないんだと否定した。
そんな久遠を見てパイモンはニチャアと笑身を浮かべる。
「わかっているとも。そこまで好戦的な人間なら、宵闇ヤミとヴァルキリーを両方抱いて自分のものだとわからせるぐらいの強気な態度になるだろうからな」
(おい、余計なこと言うんじゃねえよ)
しれっとパイモンがとんでもないことを言ったもんだから、桔梗と寧々の目が獲物を狙う狩人のそれに変わった。
2人から感じる視線をスルーして、自分に対して怒りの感情を向ける久遠を見てパイモンは嬉しそうだ。
「美味である。やはりこの三角関係はまだまだ擦れるね」
「くだらねえこと言ってないで仕事しろ」
久遠が冷めた目をして言えば、パイモンは仕方ないなと本題に戻る。
「そういう訳で、今はオノスケリスから状況を引き出しているところではあるが、親人派の戦闘員が減ってしまったことから今まで以上に日本でも地獄の門が開くことになるだろう。そこで、我も本来はもう少し先だった対策を前倒しすることにいた」
「どんな対策?」
「UDSプレイヤーに量産型の従魔のカードを配る。本当はもう少しプレイヤー達を鍛えたかったが、そこまでの余裕はなくなってしまった。ゆえに、UDSを通してプレイヤー達にカードを1枚ずつ渡し、近所で地獄の門が出現して獄先派が現れた時には自衛してもらうことにした」
「そうしなければ被害は増えるばかりか」
「その通り」
パイモンが社長室にあるモニターの電源をオンにすれば、そこには特務零課が茨城県でアンデッドモンスター達と戦っている中継が放映されていた。
久遠達が三県境に現れた敵を一掃したのとは別に、新たに地獄の門が出現してアンデッドモンスター達が茨城県に現れたらしい。
三県境の件で途中まで移動していたから、茨城県に向かうのはそこまで時間がかからなくなったのだ。
「今は茨城県だけだとしても、今後一気に複数の場所で地獄の門が出現しないとも限らないか」
「そうさ。どう考えても特務零課の3人だけは厳しいし、鬼童丸達には死んでしまった社員達の代わりにタナトスを助けてもらいたい。それと個人情報までは載せないが、鬼童丸達を広告塔にした上で、プレイヤー達の力を前倒しで借りることにする。幸い、今までに倒した獄先派の悪魔達のリソースがあるから、量産型カードの作成は順調に進んでるよ」
そこまで聞いて久遠は気分が悪くなった。
「冷静に考えてみると倫理もへったくれもないな。それに俺達を広告塔にして戦力を補充するなんて」
「獄先派だってアマイモン=レプリカを生み出すのに手段を選んでいない。親人派が守りたいものを守るには四の五の言っていられないのさ。すまないがそのつもりでいてくれ」
「清濁併せ吞まなきゃ守れるものも守れない。世知辛いね」
「そもそも、悪魔に清濁なんて概念はないことを鬼童丸達は理解するべきだ。人間として忌避感があることかもしれないが、敵を知らなければやられるのは自分達だ。それはわかるだろう?」
パイモンの言う通りだ。
この状況下で潔癖症を気取り、自分達だけは綺麗でいたんだと主張したところで守りたいものを守れないのなら意味がない。
むしろ、敵を知らなければ思わぬ方法であっさりやられてしまうのだから、腹を括る必要があると言えた。
「理解してるよ。それで、他のプレイヤー達へのカード配布とメディアでの告知はいつやるんだ?」
「メディアへの告知は警察を通して行う予定だ。おそらくそろそろニュースでも報道されるだろう。立ち位置的には特務零課を支援する自警団のようなものだね。他のプレイヤー達へのカード配布はこれからオフィシャルサイトの掲示板で告知して行う。とりあえず、鬼童丸達には自宅に戻って休んでもらうよ。休める時に休まないといざって時に動けないからね」
まったくもってその通りだから、久遠達はデビーラに地獄の門を開いてもらって帰宅した。
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