第165話 クックック。これだから人間は面白い
好奇心は猫を殺す。
この言葉の意味を思い出した時、久遠の両サイドに目のハイライトの消えた桔梗と寧々が立っていた。
「久遠、私がいるのにどうしてそんな質問するの?」
「久遠さぁ、彼女の前でその質問をするのは浮気と一緒だと思うの」
「くっ、ポップコーンとコーラはないのか!」
「我も偶にはポップコーンとコーラを食べたくなって来たぞ」
(お前達は結託するんじゃない! ムカつくから!)
ヤンデレムーブする桔梗と寧々に挟まれた久遠を見て、徹とパイモンはニヤニヤしている。
それが腹立たしくてジト目を向ける久遠だったが、徹もパイモンも全く気にしていない。
自力でこの場をどうにかするしかないから、久遠は桔梗と寧々の顔を交互に見ながら弁明し始める。
「悪魔は味方であると同時に敵でもあるんだ。作戦を練る上で知らないよりも知っていた方が何かの役に立つかもしれない」
「そうだね。これでドラクール達も危険だってよくわかったよ」
「そうね。桔梗さんなんかよりもドラクールの方がよっぽどライバルだってわかったわ」
「それはこっちのセリフなんだけど」
このままでは言い合いが激しくなりそうだから、久遠は急いで待ったをかける。
「いい加減にしてくれ。こんな時に身内が揉めてどうする」
「「はーい」」
身内という言葉を聞き、桔梗も寧々もおとなしく引き下がった。
久遠から身内認定してもらえたから、両者とも今のところはこれで我慢しておくべきだと頭を働かせたのだ。
それから、久遠はパイモンに中断していた質問を再開する。
「パイモン、話が脱線したからおさらいも兼ねて質問する。悪魔とアンデッドモンスターの違いは知能の有無と人間と同様に睡眠、食事、生殖の可否で良いか?」
「肯定する。大罪武装と枢要武装を持つ従魔は悪魔で、それ以外はアンデッドモンスターの枠を出ない操り人形のようなものだ。ただし、スロッカースに従属したアイナスは例外だね。あれは悪魔のくせに自らスロッカースの従魔になったから」
そう考えると利根川もなかなか特別な存在かもしれない。
彼も久遠とは違う形でイレギュラーな事態を引き起こしている。
「じゃあ、量産品の従魔はドラクール達と違って自ら考えて行動することはない。その認識で合ってる?」
「それも肯定するよ。シェディムとの戦いでドラクール達が鬼童丸を守ろうと自ら動いたが、そんなことを量産品の従魔に期待しても無駄だ。悪魔にならなきゃそんなことはできないね」
「ということだ。3人は大罪武装持ちの従魔と今貰った従魔を同じに考えないように」
「「「了解」」」
真面目な話をしているから、桔梗も寧々も既に頭を切り替えてちゃんと話を聞いていた。
その時、会議室のスクリーンに映るニュースで画面が変わって速報が入って来た。
タナトスがリモコンを操作して小さくしていた音を大きくする。
『速報です。東京タワー付近で目撃された謎の生命体ですが、高輪ゲートウェイ駅で暴れ回っているそうです。現場の
『こちら、現場の速水です! 私達は今、高輪ゲートウェイ駅上空からヘリで撮影しておりますが、見たことものない生命体が高輪ゲートウェイ駅の前で暴れております!』
報道ヘリから撮影された映像がアップされ、高輪ゲートウェイ駅前で暴れているアンデッドモンスターがいた。
「グラッジブリルよね?」
「あれは野放しにしちゃ不味いだろ」
以前使役していたことから、真っ先に桔梗がスクリーンに映ったアンデッドモンスターの名前を言い当てた。
徹はグラッジブリルが野放しになっていることにより、高輪ゲートウェイ駅がどうなるか想像して放置できないだろうと立ち上がる。
久遠もデビーラに相談する。
「デビーラ、カメラの死角に地獄の門を繋げられないか?」
「できなくはないけどどうするつもり? まさか、中継されてる場所でヒーローになりたいって訳でもないんでしょ?」
「そりゃね。だから、こっそり始末したい。あいつを地獄の通路に引き込んだらどうだ?」
「なるほどね。やってみる価値はありそう。じゃあ、早速行きましょうか」
デビーラが地獄の門を開いてその中に入れば、タナトスがその後を追いかけ、久遠達もその後に続く。
ショートカットして目的地が近づいたら、デビーラが高輪ゲートウェイ駅付近に地獄の門を開く。
地獄の門を開いたのは上に屋根がある場所で、グラッジブリルが周囲にある物を壊して回っていた。
「
久遠がアビスドライグを召喚した理由だが、【
グラッジブリルはアビスドライグの存在に気づき、久遠の狙った通りに地獄の門の中に駆け込んで来る。
「デビーラ、門を閉めてくれ。みんな、こいつをさっき貰った従魔のサンドバッグにするぞ」
「
「
「
4対1の状況に誘い込んだら、久遠は今回サポートに徹するつもりで動く。
「アビスドライグ、【
「了解でござる」
グラッジブリルはアビスドライグの【
「グレスレイプ、【
「エンドガルム、【
「エルダーリッチ、【
動きの鈍いグラッジブリルは久遠の言った通りにサンドバッグと化し、あっという間に力尽きた。
『アビスドライグがLv64からLv66に成長しました』
パイモンの声がアビスドライグのレベルアップを告げるが、UDSと違ってグラッジブリルはカードになったりしない。
原形を留めていないグラッジブリルを見て、久遠はこれがゲームではないことを再確認した。
それと同時に気になることがあり、タナトスに質問してみる。
「タナトス、地獄で敵を倒した時って放置して良いんだよな?」
「構わない。力尽きた悪魔やアンデッドを放置すると、しばらくして地獄に吸収される」
「地獄に吸収される? なんで?」
「詳しい原理は私もわからないが、師匠の話では地獄を構築するリソースに変換されるらしい。ちなみに、動いている物体を吸収することはないそうだから、私達が突然地獄に吸収されることはない」
よくわかっていないことを説明しろというのも無理な話だから、久遠は吸収されるのが動かない死体だけだと理解して質問を止めた。
デーモンズソフトに戻る途中、久遠は桔梗達に訊ねる。
「従魔達はどうだった? 違いは感じた?」
「何がどうとは説明できないけど、繋がりみたいなものが感じられなかったかな」
「わかる。ロボットに命令してる気分だった」
「こりゃ攻撃する時に何処を狙えってちゃんと指示した方が良いな。ファンタズマなら俺の狙いを推し量ってくれるけど、エルダーリッチはそんなことできないみたいだし」
量産品の従魔を使役していない久遠にはわからないが、桔梗達は大罪武装を持つ従魔と量産品の従魔の両方を使役しているから、感覚的に違いが掴めたようだ。
デーモンズソフトの会議室に戻ったら、パイモンがにこやかに久遠達を迎え入れる。
「ご苦労様。日本のアナウンサーって意外と思い切りが良いね。鬼童丸達がグラッジブリルを引き付けた後、地上に降下して現場で報道してたよ」
「それは速水アナだけだろ。あの人って新人歓迎会で度胸だけなら誰にも負けないって言って、その証明としてグラスに並々の青汁を一気飲みしたって前に番組で言ってたから」
「クックック。これだから人間は面白い。アリトンにはそれがわからないのが残念でならないよ」
一体どこで人間の価値を認めているんだとツッコみたくなったが、過去に遡って面白い人間がいなければ親人派の悪魔は現れなかっただろうから、久遠は複雑な気持ちになった。
それはそれとして、久遠はふと疑問が生じたからパイモンに訊ねる。
「現世と地獄の次元融合が起きたって話だけど、明日以降もこんな感じで地獄から侵攻があるのか?」
「鬼童丸達が現世で、タナトス達が地獄で活躍してくれたから、アリトンは日本以外から侵攻し始めるだろう。奴は頭が切れるから、日本より簡単に落とせる場所があればそちらから落とすはずだ。今日は一旦解散とする。リバース、君の家は安全とは言い難い。空き部屋を私が確保したから、今日中に鬼童丸の住むマンションの301号室に引っ越すのだ。荷運びは社員が協力する」
「え? 急過ぎるだろ」
「急でもなんでも安全な場所で休む方が良いだろう?」
「マジかよ」
唐突な提案、というよりも強制的な命令だったが、パイモンの言い分に頷けるところがあったから、徹は久遠達が住むマンションの301号室に引っ越しすることにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます