第17章 Assault

第161話 さあ、経験値稼ぎを始めようか

 デーモンズソフトの社員が出したワゴン車に乗り、東京競馬場に移動した久遠達は建物の中まで入った。


 結界の中は地獄と同じような環境になっているから、幼女サイズや手乗りサイズだった従魔達が元のサイズに戻った。


「外の人達って全部デーモンズソフトの社員だろ? 結構いるんだな」


「打合せの時に聞いた限りでは、あまり戦闘向きな人はいないみたいだけどね。だからこそ、親人派なんだろうけど」


 桔梗は久遠の独り言を拾って会話に繋げる。


 そこに続くのは寧々だ。


「久遠、今日は私も戦うから」


「その方が助かるけど大丈夫か?」


「大丈夫。こんな時が来ても良いように、ネクロノミコンをLv60までレベル上げしたから」


「おぉ、ヨモミチボシと同じレベルまで上がってる。やるじゃん」


 寧々はネクロノミコンが大罪武装を手に入れてからは、ネクロノミコンのレベル上げを中心に行った。


 無論、師匠のセケルからネクロノミコンだけ育てるのではなく、他の従魔も育てるようにとチャレンジクエストを貰ったりしたから、ネクロノミコン程ではないが他の従魔のレベルも50代まで育っている。


 久遠が寧々を褒めれば、当然のことながら桔梗も張り合う。


「私だってヴィラがLv60まで育てたよ」


「桔梗さんもLv60か。そりゃありがたい。徹は?」


「すまん、ファンタズマはLv58だ」


「十分だ。おっと、来たっぽいぞ」


 巨大な地獄の門が開き、その中からまずはアンデッドモンスターの軍勢がぞろぞろと姿を見せる。


 悪魔の姿はまだ見えないけれど、きっと軍勢の奥に控えているのだろう。


「さあ、経験値稼ぎを始めようか」


 久遠がアイコンタクトをすれば、リビングフォールンが【栄光舞踏グロリアダンス】を発動して味方にはバフを、敵にはデバフを与える。


 味方の能力値が引き上げられたのを確認した後、アビスドライグが【暴君威圧タイラントプレッシャー】で更に敵軍の動きを鈍らせる。


 ここまでの流れは、久遠が事前にリビングフォールンやアビスドライグと打ち合わせて決めていた。


 これでも敵がまだ脅威だと判断で来たら、ヨモミチボシが【気分空間テンションスペース】を使うことになっていたけれど、今は十分だからヨモミチボシには【憎悪砲弾ヘイトシェル】を放つよう合図を出す。


 【憎源変換ヘイトイズエネルギー】で溜まっていたエネルギーの一部を使って放てば、敵の軍勢の中心に命中して爆発して多くの敵を巻き込んだ。


 この3連コンボにより、アンデッドモンスターの軍勢が消し飛んだ。


「チッ、全然ダメダメじゃねーか」


「使えねー奴等だぜ」


「ハズレ引いたか?」


「これも流浪の隠者と拳骨戦車のせいだ」


 (流浪の隠者はタナトスだとして、拳骨戦車ってデビーラのことか?)


 タイミングを考えれば、タナトスと共に名前が出て来るならデビーラだから久遠はそのように判断した。


 それはそれとして、現れた4体の悪魔にツッコミどころがあった。


「量産型悪魔か? そっくりじゃん」


 誰もがそう思ったことを口にしたのは徹だった。


 その指摘は彼等にとってはNGワードだったようでどの悪魔もブチギレた。


「量産型悪魔なんかじゃねえ! 俺が拳のブラッディ!」


雑魚モブと一緒にするな! 俺が脚のバーミリオン!」


「違いに気づけない奴は許せねえ! 俺が鎧のワイン!」


「舐めた口を利いた奴から噛み殺す! 俺が牙のスカーレット!」


「「「「全員揃って赤悪魔隊レッドデーモンズ!」」」」


 無駄に決めポーズまで披露する赤悪魔隊レッドデーモンズだが、ぶっちゃけ見た目がほとんど変わらないから見分けがつかない。


 (獄先派にも徒党を組む奴等がいたんだな)


 決めポーズとかどうでも良いと考えているため、久遠は獄先派の悪魔の癖に群れていることに驚いていた。


 それでも、倒さなければならない敵がいるのは間違いないから、久遠は頭を切り替えて桔梗達に声をかける。


「誰がどれと戦う? 俺は余った奴で良いぞ」


「それなら私が鎧のワインをやる」


「私は牙のスカーレットかな。拳と脚より遅そうだし」


「んじゃ、俺は脚のバーミリオンだ」


「余りは拳のブラッディか」


 久遠達が戦う相手の割り振りを決めた時、桔梗が選んだ鎧のワインと寧々が選んだ牙のスカーレット、徹が選んだ脚のバーミリオンは相手に指名されたから良かった。


 ところが、拳のブラッディは沸点が低いらしく、久遠に余り扱いされてキレる。


「許せねえ! 余り扱いなんて許さねえからな!」


「見た目が変わらなくてわからん。挨拶以外の違いを見せてみろよ」


「きぃぃぃぃぃさぁぁぁぁぁまぁぁぁぁぁ!!」


 完全にキレた拳のブラッディは【破壊正拳デストロイストレート】を発動して突撃して来る。


 そんな拳のブラッディの動きは見切りやすいから、久遠はドラクールに指示を出す。


「ドラクール、【極限打撃マキシマムストライク】で迎え撃て」


「かしこまりました」


 物理攻撃のアビリティで冠するワードとして、怪力パワー剛力メガトン破壊デストロイの次に極限マキシマムがある。


 その時点で【破壊正拳デストロイストレート】と【極限打撃マキシマムストライク】が正面からぶつかれば後者が勝つ。


 更に能力値もリビングフォールンの【栄光舞踏グロリアダンス】の効果で上がっているから、ドラクールが負ける可能性は皆無だ。


 実際にドラクールのフルスイングが拳のブラッディの拳とぶつかり、アビリティの威力やレベル差による補正もあった。


 結果として、拳のブラッディの拳が砕かれただけでなく吹き飛ばされ、背中から地面についた拳のブラッディは二度と起き上がらなかった。


「「「ブラッディィィィィィ!」」」


 残り3体の悪魔達が拳のブラッディの死を嘆くが、ネタにしか見えない。


 拳のブラッディを倒したドラクールに対し、3体の悪魔達がドラクールに向かって飛んで来る。


「美味ですね。エネルギーを消費したところだったから丁度良いです」


 ヨモミチボシは集まったヘイトをエネルギーとして確保し、満足そうに静かな笑みを浮かべる。


「ヴィラ、【極限飛斬マキシマムスラッシュ】よ」


「ネクロノミコン、【緋霊降雨スカーレットレイン】をお願い」


「ファンタズマ、【十字飛斬クロススラッシュ】だ」


 頭に血が上ったまま、拳のブラッディの仇を討つべくドラクールに釣られて攻撃を仕掛ける3体の悪魔に対して桔梗達の指示で従魔達が動く。


 通常時であれば対処できたかもしれないが、頭に血が上ってしまって判断力が落ちているから、3体の悪魔達はヴィラ達の攻撃を受けてしまう。


 ただし、Lv90のドラクールと比べてレベル差が30あるから、ヴィラ達が一度攻撃しただけでは3体の悪魔達を倒し切れなかった。


 今の攻撃で頭が冷えたらしく、脚のバーミリオンがファンタジスタを、鎧のワインがヴィラを、牙のスカーレットがネクロノミコンをターゲットにして攻撃を始める。


 脚のバーミリオンは【破壊蹴撃デストロイシュート】を発動してファンタズマを攻撃するが、ファンタズマは【弾返反撃パリィカウンター】で脚のバーミリオンの攻撃を盾で弾き、反対側の手で握る剣で攻撃した。


 脚のバーミリオンも二度目の攻撃で力尽きてしまい、敵の残りは2体になった。


 鎧のワインは【反撃魔鎧カウンターアーマー】を発動し、接近攻撃された時に自分が受けたのと同じダメージを与える準備を整えた。


「ヴィラ、接近しなければ問題ないわ。【極限飛斬マキシマムスラッシュ】で押し切っちゃって」


 【反撃魔鎧カウンターアーマー】を発動して余裕ぶっていた鎧のワインは、首筋に飛んで来た【極限飛斬マキシマムスラッシュ】で首を刎ねられてしまい、そのまま倒れて動かなくなった。


 牙のスカーレットは殺意の高い【死毒噛デスバイト】を発動したが、ネクロノミコンは【青霊氷結ブルーフリーズ】で嚙みつこうとして来た牙のスカーレットを凍えさせた。


 動けない敵なんてただの的だから、寧々は続けてネクロノミコンに指示を出す。


「ネクロノミコン、【緋霊降雨スカーレットレイン】で終わらせるわよ」


 【緋霊降雨スカーレットレイン】が全弾命中し、凍っていた牙のスカーレットはバラバラになって力尽きた。


 敵が全滅してこの場に追加で現われる者がいなくなったからか、地獄の門が閉じられて消えた。


『ドラクールがLv90からLv92に成長しました』


『アビスドライグがLv50からLv60に成長しました』


『アビスドライグの【暴君威圧タイラントプレッシャー】と【重力踏撃グラビティスタンプ】が【暴君重力タイラントグラビティ】に統合されました』


『アビスドライグが【雷付与サンダーエンチャント】を会得しました』


『リビングフォールンがLv60からLv68に成長しました』


『リビングフォールンの【破壊蹴撃デストロイシュート】が【極限蹴撃マキシマムシュート】に上書きされました』


『ヨモミチボシがLv56からLv64に成長しました』


『ヨモミチボシの【気分空間テンションスペース】と【重力眼グラビティアイ】が【重沈黙眼ヘビィアイ】に統合されました』


『ヨモミチボシが【飢餓眼ハンガーアイ】を会得しました』


 (この戦いも経験値が手に入るのか。もうリアルなんだかゲームなんだかわかんないな)


 ここ最近は現世でも悪魔と戦い、その度に経験値を獲得しているから久遠はそのように感じた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る