第149話 どうしてこうなった

 転移魔法陣を設置した後、タナトスは鬼童丸を労う。


「よくやったな。ヘルストーンを持った害悪ネクロマンサーなんてイレギュラーもあったが、チャレンジクエストの条件を守り抜いた。大罪武装なしでこの戦果を挙げられるなら文句なしだ」


「そう言ってもらえて良かったよ。ところで、カード化した中立派の残党ってどうすれば良いの? 融合フュージョンの素材にしちゃって良いのか?」


「サラッと悪魔よりも怖い発言をするな。私に譲ってくれるならば、特別に各種ブースターⅢ型1セットと交換しても良い。1体につき1セットだ」


「マジ? それなら交換するわ」


 鬼童丸はノジークとニナスのカードを引き渡し、各種ブースターⅢ型を2セット貰った。


 それから、一度アビスドライグとビヨンドカオスを送還し、代わりにリビングフォールンとヨモミチボシを召喚した。


「私の出番~?」


「おやつの時間ではなさそうですね」


 「ブースターをあげようと思ってな。リビングフォールンもヨモミチボシも実体化できるから」


「わ~い、ありがと~」


「ありがとうございます。これはこれで良い物です」


 各種ブースターⅢ型はもう1セットあるが、誰に使うかはある程度決まっているのでキープし、鬼童丸はドラクールも召喚した。


「マスター、お呼びでしょうか?」


「ああ。憂鬱か虚飾の専用武装が手に入るか今から確かめる。一緒に見守ってくれ」


「かしこまりました。マスターならきっと大丈夫だと私は信じております」


 ドラクールは優しく微笑みながら鬼童丸の手をそっと握った。


 それを見た瞬間、リビングフォールンとヨモミチボシもドラクールに対抗する。


「ドラクールばっかり狡い! マスター、私も応援してるからね!」


「マスター、私のことも忘れてはなりませんよ」


 リビングフォールンは鬼童丸に背後から抱き着き、ヨモミチボシは鬼童丸のローブを摘まんで自分の存在を控えめにアピールした。


 従魔に取り囲まれる鬼童丸を見て、タナトスは少し心配になる。


「鬼童丸、宵闇ヤミやヴァルキリーに女誑しと言われぬよう気を付けた方が良いぞ」


「誑かしてるつもりは1ミリもないんだけどなぁ。それよりも、専用武装交換チケットを使いたい」


「わかった。目当ての物があると良いな」


 鬼童丸の返事を聞き、タナトスは現在交換可能な専用武装をショップの画面を通じて紹介する。



○専用武装

 ・アビスドライグ専用武装:憂鬱深淵龍鎧メランコリーオブアビスドライグ

 ・ビヨンドカオス専用武装:爆魔杖ばくまじょうエクスプロム

 ・イミテスター専用武装:激流砲げきりゅうほうソウソウ

 ・ミストルーパー専用武装:双静銃そうせいじゅうメイスイ

 ・ダイダラボッチ専用武装:鬼哭刀きこくとうチェスト

 ・ベキュロス専用武装:双蛇拳そうじゃけんアウン

 ・メディーパ専用武装:活注射かっちゅうしゃエイヨウ



「よっしゃ憂鬱来た! でも鎧!?」


「おめでとうございます」


「やったね~」


「当たったのなら細かいことは良いのです」


 鬼童丸がアビスドライグの専用武装に憂鬱の文字を見つけたが、予想とは異なって槍の方ではなく鎧が専用武装になっていた。


 ドラクール達は鬼童丸の予想とは違う形で憂鬱の専用武装が表示されたことを知ったが、鬼童丸を守るメンバーが手厚くなるのは良いことなので喜んだ。


「ふむ、まさかこうなるとはな…」


「その含みのあるリアクションはどゆこと?」


「説明は後でするが、まずは現物を見てもらった方が良いだろう。鬼童丸、憂鬱深淵龍鎧メランコリーオブアビスドライグを交換するか?」


「勿論だ」


 鬼童丸が頷けば、専用武装交換チケットと憂鬱深淵龍鎧メランコリーオブアビスドライグが交換され、強制的にアビスドライグのヨモツドラゴンアーマーが憂鬱深淵龍鎧メランコリーオブアビスドライグに変更された。


 どんな外見になったか確かめるべく、鬼童丸はアビスドライグを召喚してみる。


召喚サモン:アビスドライグ」


 召喚されたアビスドライグだが、黒い龍人甲冑という点では変わらなかったが、明らかに変わった点があった。


 それは女性用の甲冑だったということである。


「どうしてこうなった」


「うぅ、拙者は女子おなごになってしまったでござる…」


 (拙者? ござる? そういう感じのキャラだったの?)


 色々とツッコミどころがある展開であり、これには鬼童丸も困惑してしまう。


 そこにタナトスが補足する。


「アビスドライグだが、バフォメットの【入替土産シャッフルスーヴェニア】のせいで性別が変わってしまったんだ。ガーゴイルを倒した時に不審な点はなかったか?」


「…そういえば、怪しく光ってからカードになった」


「それが【入替土産シャッフルスーヴェニア】だ。やられる時に最もヘイトを稼いだ敵の性別や性格、能力値等の項目からランダムに選ばれたものが永久に入れ替わる効果を持つ嫌がらせのためのアビリティだよ」


「それでは拙者はこの先ずっと女子でござるか?」


「残念だがそうなる」


 タナトスの説明を聞き、アビスドライグは膝から崩れ落ちた。


 バフォメットを倒せば元通りになるという訳ではないあたり、本当に嫌がらせとしか言えない。


「アビスドライグ、まあ、その、なんだ、元に戻る以外ならなんだって相談してくれ。話は聞くから」


「拙者の願いは男に戻ることだけでござるよ」


「バフォメットは余計なことをしたように思うかもしれないが、ある意味よくやってくれたとも言える」


「どゆこと?」


 バフォメットの予想外な嫌がらせのせいで、鬼童丸の頭は上手く動いていない。


 それゆえ、タナトスが何を言いたいのかわからず首を傾げた。


「従魔が実体化するには条件がある。その内の1つに、女型になれることという条件が設けられてる」


「なんで? いや、女装好きのパイモンの趣味か?」


「おそらくその通りだ。女型の方がイラスト担当もやる気が出るだろうと師匠は言っていたが、私も師匠の趣味だと思っている」


「屈辱でござる。拙者は力は欲すれど女子になりとうはなかったでござる。腹を切るでござるよ」


 アビスドライグは硬派な性格だったようで、軟弱な姿になってしまったと嘆いて切腹しようと試みる。


 それは困るから鬼童丸が待ったをかける。


「待て、アビスドライグ」


 マスターからの命令ということで、アビスドライグは絶縁槍カイシャクでの切腹を思い止まる。


 動きを止めたアビスドライグと視線を合わせるべく、鬼童丸は片膝立ちをする。


「アビスドライグ、俺にはお前の力がなんだ。大変なことになってるところ申し訳ないが、お前の力を俺に貸してくれないか?」


 自分のことが必要だと言われ、アビスドライグはピクッと反応した。


 アビスドライグは何度か融合フュージョンしたものの古参であり、鬼童丸への忠誠心も強い。


 そんなアビスドライグが鬼童丸に必要だと真正面から言われれば、どんな反応をするかなんてわかりきっている。


「オホン、拙者はマスターに必要とされるのであれば切腹なんて止めるでござる。拙者、マスターのために今を受け入れるでござるよ」


「ありがとう。これも使って良いからな」


 アビスドライグが切腹するのを止めれば、鬼童丸は残っていた各種ブースターⅢ型を全てアビスドライグに使った。


 パワーパップしたアビスドライグがご機嫌になっている隙に、鬼童丸は憂鬱深淵龍鎧メランコリーオブアビスドライグの効果を確かめる。


 この鎧はアビスドライグのVITを500上昇させるだけでなく、自身への攻撃やデバフの効果を全て10%カットする効果がある。


 【磁霊化マグネストアウト】で物理攻撃は元々受け流せるので、魔法攻撃やオーラの攻撃での被ダメージが減るのはありがたい効果だろう。


 それから、鬼童丸はタナトスと別れて多摩市にいるアンデッドモンスターの残党を倒して回った。


 Lv50未満の従魔を育てるべく、戦闘はダイダラボッチとベキュロス、メディーパだけで行ったのだが、多摩市最後の1体を倒した時にシステムメッセージと共にワールドアナウンスが鬼童丸の耳に届く。ダイダラボッチがLv50、ベキュロスがLv42、メディーパがLv36までレベルアップした。


『ダイダラボッチがLv46からLv50まで成長しました』


『ベキュロスがLv36からLv42まで成長しました』


『メディーパがLv30からLv36まで成長しました』


『多摩市にいる野生のアンデッドモンスターが全滅したことにより、多摩市全体が安全地帯になりました』


『安全じゃない近隣地域のNPCが避難して来るようになります』


『鬼童丸がプレイしたことにより、全プレイヤーのミニゲームにアンデッドレースが解禁されました』


 (まさか、中立派の残党を倒してエリアを完全に統治すればミニゲームって流れ?)


 ノジークの時もそうだったが、ニナスを倒してそのエリアを安全地帯にすればミニゲームが追加されたことから、鬼童丸はそのように判断した。


 その検証は検証班が勝手にやるだろうと思い、鬼童丸は都庁に戻ってからログアウトした。

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