第13章 Demonssoft
第121話 地獄の常識と現世の常識は別なの! 他所は他所、ウチはウチ!
土曜日、久遠はリビングフォールンの声で起きる。
『マスター、起きて~。宵闇ヤミが大変なの~』
「…」
目覚まし時計はまだ鳴っていない感覚だが、久遠はリビングフォールンの声が頭に響いて無理矢理起こされたからまだ頭がぼうっとしている。
『リビングフォールン、マスターを無理に起こしてはなりません。昨日は大変な目に遭ったのですから。マスターには休息が必要なんです』
『そうは言うけどスマホも部屋のドアも鳴りっぱなしなんだよ~?』
その会話を聞いて久遠は段々と意識が覚醒して来て、自分の部屋のドアを叩く音が聞こえて来た。
(昨日はログアウトしたらそのまま寝ちゃったんだっけ?)
そう思って久遠は大きく伸びをする。
ベッドから起き上がってスマホに目をやると、普段の土日起きる時間よりも30分程遅く、桔梗からのコネクトの通知が100を超えていた。
(不味い、これは心配させたよな…)
部屋のドアにかけていた鍵を開けたところ、正面に目のハイライトの消えた桔梗がいた。
「お、おはよう?」
「私を心配させる悪い久遠さんだ」
「落ち着いて?」
「私を心配させる悪い久遠さんだ」
同じ言葉を繰り返し言いつつ、久遠がドアを開けたから部屋の中に入って来て久遠をベッドに押し倒す。
桔梗の目を見てブルッと震えた久遠は完全に眠気が吹き飛んだ。
「桔梗さん、コネクトに反応しなくてごめん。寝てただけなんだ」
「悪い久遠さんには一度私の存在を刻み付ける必要があると思うの」
「刻む? 何を言ってるんだ?」
「…」
無言で桔梗が自分に覆い被さって来たから本当に貞操の危機かと思ったけれど、すぐにそれが勘違いだとわかった。
何故なら、久遠の耳に桔梗の寝息が聞こえて来たからだ。
どうやら桔梗は昨日の案件配信から徹夜して朝活配信を行い、眠い中久遠の部屋の前でずっとチャットをしたりドアをノックしていたらしい。
最近ではヘルオブシディアンのせいで死んでしまうプレイヤーもいたから、久遠もまさかそんなことになっていないだろうかと心配していたけど、こうして久遠が動いて喋ったのを見て安心したら一気に眠気が押し寄せて寝てしまったのだ。
久遠は昨日の体験のせいで疲れて爆睡しており、これ以上時間が経つと桔梗が部屋のドアを壊すんじゃないかと思ってリビングフォールンが久遠を起こした訳である。
だからこそ、ドラクールもリビングフォールンを注意したもののキツい口調にはならなかったのだ。
「心配かけてごめん」
謝った久遠は桔梗をお姫様抱っこし、彼女の部屋に運んだ。
その時、久遠は桔梗の部屋の内装を見て驚いたが桔梗をベッドに寝かせて部屋を出るまでは一言も喋らなかった。
久遠が驚いた理由だが、部屋の壁にリアルな久遠の写真やUDSの鬼童丸の写真がたくさん貼られていたからだ。
引っ越して来た時には見たこともない抱き枕があり、それを人に見立てて顔の位置に久遠の顔写真を貼っているあたり、久遠は自分が夢の中でどうなっているのか心配になるレベルである。
頭を切り替えてリビングに移動してから、鬼童丸はドラクールとリビングフォールンを召喚する。
「
「マスター、先程は起こしてしまい申し訳ございませんでした」
「構わない。むしろ、もう少し起きるのが遅かったらヤバかっただろうから、起こしてくれて良かった」
「でしょ~? マスター、もっと褒めても良いよ~」
「偉い偉い」
ドヤ顔のリビングフォールンの頭を撫でれば、無言でドラクールもその隣に来るからその頭を撫でる。
(ここ最近、ドラクールも俺に甘えるようになって来た気がする)
朝食を取った後、久遠は家事を済ませてからリビングでスマホをいじっていた。
ここ最近では、獄先派の仕業じゃないかと思うような事件が起きていないかこうしてチェックするようにしているのだ。
その時、コネクトのアプリで未登録のアカウントからコールがかかって来た。
一般的には自分が登録していないアカウントからのコールを無視するのが当然だけれど、そのアカウントのアイコンが自分の知る存在だったため、久遠は応答のボタンをタップする。
『鬼童丸、起きてたのね』
「デビーラ、なんで俺のアカウントにコールできる訳?」
『そんなのデーモンズソフトの技術さえあれば容易くゲフンゲフン、細かいことは気にしなくて良いの!』
「いや、かなり大事なことだろ。個人情報漏洩じゃねえか」
しれっととんでもない技術をデーモンズソフトが持っていることを口にしたのだが、ストロングスタイルで誤魔化すデビーラに対し、久遠はちょっと待てとツッコミを入れた。
流石に個人情報が漏洩していることを細かいことと割り切れはしない。
個人情報の漏洩は日に日に重く受け止められるようになっているため、久遠だって社会人かつ個人情報を扱う身分としてはまあ良いかでは済ませられない。
『地獄の常識と現世の常識は別なの! 他所は他所、ウチはウチ!』
「オカンルールを使って誤魔化すなよ。現世で連絡して来るなら現世の常識を守るべきじゃね?」
『ぐぬぬ…。そうやって揚げ足を取るんだから』
「揚げ足を取りたくて取ってる訳じゃないっての。それで、常識ガン無視で直通コールして来た理由は何?」
別にデビーラを虐めたくて虐めている訳ではないから、久遠はデビーラの要件を訊ねた。
デビーラがわざわざゲーム内ではなくこちらで連絡して来たということは、それなりに急いで確認したいことがあると判断してのことだ。
『鬼童丸には今から一度デーモンズソフトに来てほしいの。できれば宵闇ヤミと一緒に』
「唐突に俺を巻き込むじゃん。専属VTuberになったのは俺じゃないぞ?」
『本当は鬼童丸だけに用があるんだけど、宵闇ヤミを省いたら貴方が危険でしょ?』
「今回用事があるのは俺だけか。だとすると、宵闇ヤミはさっき寝始めたから来れないぞ」
心配させてしまった手前、久遠は桔梗を起こして一緒にデーモンズソフトに連れて行くのは気が引けた。
デビーラも昨日久遠がアマイモンに拉致されたことは承知しているだろうから、どうして桔梗が先程寝始めたのか察しはついているに違いないのでそのように久遠は伝えた。
『だったら鬼童丸だけでも来てもらうわ。今、自宅にいるのよね?』
「いるけど」
『わかった』
通話が切れたと思ったら、リビングにUDSでよく見る地獄の門が開いてそこからデビーラが現れた。
「はい、じゃあ、ついて来て」
「なんでもありかよ」
「こっちじゃ時は金なりなんでしょ? ほら、早く早く」
「待て。書き置きしていくから」
いきなり何も残さず自分が消えたら、起きた時に桔梗が発狂してしまうかもしれない。
それゆえ、久遠は昨日の件でデーモンズソフトに行って来ると書き置きをしてから、デビーラの後に続き、ドラクールとリビングフォールンを連れて地獄の門を潜った。
門を潜った瞬間、デフォルメされていたドラクールとリビングフォールンが元のサイズに戻る。
「ふぅ、やはり元のサイズの方が落ち着きますね」
「そうだよね~。こっちの姿じゃないとマスターを誘惑するには色々足りないもんね~」
「それは貴女だけです」
「え~? 本当に~?」
ドラクールとリビングフォールンのやり取りを聞き、デビーラは久遠に思ったことを述べる。
「鬼童丸の従魔達は賑やかね」
「まあな。いつもピリピリしてるよりは良いだろ?」
「それはそうね」
「ところで、前からずっと気になってたんだけど、なんでリアルに来てもドラクール達もデビーラも俺達プレイヤーをプレイヤー名で呼ぶんだ?」
以前から久遠はそれを疑問に思い、ドラクールとリビングフォールンに対してなんで桔梗を宵闇ヤミと呼び続けるのかと訊ねたが、その答えは宵闇ヤミは宵闇ヤミだからと要領を得ない回答だった。
デビーラなら自分を納得させてくれる回答を貰えるのではと思い、この機会に聞いてみたのである。
「貴方を鬼童丸と呼ぶのはそれが貴方達の魂に刻まれた名前だから。それと一緒で、UDSでプレイヤーが名乗る名前はそれぞれの魂に刻まれた名前なの。UDSを始める時、プレイヤーネームを自分の意思で決めているようで、実は貴方達の魂の名前がプレイヤーネームになるよう細工をしてるのよ」
「魂に刻まれた名前?
「それも地獄と現世の違いなのよ。まあ、貴方やヴァルキリー、リバースは昔から魂に刻まれた名前を無意識に自覚してたようだけどね。宵闇ヤミもそのタイプかしら。とりあえず、今の鬼童丸にはわからない感覚だろうから、そういうものとだけ思っておきなさい。それよりも、デーモンズソフトに着くわ」
暗い回廊の出口が前方に見え、久遠達は門を潜った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます