第89話 俺達にデバッグさせたってこと!?

 ヴァルキリーはフェイクスが使役する2体目の従魔を倒した。


 これでフェイクスが脱落してエリア争奪戦は終わるはずだった。


「俺が負けたなんて有り得ない! はこれで勝てるって言ってたんだぁぁぁぁぁ!」


 そう吠えたフェイクスから黒いオーラが噴き出し、フェイクスが所持していたと思しきヘルストーン擬きが宙に浮かび上がってそれを吸い込む。


 (あいつって誰だ? 裏で糸を引いてる奴がいるのは間違いないけど獄先派か?)


 鬼童丸が黒幕について考えている間に地獄の門が開き、地面に対して垂直に浮かぶ黄土色の大きな棺桶が現れた。


 棺桶は少しだけ蓋がズレており、その中から赤く怪しく光る双眸が見える。


 (チッ、嫌な予感が的中したか)


 フェイクスもパッパラーと同じような変化を遂げていたから、その予感はどうか当たらないでくれと鬼童丸は願いながら戻って来た訳だが、残念ながら的中してしまった。


 地獄の門を開いた後のフェイクスは、パッパラーと同じように白目をむいて膝立ちしていた。


 そんなフェイクスは地獄の門から現れた棺桶から飛び出した黒い触手のようなものに捕縛され、棺桶の中に引き摺り込まれてしまう。


 その直後に鬼童丸とヴァルキリーの正面にクエスト画面が表示される。



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緊急クエスト:地獄から送り込まれたアンダーテイカーを討伐せよ

達成条件:ヴァルキリーとアンデッドモンスターを1体ずつ使役してアンダーテイカーを討伐

失敗条件:使役するアンデッドモンスターの全滅

報酬:身代わり人形1個

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 (えっ、待って。俺とヴァルキリーで従魔1体ずつなの? 2体ずつじゃなくて?)


 スカベンジャーを討伐する緊急クエストとは異なり、自分とヴァルキリーが1体ずつ従魔を使役してアンダーテイカーを討伐しなければならないと知り、鬼童丸は先程よりも条件が厳しいと思った。


 報酬も専用武装交換チケットではなく、身代わり人形に変わっている。


 現時点では身代わり人形の効果はわからないが、クエストの難易度に見合うだけの報酬であることを祈るしかない。


「えっ、ちょっ、これはなんなの?」


「落ち着けヴァルキリー。お前のネクロノミコンと俺のドラクールでアンダーテイカーを倒す。それだけだ」


「わ、わかったわ」


 よくわからない状況に困惑するヴァルキリーだったけれど、鬼童丸が冷静にこれからすべきことをまとめてくれたおかげで冷静さを取り戻せた。


 ヴァルキリーの使役するネクロノミコンは、新人戦で登場したヘルグリモアが特殊進化した姿だ。


 現状においてヴァルキリーが使役できる最強の従魔だから、ドラクールとネクロノミコンは今組み合わせられる最強のタッグと言える。


「ドラクール、【竜化ドラゴンアウト】を解除して【深淵支配アビスイズマイン】で奴を撃て」


「かしこまりました」


 ドラクールは指示通りに元の姿に戻り、【深淵支配アビスイズマイン】で深淵のレーザーをアンダーテイカーに発射した。


 自由度の高い【深淵支配アビスイズマイン】ではあるが、鬼童丸の撃てという言葉からどのように攻撃すべきかドラクールが察して深淵のレーザーを撃ったのだ。


 黄土色の棺桶が真っ黒に染まったものの追加分も含めてダメージが入ったため、アンダーテイカーには魔法系アビリティが効くようだ。


 (棺桶の変色が気になるな。念には念を入れよう)


 HPが半分以下になった訳でもないのにアンダーテイカーの色が変わったことから、鬼童丸はヴァルキリーに指示を出す。


「ヴァルキリー、深淵属性以外で攻撃してくれ! 変色したってことは耐性を得たかもしれん!」


「了解! ネクロノミコン、【呪紫雷撃カースボルテクス】よ!」


 鬼童丸の指示通りにヴァルキリーがネクロノミコンに命令すれば、紫色の雷撃がアンダーテイカーに命中してダメージが入る。


 それと同時に棺桶の色が今度は紫色に染まった。


 さらに、アンダーテイカーが上昇して紫色の雷の矢をネクロノミコンに放つ。


「ドラクール、カバーしろ!」


「仰せのままに」


 素早くドラクールがネクロノミコンと雷の矢の間に入り、【魔法吸収マジックドレイン】が発動してドラクールのMPが回復する。


 (よし、良いぞ。アンダーテイカーの魔法系アビリティは俺にとって有利だ。後は油断しないように戦わなければ)


 アンダーテイカーの攻撃を利用してMPを回復できたから、鬼童丸は楽に勝てるのではと一瞬思った。


 しかし、緊急クエストで現れるようなアンデッドモンスターが簡単に倒せるはずないので、すぐに気を引き締めて今の攻防で分かったことをヴァルキリーに伝える。


「確定だな。アンダーテイカーは攻撃を受けた属性に変化する」


「そうみたいね。ネクロノミコンの攻撃は毎回属性を変えた方が良いかな?」


「変えて攻撃しよう。後は物理攻撃がどうなるかだが」


「相手が色以外に変化するようになるまで、通用する魔法系アビリティだけで攻撃するのも手じゃない?」


「そうだな。そうしよう。ドラクール、もう一度同じ攻撃だ」


「かしこまりました」


 再びドラクールが【深淵支配アビスイズマイン】で深淵のレーザーを放ち、アンダーテイカーのHPが半分まで減る。


 その瞬間、アンダーテイカーの棺桶が地面に墜落して砕け散り、中から黒い包帯を纏った女型のマミーが現れた。


 棺桶が枷になっていたようで、アンダーテイカーは今までよりも素早くドラクールに接近し、包帯を突撃槍ランスのように形を変えてドラクールに突き出す。


「ドラクール、躱して【破壊打撃デストロイストライク】で叩きつけろ!」


「承知しました」


 一直線に突撃するアンダーテイカーを飛翔して躱し、ドラクールは方向転換してアンダーテイカーの頭上から【破壊打撃デストロイストライク】を命中させた。


 この攻撃でアンダーテイカーは地面にキスしてダウン状態になり、鬼童丸とヴァルキリーは表示された追撃のボタンをタップしてそのまま追撃する。


 HPが残り1割を切り、アンダーテイカーの包帯がスルスルと解けて包帯の中身が露出した。


 その中身は黒い靄であり、それが個体になるまで包帯によって圧縮されていたようだ。


 今は圧縮されなくなったことにより、靄が悪魔の顔を模って漂っている。


 それから、黒い靄が端からドラクールとネクロノミコンを覆うように拡散していく。


「ドラクール、【竜化ドラゴンアウト】を使って俺とヴァルキリーを避難させてくれ! ヴァルキリー、ネクロノミコンは火属性のアビリティを使えるか!?」


「使える! 着火させれば良いのね!」


「正解!」


 ドラゴンの姿になったドラクールが鬼童丸とヴァルキリーを乗せて飛翔したら、ヴァルキリーはネクロノミコンに指示を出す。


「ネクロノミコン、【爆轟空間デトネスペース】よ!」


 黒い靄と化したアンダーテイカーが【爆轟空間デトネスペース】によって爆散し、HPが尽きて戦いは終わった。


『鬼童丸がLv86に到達しました』


『ドラクールがLv30からLv34まで成長しました』


『身代わり人形とアンダーテイカーを1枚手に入れました』


『ヴァルキリーによってフェイクスが倒されました』


『戦えるプレイヤーがいなくなったことにより、ヴァルキリーの勝ちでエリア争奪戦が終了しました』


『世田谷区と狛江市がヴァルキリーに移譲されました』


 緊急クエスト達成のシステムメッセージが流れた直後に、エリア争奪戦終了のシステムメッセージが流れた。


 (フェイクスもキャラロストしたんだろうか?)


 パッパラーと同様に、地獄の門から現れたアンデッドモンスターに取り込まれたフェイクスの末路が気になったが、それについてじっくり考える暇もなくワールドアナウンスが流れ出す。


『エリア争奪戦にてコンテンツに支障の出るバグが発見されました。バグは取り除かれましたが調整作業を要するため、誠に申し訳ございませんが、現在ゲームをお楽しみの皆様を拠点に転送した上で強制的にログアウトさせていただきます。なお、調整を要するのは本編のみのため、調整完了までの間はミニゲームをお楽しみ下さい』


 (俺達にデバッグさせたってこと!?)


 緊急クエストはデバッグ作業であり、専用武装交換チケットや身代わり人形はその報酬だったと理解して鬼童丸は心の中でツッコんだ。


 次の瞬間、鬼童丸は都庁まで転移させられており、そのまま視界が暗くなって強制ログアウトさせられた。

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