第56話 ドリンクバーだよね。私も同行する
5,6曲歌った後、久遠はドリンクバーに飲み物を取りに行く。
「飲み物がなくなったか」
「ドリンクバーだよね。私も同行する」
「
「
「知ってる。行こうか」
諭と眞鍋はアルコールを店員に直接注文するが、久遠と桔梗はノンアルコールドリンクを飲むのでドリンクバーに向かった。
2人だけになったところで、久遠は自分の疑問を確かめるべく桔梗に質問する。
「宵闇さん、今日は帰ってからUDSにインする?」
「するよ~って、あっ…」
「やっぱりそうだったか」
「アハハ…。いつバレちゃった?」
今まで気づいた素振りを見せなかったのに、このタイミングになって確かめて来たからどのタイミングでバレたのか気になって桔梗は久遠に訊ねてみた。
自分だけが久遠と実はUDSで再開していることに気づいたと思っていたけど、それが久遠の演技だったらいつバレたのか知りたくなったのだ。
「最初におやって思ったのは一次会の集合の時だ。花咲さんの歩き方が宵闇さんと似てた」
「歩き方…。まさかそんなところまでじっくり見られてたなんて」
「誤解させたようだから補足すると、俺を見つけてニコニコしながら近づいて来た時の歩き方がそっくりだった。なんかこう、留守番させられてた犬が帰宅した飼い主を見た時みたいな感じ」
「犬扱いしないでよ」
(マジでそれ以外にぴったりな表現が見つからんのよな)
その時点ではまだ確信していなかったけれど、もしかしたら宵闇ヤミの正体が桔梗かもしれないと思わせるきっかけになった。
「例え話だよ。次に怪しいと思ったのは、UDSについて質問して来たことだ。高校時代、花咲さんからゲームに関する話をしたことは一度もなかった。それが今日は訊いて来たから気になった」
「あぁ、あの時は宵闇ヤミのことをどう思ってるのか確かめたくて、質問しちゃったんだよね」
「この時点でなんとなく7割方そうかもって思ってたんだけど、今の仕事を発表しようって諭が言い出した時の反応やネット関係の自営業って言われた時にほぼ確実だと思った。だから、モリタクが深掘りしそうな感じだと気づいた時に別の話題を振ったんだ」
「あの時は助かったよ」
「どういたしまして。まあ、この話はここまでにしよう。あんまり遅いと諭と眞鍋さんに怪しまれるから」
久遠は部屋に残して来た諭と眞鍋のことがあるから、答え合わせはこれまでだと切り上げて先に部屋に戻って行く。
「私は怪しまれても良いのに」
ぼそっと桔梗が呟いた言葉は、久遠には何か呟いたかぐらいにしか聞こえなかったのでスルーした。
久遠と桔梗が部屋に戻った時、眞鍋が熱唱して諭がマラカスを振っていた。
「恋って言うから愛に行く~♪」
「Yeah~!!」
(楽しそうで何よりだよ)
既に4杯以上ハイボールのジョッキを飲んでおり、諭も眞鍋もできあがっていると言える状態だった。
これは水を持って来た方が良いかもしれんと久遠が再び部屋を出ようとしたら、丁度歌い終わった眞鍋がマイクを手に持ったまま勢いで喋る。
「鬼灯君、私を見ろぉぉぉ!」
「ん? 何?」
呼ばれたから振り返った久遠は、眞鍋が不味いレベルに酔っているかもしれないと思い始めた。
「花咲さんばっかとイチャイチャしないで私にも構えぇぇぇ!」
「え?」
「俺のことを見てくれる女性はいないのかぁぁぁ!」
「諭、煩い!」
「どうしてだよぉぉぉ!」
(やれやれ、本格的に駄目な酔い方してるっぽいな)
バッサリ眞鍋に斬られた諭も煩いが、眞鍋も絡み酒になっていたから久遠は桔梗に声をかける。
「花咲さん、2人の分の水を持って来て」
「わかった」
桔梗も諭と眞鍋が駄目な酔い方をしていると理解したから、久遠の指示に従って水を取りに行った。
眞鍋から自分と久遠がイチャイチャしているように見えていたと知って嬉しい気持ちもあったが、その喜びに浸るよりも先に酔っ払いをどうにかしないといけないと思ったのだ。
桔梗が水を取りに行った後、マイクをテーブルに置いた眞鍋がフラフラな足取りで久遠に迫り、久遠の胸をポカポカと叩き始める。
「私もいっぱい頑張ってるの! なのに鬼灯君が私のことをないがしろにするんだ!」
「ないがしろにしてないぞ。落ち着け」
「私のことも花咲さんにするみたいにスマートに対処してよー」
「はいはい、水が来るまでもうちょっとだからな」
久遠が眞鍋の背中をポンポンと叩くと、眞鍋が落ち着いて久遠に体重を預ける。
立っているのが無理な体勢になってしまい、久遠が椅子に座らされて眞鍋がそのまま久遠に抱き着くような感じで椅子ドンした。
そこに桔梗が2人分の水を持って戻って来る。
「お水持って来た…よ?」
桔梗は久遠が眞鍋に椅子ドンされている姿を見て、目のハイライトが消えてしまった。
(1つ終わったと思ったらまた別のトラブルが始まった)
宵闇ヤミからヤンデレの気質が感じられるということは、中身である桔梗がヤンデレである可能性は高い。
何故なら、宵闇ヤミはビジネスヤンデレをやる方針ではなく、どう見ても本人の気質だからだ。
「これはお開きだな。諭、会計するぞ」
「わかったー」
諭は酔っているものの、まだ頭は働いているようなので久遠に声をかけられて撤収の準備を済ませる。
このままカラオケを続けていた場合、店に迷惑をかけると判断してのことだ。
諭が会計を済ませている間に、久遠はタクシーを1台呼んでおく。
「眞鍋さん、このまま帰れるか?」
「帰れるー」
会計を済ませた諭が久遠達に合流してから数分後、久遠が呼んだタクシーが来た。
久遠は諭の方を向く。
「すまんが眞鍋の方を頼んで良いか? 俺はあっちの対応があるから」
「…わかった」
諭はチラッと桔梗の様子を伺い、少しだけ酔いが醒めたらしく頷いた。
「すまん、会計は後で割り勘代金教えてくれ。後でCool Payで払うから」
「了解。じゃあ、また今度な」
「おう」
諭が眞鍋と共にタクシーでこの場から出発したところで、久遠は先程からずっと無言で圧をかけて来る桔梗の方を向く。
桔梗は撤収の準備をする時もずっと無言であり、久遠と2人になれるのを静かに待っていた。
「最寄り駅何処?」
「高田馬場」
「同じだったのか」
「一緒に帰る」
「わかってるって。ここでさよならはしないから」
一文を短くして喋る桔梗に対し、久遠は苦笑しながら並んで原宿駅に向かう。
カラオケが表参道と原宿の間にあったから、久遠も桔梗も素面だったので原宿まで歩くことにしたのだ。
その道中で久遠は桔梗に訊ねる。
「なんでそんな機嫌悪いの?」
「鬼灯君が私に水を取りに行かせて眞鍋さんとイチャイチャしてたから」
「あれは眞鍋さんに絡まれてただけだから。眞鍋さんの様子を見てたろ? あんなの絡み酒で真に受けてたら駄目でしょ」
「眞鍋さんはお酒がないと本心を口にできないタイプかもしれない」
それはそうなのだが、ここで納得してしまうと桔梗にマウントを取られてなんだか話が不味い方向に進みそうだから納得する訳にはいかない。
久遠は例えを使って自分の正当性を主張することにした。
「仮に誰かに告白する時に酒飲んでから告白する?」
「しない」
「酒飲んで酔ってる状態の奴に告白されてまともに応じる?」
「応じない」
「つまり、そういうことだ」
「むぅ…」
自分の言い分が論破されて桔梗はムスッとした。
久遠も桔梗を論破して楽しんでいる訳ではないから、桔梗の気持ちをちゃんと理解するべく訊ねる。
「花咲さんはなんで俺を独占したがるの?」
「鬼灯君は私の救世主だもん。私を底辺VTuberから救い上げてくれたし、今日も私のことを助けてくれた。これからもずっと私の側にいてほしいの」
「ずっとは厳しいだろ。俺は会社勤めしてる訳だし」
「むぅ…」
正論パンチされてまたしても桔梗は唸った。
(一過性の風邪みたいなものだと良いんだけどな)
自分に依存されても久遠は桔梗に責任を持てないから、どうか自分には依存しないでくれと願っている。
VTuberの宵闇ヤミとして成功した場合には良いかもしれないが、失敗した時に責任が取れないのだから当然である。
「鬼灯君が一緒だと安心できるの。鬼灯君がいるだけで頑張れるの」
「ヤミんちゅがいるじゃん。古参ヤミんちゅなんて最初から応援してくれてたのに」
「それはそうなんだけど、ネット越しじゃ寂しいの。私の1番は鬼灯君なの。誰にも奪われたくないの」
(こいつは思ってたよりも重症かもしれない)
目から光が消えている桔梗を見てそう思った時、久遠達は原宿駅に着いていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます