第39話 手間のかかることを

 クエストをクリアした後、鬼童丸は特殊進化したフロストビヴィークルについて調べてみる。


 その見た目は馬車ではなくバイクに変わっており、バイクが冷気漂う骨で武装されていた。


 フロストヴィークルが気になるアビリティを会得していたため、ステータスを確認してみることにした。



-----------------------------------------

種族:フロストヴィークル Lv:1/75

-----------------------------------------

HP:2,300/2,300 MP:2,300/2,300

STR:2,300 VIT:2,200

DEX:2,400 AGI:3,000

INT:2,300 LUK:2,300

-----------------------------------------

アビリティ:【硬化突撃ハードブリッツ】【呪纏氷カースアイス

      【氷結罠フリーズトラップ】【骨武装ボーンアームズ

      【乗物変型ヴィークルチェンジ

装備:なし

備考:バイク形態

-----------------------------------------



 (AGIと移動に振り切れてる?)


 ステータスを見る限り、とにかく速く動くことを重視しているとわかった。


 【乗物変型ヴィークルチェンジ】は鬼童丸が知っている乗物に変型するアビリティであり、その車に乗って移動できるという点で今後のフィールド探索で重宝することだろう。


 フロストヴィークルの確認が終わると、トーチホークに乗ってタナトスがやって来た。


「ヘルストーンが見つかったようだな」


「ヘルストーン? あぁ、地獄の門を開いた黒い石のこと?」


「そうだ。あれはこちらにあってはいけない代物なんだが、どうやら地獄の獄先派か中立派がこちらにばら撒いたらしい」


「地獄の門からスカルティラノが出て来た時はヒヤヒヤしたよ。護衛中だったからな」


 本来、護衛中にわざわざ強敵と戦うのは好ましくない。


 しかし、状況的に逃げられなかったから鬼童丸は戦う選択をしたし、護衛対象に危険が及ばぬよう配慮した。


「スカルティラノとはまた面倒なアンデッドモンスターを送り込んだものだ。地獄で面倒を見られないからこちらに解き放ったか? そもそも、ヘルストーンを撒くだなんて一体何を考えてるんだ」


「タナトス、もうちょっとヘルストーンについて俺にも解説してほしいな」


「すまん。ヘルストーンは地獄の門を呼ぶ使い捨ての石で、アンデッドモンスターが倒された時にカードへ変換されるエネルギーを集める性質を持つ。エネルギーが満タンになると地獄の門を開くのだが、あれは不完全なものゆえに何度も使われるとあちらとこちらの境界がぼやけてしまう。あちらとこちらが結合してしまえば、人類は今まで以上の悪夢を見ることになるだろう」


「ということは、俺がヘルストーンを見つけたらタナトスに渡せば良いんだな?」


「そうしてほしい。私から親人派に渡して処理してもらうから、見つけたらすぐに私を呼べ」


 ゲームでも重要なアイテムになるだろうヘルストーンの扱いも決まり、飛び立つタナトスを見送った鬼童丸は思考を新人戦の準備に戻す。


 既にプレイヤーレベルは52になっているから、6体目の従魔を使役できるようになっている。


 あと30分で日付も変わるから、早々に6体目の従魔を決めてフロストヴィークルと併せてレベル上げをしたいと思っているのだ。


 カードの一覧から融合フュージョンの組み合わせを調べていると、気になる組み合わせを見つけて鬼童丸はそれをじっくりと読む。


 (こいつは面白いな)


 読み終えた鬼童丸は、丁度良い融合アンデッドだと判断して融合フュージョンを始める。


 鬼童丸が融合フュージョンの素材に選んだのはデッドツリーとスカルティラノだ。


 この2種のアンデッドモンスターのカードが合体するエフェクトが発生し、新たな融合アンデッドが誕生する。


召喚サモン:アッシュレックス」


 召喚されたアッシュレックスだが、ぱっと見た感じでは灰色のボディと四足歩行が特徴的なティラノレックスである。


 ところが、よく見てみると肉体は骨をデッドツリーの皮が保護しているのだとわかる。


 外見的特徴からだけではアッシュレックスについてわかることは少ないので、鬼童丸はアッシュレックスのステータスを確認する。



-----------------------------------------

種族:アッシュレックス Lv:1/75

-----------------------------------------

HP:2,400/2,400 MP:2,200/2,200

STR:2,400 VIT:2,300

DEX:2,300 AGI:2,200

INT:2,300 LUK:2,300

-----------------------------------------

アビリティ:【剛力突撃メガトンブリッツ】【剛力尾鞭メガトンウィップ

      【呪渇灰カースアッシュ】【吸収棘ドレインソーン

      【狂暴化バーサクアウト

装備:なし

備考:なし

-----------------------------------------



 (この癖の強さが場を掻き回してくれそう)


 アッシュレックスを融合フュージョンした誕生させたのは、できるだけ長く暴れさせられるアビリティ構成だからだ。


 【剛力突撃メガトンブリッツ】と【剛力尾鞭メガトンウィップ】は普段使いできるアビリティだから置いておくとして、それ以外のアビリティは【狂暴化バーサクアウト】のためにあると言って良い。


 【呪渇灰カースアッシュ】は指定した範囲に触れると乾燥状態を加速させる灰を降らせる。


 乾燥状態になった時、元々のアンデッドモンスターが乾燥しているモンスターなら特に影響は出ないが、ある程度水分を含んだアンデッドモンスターならば乾燥が進むにつれて動きが鈍くなる。


 【吸収棘ドレインソーン】は任意の場所から生やして突き刺した棘からHPとMPを吸収し、それを使用者に還元する効果がある。


 【呪渇灰カースアッシュ】で敵の動きを鈍らせ、【狂暴化バーサクアウト】で強化したら敵を蹂躙する。


 HPが心配になったら【吸収棘ドレインソーン】で補充する。


 弱った相手に暴れていられる時間を長くするということだ。


 能力値で勝っていない限り敵に回したくない相手と言えよう。


 アッシュレックスの確認も終えたら、鬼童丸はドラピール以外を送還して杉並区の隣にある世田谷区へと向かう。


 まだ世田谷区は統治されていないらしく、近所でレベル上げするならここだと思ったから、宵闇ヤミの配信で外見が割れているドラピールに運んでもらって世田谷区に向かったのだ。


 世田谷区に入ってアンデッドモンスターを探し始めると、鬼童丸は自分が複数のプレイヤーから見られていることに気がついた。


 しかも、アンデッドモンスターは空からぱっと見てどこにも見当たらない。


 (手間のかかることを)


「鬼童丸さん、お話を聞かせて下さい!」


「鬼童丸さん、検証班です! 情報交換をさせて下さい!」


 嵌められたとわかるや否や、聞こえないふりをして鬼童丸はすぐに杉並区に撤退した。


 UDSにおいて検証班がいることは把握していたが、新人戦前のこのタイミングで時間をくれと言って来るのは相手のことを考えていない。


 (いや、もしかしたら検証班を名乗って情報収集してる輩の可能性もあるか)


 多く情報を持っているに違いない鬼童丸から情報を引き出すべく、まだ狩場として使える風を装って世田谷区で罠を用意している者がいないとも限らない。


 そんなことを考えている内に鬼童丸は杉並区を通って武蔵野市に向かった。


 武蔵野市もまだ誰も統治権を持っていないから、レベリングができると思ってこちらに来たのだ。


 世田谷区とは違い、誰も鬼童丸を探しておらずアンデッドモンスターもいた。


 周りに誰もいないことを確認してレベル上げを始め、鬼童丸は午後11時55分まで狩りを行った。


 残念ながら世田谷区で邪魔されたため、鬼童丸はLv53でドラピールとデスライダーがLv44、リビングバルドとレギマンダーがLv42、フロストヴィークルとアッシュレックスがLv6というところでレベル上げは終わってしまった。


 新宿区の都庁でログアウトし、鬼童丸はどうにか強制ログアウトされずに済んだ。


 明日の新人戦で寝不足だったから負けてしまったなんてことになったら困るから、久遠はベッドに移動して目を閉じる。


 (新人戦が楽しみで寝られないとか言う奴っているのかね?)


 ふとそんな疑問が思い浮かんだけれど、それについて深く考える前に睡魔がやって来て久遠の意識は沈んでいった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る