第34話 情報は武器だ。集めておいて損はない

 杉並公会堂は多種多様なアンデッドモンスターに囲まれていた。


 (パッと見てどれがボスか分かんないんだが)


 今まで避難民が立て籠もる施設付近に行くと、ボスらしいアンデッドモンスターが一目でわかった。


 それに対して今回は一目でわからない程アンデッドモンスターがおり、鬼童丸は顔を引き攣らせた。


 ボスが何処にいるかわからないため、戦っている内に炙り出せるだろうと判断してまだ召喚していない従魔をフロストキャリッジの外に召喚する。


召喚サモン:リビングバルド! 召喚サモン:レギマンダー!」


 既にデスライダーに敵集団に狙われているため、鬼童丸は最大火力のセットコマンドを使う。


 いずれも範囲攻撃のアビリティだったため、サクサクと敵の数が減っていく。


 ところが、倒したアンデッドモンスター達の奥から別のアンデッドモンスターが補充される。


 その上、補充されたアンデッドモンスターは【闇付与ダークエンチャント】されているようだった。


「リビングバルドは【混乱霧コンフュミスト】。レギマンダーは【爆轟罠デトネトラップ】。フロストキャリッジは【氷結罠フリーズトラップ】」


 敵の数が多いことから、鬼童丸は敵集団にまともな動きをさせまいとリビングバルドの【混乱霧コンフュミスト】で視界を塞ぎつつ混乱状態にさせる。


 同士討ちさせつつ、霧の中に仕掛けられた踏めば派手に爆発する罠と氷結する罠により、雑魚モブの数が大幅に減った。


 (ん? 闇のオーラが1ヶ所に集まり出した?)


 先程まで敵集団を覆っていた闇のオーラだが、今度は1ヶ所に集中し始めた。


 そのオーラの中心に赤黒い瑪瑙と呼ぶべき石がある。


 (なるほど、こいつがボスか)


 鬼童丸が赤黒い瑪瑙を認識したことにより、ようやくボスが見つかった。


 この赤黒い瑪瑙こそブラッディオニキスである。


 さっきのオーラで強化してたのは【闇高利貸ダークユージュリー】というアビリティが原因らしい。


 このアビリティを使って他のアンデッドモンスターを強化した場合、強化していた分の能力値×1.2倍の能力値を強化していた時間だけその使用者が上昇させられる。


 広範囲に向けて【闇高利貸ダークユージュリー】を発動していた分、ブラッディオニキスの能力値の上がり幅は元々の2倍近くになっていたが、【闇高利貸ダークユージュリー】によって強化されていた時間は15秒だったから、15秒凌げればブラッディオニキスのアドバンテージはなくなる。


 デスライダーの【挑発体タウントボディ】により、ブラッディオニキスのヘイトはデスライダーに向く。


 そして、ブラッディオニキスが【暗黒鞭打ダークネスウィップ】を発動すれば、暗黒の鞭が出現してデスライダーを襲う。


「リビングバルド、【闇応援ダークエール】」


 ブラッディオニキスが闇属性の攻撃をして来たのなら、鬼童丸は闇属性強化の効果がある【闇応援ダークエール】をリビングバルドに使わせる。


 それが攻撃する前に効果を発揮したことで、デスライダーのHPは残り3割の所で踏み止まった。


「ドラピール、デスライダーに【暗黒回復ダークネスヒール】。レギマンダー、【呪纏炎カースフレイム】」


 急いでドラピールにデスライダーの回復を指示しつつ、レギマンダーにブラッディオニキスを攻撃させて時間を稼ぐ。


 直接攻撃を警戒していたブラッディオニキスは、レギマンダーの【呪纏炎カースフレイム】によって突然炎に燃やされたことで慌ててしまい、貴重なパワーアップの時間を無駄にしてしまった。


 【闇高利貸ダークユージュリー】の効果時間が切れて周囲に敵はブラッディオニキスしかいないならば、今度は鬼童丸のターンだ。


「本体の赤黒い瑪瑙を狙え。全員攻撃だ」


 最高火力のセットコマンドを使い、纏わりつく呪いの炎の対処に慌てているブラッディオニキスにドラピール達の攻撃が命中する。


 一斉攻撃によってHPが一気に残り3分の1まで減り、ブラッディオニキスの本体である赤黒い瑪瑙が黒く染まり上がる。


 それに伴って杉並区の天気が赤い雲に覆われ始め、赤い幽霊が雲からぞろぞろと現れて無差別に地上へ向かってダイブした。


 赤い幽霊が触れた場所が爆発し、杉並公会堂も被弾して破損率が上がっていく。


 これは範囲攻撃アビリティの【赤霊降雨レッドレイン】であり、ヘイトをデスライダーが稼いでいたとしても範囲攻撃だからデスライダーだけに攻撃が向いたりしない。


 (冗談じゃないぞ。無差別攻撃なんて堪ったもんじゃない)


 杉並公会堂の破損率が上がることに加え、AGIで敵わないフロストキャリッジも被弾し始めたから、鬼童丸は決着を急ぐ。


「リビングバルドは【偉大舞踏グレートダンス】! デスライダーは【剛力突撃メガトンブリッツ】! ドラピールは回り込んで【魔力吸収マナドレイン】!」


 リビングバルドが全体にバフをかけつつブラッディオニキスにデバフをかけたら、デスライダーがそのまま突撃してブラッディオニキスを吹き飛ばす。


 ドラピールは吹き飛ばされたブラッディオニキスの背後に回り込んで【魔力吸収マナドレイン】を発動し、ブラッディオニキスがこれ以上アビリティを使えないようにMPを吸った。


 その結果、残りHPが1割を切ったもののMPが足りなくなってしまい、派手な演出と共に発動するはずだったアビリティは不発に終わる。


「レギマンダー、【爆顔霊弾】!」


 アビリティが不発に終わったブラッディオニキスに対し、顔面幽霊弾と表現するべき攻撃が命中してブラッディオニキスのHPが0になった。


『鬼童丸がLv45からLv48まで成長しました』


『鬼童丸の称号<杉並の主>が称号<杉並区長>に上書きされました』


『鬼童丸が5つのエリアを束ねたため、鬼童丸の称号<鏖殺男爵(新宿・文京・中野・荒川)>と称号<杉並区長>が称号<鏖殺子爵(新宿・文京・中野・荒川・杉並)>に統合されました』


『ドラピールがLv16からLv26まで成長しました』


『ドラピールの【魔力吸収マナドレイン】が【魔法吸収マジックドレイン】に上書きされました』


『デスライダーがLv16からLv26まで成長しました』


『デスライダーの【挑発体タウントボディ】が【引力体グラビボディ】に上書きされました』


『リビングバルドがLv13からLv23まで成長しました』


『リビングバルドの【遅延ディレイ】が【遅延円陣ディレイサークル】に上書きされました』


『レギマンダーがLv13からLv23まで成長しました』


『レギマンダーの【爆顔霊弾フェイスボム】が【赤霊降雨レッドレイン】に上書きされました』


『フロストキャリッジがLv18からLv32まで成長しました』


『フロストキャリッジの【骨鎧ボーンアーマー】が【骨武装ボーンアームズ】に上書きされました』


『デスポーンとマミー、シャドーゴースト、ワームゾンビを150枚ずつ、ゴブリンゾンビとオークゾンビを30枚ずつ、ブラッディオニキスを1枚ずつ手に入れました』


 (長い! 強くなったのはわかるけど長いぞこれ!)


 鬼童丸はやっとシステムメッセージの音から解放され、この戦いで得られたものを順番に確認する。


 <鏖殺子爵(新宿・文京・中野・荒川・杉並)>については、()内のエリアの統治権に加えて東京都内なら獲得経験値と与えるダメージ量が1.75倍、それ以外の場所ではそれぞれ1.5倍になり、NPCからの好感度が上昇する効果があった。


 (東京都内ってかなり影響が広がったな。ありがたい)


 称号のおかげでプレイ効率が上がることに感謝し、鬼童丸は従魔達のアビリティの確認に移る。


 ドラピールの【魔法吸収マジックドレイン】は魔法系アビリティに触れることにより、MPが回復するアビリティだ。


 【魔力吸収マナドレイン】の時はMPを吸収したい相手に触れる必要があったため、それよりも使用難易度は下がったと言える。


 デスライダーの【引力体グラビボディ】は【挑発体タウントボディ】よりもヘイト集めの効果範囲が広いだけでなく、範囲攻撃も自身に多く集まるようになる。


 つまり、タンクとしてデスライダーが更に活躍できるという訳だ。


 リビングバルドの【遅延円陣ディレイサークル】は単体向けから範囲向けになったもので、効果領域内に存在する敵のAGIが半分まで減る。


 近づいてほしくない敵が複数いる時には丁度良い。


 フロストキャリッジの【骨武装ボーンアームズ】だが、こちらは【骨鎧ボーンアーマー】と違って防御だけでなく攻撃にも使える。


 骨でできた武器や鎧で使用者を武装できるから、【骨武装ボーンアームズ】を使ってから突撃すれば与えられるダメージ量を増やせる。


 確認が終わったところで、杉並公会堂に立て籠もっていたNPCの代表が外に出て来て鬼童丸に感謝し、鬼童丸が屋内にいた者達に挨拶を済ませたところでタナトスもこの場にやって来た。


「1週間かけずに子爵に到達したか。私の知る限り新人ネクロマンサーの中では最も進んでいるぞ」


「タナトスは他の新人のことも知ってるの?」


「無論だ。ヘカテーの弟子も含めてもうそろそろ男爵になる者が何人かいるぞ。こういう情報も訊きたければ訊くと良い」


 (情報は武器だ。集めておいて損はない)


 そのように判断して鬼童丸は頷いた。


 それから、タナトスに杉並公会堂にも転移魔法陣を設置してもらったところで時間も丁度良かったため、鬼童丸はログアウトした。

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