第3章 Ennoblement

第21話 これぞ害悪オブ害悪

 翌日、仕事から帰って来た久遠は身支度を済ませてから、UDSに鬼童丸としてログインする。


 (今日はタナトスのクエストをやるとするか)


 昨日配信が終わってから、宵闇ヤミはヘカテーから単独で挑むべきクエストを与えられてしまい、今日はそちらにかかりきりだ。


 なお、これからやるクエストには関係ないが、東京ドームと都庁に転移魔法陣が設定され、鬼童丸と宵闇ヤミは相互に新宿区と文京区を転移魔法陣で行き来できるようになっている。


 さて、フリーな鬼童丸にもタナトスから中野区の様子を見に行ってほしいというクエストが与えられた。


 中野区にはUDSのプレイヤーがいないらしく、野生のアンデッドモンスターが手つかずの状態だから対処せよというクエストだ。


 ログインして早々に車で中野区まで移動したら、徘徊するゾンビパワードがひしめいていた。


「無双ゲーしろってことか。召喚サモン:ドラミー! 召喚サモン:ジェネラルライダー! 召喚サモン:リビングダンサー! 邪魔者を掃討せよ!」


 3体のアンデッドモンスターを召喚し、鬼童丸は道路を車が通れるように掃討せよと指示を出す。


 ゾンビパワードが相手ならば、強くなろうともアビリティを使わずに倒せるのではと考えて通常攻撃だけで戦わせてみた。


 確かに問題なく勝てるのだが、1体ずつ倒すのは時間の無駄なのでまだ通常攻撃だけでも倒せるとわかった時点で方針を変える。


「ドラミーは【暗黒砲ダークネスブラスト】! ジェネラルライダーは【剛力飛斬メガトンスラッシュ】! リビングダンサーは【剛力蹴撃メガトンシュート】!」


 貫通したり吹き飛ばし効果のあるアビリティを指示したことで、道路を埋め尽くさんとひしめいていたゾンビパワードの群れは力尽きてカードになった。


『ドラミーがLv23に到達しました』


『ジェネラルライダーがLv23に到達しました』


『リビングダンサーがLv19に到達しました』


『ゾンビパワードが121枚手に入れました』


 (初戦で100体オーバーはヤバいっしょ)


 システムメッセージが鳴り止み、ゲットしたカードの枚数を知って鬼童丸は苦笑した。


 中野区に入って早々の乱戦で100体を超過するアンデッドモンスターの群れと戦ったのだから、それだけ中野区にいるアンデッドモンスターの数が多いと予想できる。


 そこにトーチホークに乗って来たタナトスが現れる。


「ふぅ、どうやら中野区は相当アンデッドモンスターの溜まり場になってるようだな」


「足を踏み入れて早々に100体オーバーって不味くない?」


「ネクロマンサーの数には限りがある。鬼童丸が新宿区を早々に掌握できたのはレアケースで、他のネクロマンサー達は1日でエリアを掌握する方が珍しい。中野区にはネクロマンサーがいなかったから、雑草なんて目じゃないぐらいにアンデッドモンスターがいる訳だ」


「そうなると使役枠も増えたことだし、新たなアンデッドモンスターが欲しいな。ただ、レギオンはそのまま使役すると宵闇さんと被るかもしれないから、融合フュージョンさせたいんだよね」


 レギオンはいくつかのアンデッドモンスターと融合フュージョンできるとわかったが、どれもしっくりこなかったから鬼童丸は融合フュージョンを保留していた。


 そして、ここにタナトスがいるならばと鬼童丸はポンと手を打つ。


「ガチャで運試しするか」


「リスキーな選択だな。10万ネクロかかるんだぞ?」


「雑魚のカードをいくら集めても仕方ないし、駄目だったら駄目だったってことで良いさ。俺はアンデッドガチャを引く」


 視界に表示されたガチャを引き、鬼童丸はガチャのアニメーションを目にする。


 (前回は5万1,000ネクロの結果だったから勝ちたいところだが…)


 そんな風に思っていたけれど、現実は優しくなくてフラグが立ったのか10枚は雑魚であり、1枚がリビングダンサーをゲットした時と同様の当たり演出になった。


 当たった1枚はデッドリーキャンドルであり、苦悶の表情を浮かべたまま蝋化されたアンデッドモンスターだ。


「おっと、こいつはレギオンと融合フュージョンできるみたいだ。やってみよう」


 融合フュージョンボタンをタップして、鬼童丸はレギオンとデッドリーキャンドルを融合フュージョンさせる。


 レギオンとデッドリーキャンドルのカードが合体するエフェクトが発生し、融合アンデッドが誕生した。


 融合アンデッドのカードの正体を知っているからか、タナトスがフードを被っているのに嫌そうな顔をしていると鬼童丸には感じ取れた。


召喚サモン:レギランプ」


 どんな融合アンデッドか確かめるべく、鬼童丸はレギランプを召喚してみた。


 レギランプの見た目は無数の人魂に取りつかれて宙に浮くランタンであり、そのステータスを調べてみたらタナトスの表情に納得がいった。



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種族:レギランプ Lv:1/50

-----------------------------------------

HP:500/500 MP:500/500

STR:400 VIT:400

DEX:600 AGI:500

INT:600 LUK:500

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アビリティ:【死体爆弾ネクロボム】【爆顔霊弾フェイスバレット

      【呪纏火カースファイア】【火吸収ファイアドレイン

装備:なし

備考:なし

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 自身よりも等級の低い雑魚モブアンデッドモンスターか、NPCの死体を爆弾に変質させる【死体爆弾ネクロボム】の効果にはゾッとさせられるものがある。


 レギオンとの戦いで見た【爆顔霊弾フェイスバレット】だって、爆発する顔面幽霊弾なんて危険だ。


 【呪纏火カースファイア】は持続的な効果があり、ターゲットに命中するとしばらく燃えて纏わりつくから鬱陶しい。


 【火吸収ファイアドレイン】はどんな火でも吸収してHPやMPの回復に充ててしまうから、自身の攻撃による被弾は全てHPとMPの回復に繋げられるので自爆特攻も選択肢に含められる。


 このアビリティの組み合わせを見れば、タナトスの表情も頷けるというものだ。


「これぞ害悪オブ害悪」


「鬼童丸、其方が道を踏み外さぬことを切に願うよ」


「わかってるって。レギランプがいるからってイキッたりしないから安心してくれ」


「それならば良い。気を引き締めて行くように」


 タナトスは鬼童丸の回答に満足したらしく、トーチホークの背中に乗って新宿区に戻って行った。


 鬼童丸はレギランプを送還して車に乗り込み、アンデッドモンスターが現れるまで距離を稼いだ。


 その途中で再びアンデッドモンスターの群れが鬼童丸の道を阻むけれど、今度はゾンビパワードに限らずツイングリムやスカルウォール、グラッジクアッドがいた。


召喚サモン:ドラミー! 召喚サモン:ジェネラルライダー! 召喚サモン:リビングダンサー! 召喚サモン:レギランプ!」


 車を降りてアンデッドモンスターを4体召喚した鬼童丸だったが、まずはレギランプに戦わせてみることにした。


「レギランプ、【爆顔霊弾フェイスバレット】」


 顔面幽霊弾が混成集団の先頭にぶつかった瞬間に爆発し、周囲のアンデッドモンスターを巻き込む。


 HPが残り僅かなツイングリムを見つけ、鬼童丸は追撃するよう指示する。


「レギランプ、【死体爆弾ネクロボム】」


 ツイングリムの体が膨張して爆発し、その爆発に巻き込まれて多くのアンデッドモンスターがダメージを負った。


「MPが持つ限りずっとこれ使えば良いんじゃね? レギランプ、【死体爆弾ネクロボム】」


 もうすぐ力尽きそうなスカルウォールが爆散すれば、骨の破片が散弾になって先程よりも広範囲の敵にダメージを与えた。


 結局、【死体爆弾ネクロボム】を繰り返すことで二度目の乱戦は終結した。


『鬼童丸がLv30からLv32まで成長しました』


『鬼童丸が称号<爆弾魔>を獲得しました』


『鬼童丸の称号<研究者>と称号<爆弾魔>、称号<名誉文京区長>が称号<狂気の名誉文京区長>に統合されました』


『ドラミーがLv23からLv26まで成長しました』


『ジェネラルライダーがLv23からLv26まで成長しました』


『リビングダンサーがLv19からLv24まで成長しました』


『レギランプがLv1からLv13まで成長しました』


『ゾンビパワードが30枚、ツイングリムが20枚、スカルウォールとグラッジクアッドが5枚ずつ手に入れました』


 (おい、なんで俺が狂ってる判定なんだ)


 システムメッセージが止まった後、鬼童丸は<狂気の名誉文京区長>にツッコミを入れつつその効果を確認する。


 文京区の統治権は相変わらずなく、文京区での獲得経験値が1.5倍になると共に文京区に所属するNPCからの好感度が上がる効果があるのは変わらない。


  追加された効果は、文京区にいる時に範囲攻撃で与えるダメージ量が10%上がり、文京区以外にいても範囲攻撃で与えるダメージ量が5%上がる。


 狂気というワードは引っかかるけれども、実用性のある称号だったので鬼童丸はとりあえず良しとした。

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