第19話 やり直しを要求する! それは悪意に満ちた印象操作だ!
一通り先にしておくべき確認が終わったから、鬼童丸は宵闇ヤミの方を向く。
「待たせたな。宵闇さんは区長になれた?」
「なれた! <奮闘する文京区長>だよ!」
「奮闘する? どんな効果?」
「文京区の統治権を得る他に、文京区内の戦闘で稼げる経験値が1.5倍と文京区に所属するNPCからの好感度上昇。それと戦闘で1ターンあるいは乱戦で時間が1分経過する毎に、HPとMPを除く能力値が最大20%まで1%ずつ上昇する」
「長期戦で重宝するね。良かったじゃん」
鬼童丸からすれば、その効果を発揮するために長期戦に持ち込むことはないからあまり魅力を感じないけれど、宵闇ヤミは必要と思っているかもしれないから、とりあえず褒めるべきポイントを見つけて褒めた。
リアルの仕事で学生や企業の担当者と対応することもあるから、鬼童丸にとって表情を作って何かを褒めるのは慣れたことだ。
褒められて相手が喜ぶのなら悪いことではないので、鬼童丸は人間関係を円滑にするためにも褒められるところを褒めていくスタンスだ。
気分を良くした宵闇ヤミは、ヤミんちゅ達が気にしているだろう鬼童丸の称号について訊ねてみる。
「鬼童丸さんはどうなの? あれだけ活躍して称号が貰えないなんてことはないでしょ?」
「<名誉文京区長>を会得した。文京区長の統治権と長期戦バフがないだけで、文京区内での獲得経験値とここのNPCからの好感度上昇の効果は一緒だ」
「名誉区長なんてありなの!?」
「1日警察署長がありなら名誉区長もありだろ。ましてやゲームなんだし」
「大変だよ、文京区が鬼童丸さんに乗っ取られちゃう…」
<名誉文京区長>なんて称号があるとは思っていなかったから、宵闇ヤミは文京区において鬼童丸の影響が大きいと知って焦る。
文京区をどうこうしようとしている訳でもないから、鬼童丸は焦る宵闇ヤミを見て苦笑する。
「別に乗っ取らないから。宵闇さん自体のレベルはどれだけ上がった?」
「Lv21からLv27まで一気に上がったよ。アンデッドの方はキャストライダーがLv17、グリムロスがLv7、グラッジセティスがLv11までレベルアップしたの」
「おぉ、流石<奮闘する文京区長>だな」
「…馬鹿にしてるでしょ? <鏖殺の新宿区長>と<名誉文京区長>の鬼童丸さんに流石って言われてもさぁ」
ジト目の宵闇ヤミは鬼童丸のコメントに対して物申した。
いくら自分が強くなったからといって、それで鬼童丸を追い越せたとは露程にも思っていないからである。
そこにドームの中に隠れていた文京区のNPCの代表が現れ、鬼童丸と宵闇ヤミに話しかけて来る。
「あぁ、天は我々を見捨てていなかったようです。貴方達こそ文京区を救った英雄です。助けて下さってありがとうございました」
NPCの言葉にどちらが言葉を返すべきだが、鬼童丸は視線だけで宵闇ヤミに応じてやれと告げた。
ここは<名誉文京区長>が出しゃばらず、<奮闘する文京区長>が応じるべきという判断だ。
「いえいえ。1人でも多くの文京区民を救えたならそれに越したことはないよ。道中でも多くのアンデッドモンスターと出くわしたから、それだけ文京区が大変な目に遭ってたってことはわかってる。よくぞここまで持ち堪えてくれたね」
「はい!」
NPCは感激のあまり涙ぐんでおり、宵闇ヤミは<奮闘する文京区長>の称号効果をフル活用して生き残ったNPC達からの好感度を上昇させた。
それから、生き残ったNPC達がぞろぞろと外に出て来て鬼童丸と宵闇ヤミに礼を言い、2人は東京ドームの生きている設備について説明を受けた。
区長に必要な説明を受けてドームの外に出た時、ドームの周囲を覆っていた半透明の光の壁が消えた。
それと同時にシステムメッセージが鬼童丸達の耳に聞こえる。
『文教区にいる野生のアンデッドモンスターが全滅したことにより、文京区全体が安全地帯になりました』
『安全じゃない近隣地域のNPCが避難して来るようになります』
システムメッセージが鳴り止んだ時、宵闇ヤミは腑に落ちないことがあって首を傾げる。
「鬼童丸さん、新宿区と同じならまだ野生のアンデッドモンスターがいるはずですよね? なんでいなくなってるんだろう?」
「さっき締め出された3人が経験値稼ぎに倒したんじゃないか?」
「「正解!」」
鬼童丸が自分の予想を口にした直後、先程光の壁に締め出された3人の内2人がシンクロして答えた。
その2人は男女ペアのネクロマンサーであり、鬼童丸の知り合いでもあった。
「やっぱりリバースとヴァルキリーか。一緒にいるけど仲良く行動してたのか?」
「「まさか!?」」
「息ぴったりなんだが」
「おいヴァルキリー、俺の真似をすんのは止めろ」
「リバース、アンタこそ私の真似しないでよね」
「…鬼童丸さん?」
1人だけ置いてきぼりになっている現状は嫌だから、宵闇ヤミは鬼童丸に現れた2人について説明を求めた。
宵闇ヤミを仲間外れにするつもりがあった訳ではないから、鬼童丸はリバースとヴァルキリーについて紹介する。
「すまん。こっちの二枚目風だけど三枚目な青髪男がリバース。同じく見てくれは良いけど中身が伴ってないピンク髪女がヴァルキリー」
「やり直しを要求する! それは悪意に満ちた印象操作だ!」
「そうよ! 鬼童丸が私に仮面を被る必要はないって言ったのに!」
リバースもヴァルキリーも鬼童丸の紹介に対し、それはあんまりじゃないかと抗議した。
ヤミんちゅ達は配信に映るリバースとヴァルキリーの紹介が雑だったから、コメント欄を大草原にしていた。
今も配信中だったのを思い出し、鬼童丸は2人の紹介をやり直す。
「他のゲームで知り合ったリバースとヴァルキリーだ。ゲームの趣味が合うから、一緒のゲームをやろうって言わなくても勝手に集まるんだ」
「こんばんは。鬼童丸の永遠のライバルことリバースだ。よろしくぅ」
「こんばんは。鬼童丸の彼女のヴァルキリーだよー」
「ヴァルキリー、事実を捏造するな。あれは過去のゲーム内のクエスト限定の関係だろうが。それと、お前等の愉快な自己紹介が1,000人ぐらいのリスナーに筒抜けな訳だけど自爆ってことでおけ?」
「「え?」」
ヴァルキリーの誤解を招く発言にツッコミを入れた後、鬼童丸が口にしたリスナーという言葉にリバースとヴァルキリーが固まる。
リスナーが見ているという言葉から察せられるのは、鬼童丸か宵闇ヤミが配信者であるということだ。
リバースもヴァルキリーも鬼童丸の性格は知っているから、彼が配信者になるとは思っていない。
つまり、消去法で宵闇ヤミが配信者であるという結論を出した。
「お察しの通り、俺は配信者なんてやる性格じゃない。こっちの宵闇ヤミさんがVTuberね。今、俺とコラボで中野区の統治権を狙ってた」
「鬼童丸さん、現在の接続者数は2,000人を超えたよ。登録者数も1,800人まで増えた」
「おぉ、それはめでたい。おめでとう」
「くぁwせdrftgyふじこlp」
「あァァァんまりだァァアァ」
マイペースに鬼童丸と宵闇ヤミが話している一方で、2,000人以上の前で恥ずかしい自己紹介をしてしまったリバースは言葉にならない悲鳴を上げ、恥ずかしいとは思わなくても不意打ちされたように思ったヴァルキリーはヤケクソ気味にネタに走った。
ちょっと知り合いに声をかけ、知り合いの知り合いに挨拶をしたつもりがサプライズを喰らわされたのだから、これで驚かないはずがない。
そんなリバースとヴァルキリーの事情は考慮せず、鬼童丸は手をパンパンと叩く。
「ほら、過ぎたことは切り替えろ。どうせならここで自分はすごいネクロマンサーなんだってアピールしとけよ」
「はぁ、しゃあないな。<狂乱の千代田区長>リバースだ。千代田区は俺の縄張りなんでそこんところよろしく」
「<爆撃の豊島区長>ヴァルキリー。豊島区は私の庭よ」
「2人の称号を聞くと宵闇さんの<奮闘する文京区長>ってまともに聞こえるな」
「おい、まるで俺達の称号がまともじゃないみたいに言うじゃないか」
「そうだよ。私達だけ笑いものにしないで鬼童丸の称号も宣言してよね」
鬼童丸の言い方に悪意を感じたため、リバースとヴァルキリーは鬼童丸に自分の称号を宣言しろと言った。
既にヤミんちゅ達は知っているから、わざわざ宣言する理由はないが2人に納得させるために鬼童丸も自身の称号を名乗る。
「<鏖殺の新宿区長>と<名誉文京区長>だけど何か?」
「鬼童丸さん、<研究者>を忘れてる」
「あっ、それもだ」
「マジかよ。負けてらんねえな」
「流石は私の彼氏」
「それは違う。宵闇さん、この2人をこれ以上巻き込むのもあれだし、配信はここまでにしたらどうだ?」
「あっ、はい。ということで今日の配信はここまで。ヤミんちゅも一緒にUDSにしようね。おつヤミ~」
この日、新宿区と文京区、千代田区、豊島区の統治者が集まったことを知ったヤミんちゅ達を中心に掲示板が盛り上がった。
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