第7話 あっ、ヤバい。なんか闇を感じる

 タナトスから他のプレイヤーとの関わりについてレクチャーしてもらった後、都庁に女性のプレイヤーが現れた。


 プレイヤーの頭上にはプレイヤーと判別できるアイコンが表示されるし、UDSにおいて身体的特徴は性別や体型を別人レベルに変えられないからネカマやネナベは存在しないので、現れたプレイヤーが女性であることもわかった。


 身体的特徴は変えられなくとも、髪や目の色、肌の色は変えられるから鬼童丸は現れた女性プレイヤーがキャラクリエイトに手間をかけたのだと理解した。


 何故なら、紫色のロングヘアーに紫色の目という漫画のキャラのような色合いであり、顔も整っているからだ。


「あの、鬼童丸さんですよね。少し良いですか?」


「貴女は?」


「個人VTuberの宵闇ヤミです」


「そうなんですね」


 鬼童丸はVtuberという概念を知っていても、それについて明るい訳ではなかった。


 VTuberはWeTubeという動画投稿サイトにて、バーチャルアバターを使ってライブ配信や動画投稿を行い、広告やスーパーチャット、メンバーシップにて収入を得る職業だ。


 有名なVTuberになれば、グッズも出るがそれを個人で出せるのは一握りである。


 今ではゲーム配信も技術が進み、VRMMOをプレイしながら配信することもできるようになっている。


 そのVTuberが自分に話しかけて来たとしても、鬼童丸としては初めて関わる人種だったからどう反応すれば良いかわからなかった。


 だからこそ、今はプライベートタイムだが仕事モードに頭のスイッチを切り替えている。


「その反応からして、私のことってご存じではないですよね?」


「すみません。VTuberの概念はわかってますけど、誰がすごいとかそういうのは全然存じ上げません」


「そうでしたか。実はこの度UDSの実況プレイ配信を行ってまして、もしよろしければ一緒にプレイできないかと思いまして」


「ということはつまり、もう配信に私が映ってることになりますか?」


 宵闇ヤミは配信中と聞き、鬼童丸は既に自分が許可する前から映っているのではないかと訊ねた。


 その問いに宵闇ヤミは慌てて否定する。


「違います! 誤解を招いてしまったのならすみません! 今日の配信はもう終わってて、できれば明日の配信に出演していただけないかと思って事前に声をかけさせてもらいました! 後でWeTubeで確認してくだされば、私が嘘を言ってないって証明できます!」


 ライブ配信のアーカイブを残しておけば、後で視聴者が見られるようになっている。


 それゆえ、鬼童丸に今は配信外なんだと宵闇ヤミは主張した訳だ。


「失礼しました。名乗りがVTuberでUDSのゲーム実況配信をしてるって言われたものですから、つい誤解をしてしまいました」


「こちらこそ誤解されるような物言いをしてしまいすみません。それと、私はデビューして3ヶ月で登録者が100人になったばかりの若輩者ですので、ネットの記事に取り上げられるような影響力はないと思います」


「100人登録してもらったのもすごいと思うんですが、そうじゃないんですか?」


「…上には上がいるんですよ。300万人に登録されるVTuberさんだっているんです。私なんか木っ端ですよ」


 (あっ、ヤバい。なんか闇を感じる)


 宵闇ヤミの発言からして地雷を踏んでしまった感じがしたため、鬼童丸はしまったと思って話題を変えることにした。


「不勉強ですみません。ところで、宵闇さんはどこの区でスタートしたんですか?」


「新宿区ですよ。できれば都庁を救って私が区長になる配信をしたかったんですけど、私の実力が及ばず区長にもなれず都庁も鬼童丸さんに先に救われてしまいました」


「…そこは謝らなくても良いですよね?」


「勿論です! 自分の実力不足を棚に上げるつもりはないですから! ただ、新宿のトップである鬼童丸さんと一緒にゲームして勉強させてもらえば、今後の配信でその経験が活かせるんじゃないかと思って声をかけました!」


 逆恨みされていないことにホッとした鬼童丸は、宵闇ヤミの話を聞いて少しだけ彼女に興味が湧いた。


 VTuberという職種に興味が湧いたのではなく、今の自分の実力を真摯に受け止めて自分よりも進んだステージにいる者に素直に教えを乞えることに感心したのだ。


 人間が他者を羨み、時には嫉妬するのは人間が2人以上いる時点で避けられないことだ。


 その感情は大人になればなるだけ複雑になっていき、素直に教えを乞うことができない者だってざらにいる。


 それにもかかわらず、宵闇ヤミは悔しさを我慢して自分に教えてほしいと言えたのだから、鬼童丸は彼女の申し出を承諾することにした。


「わかりました。明日の配信に出演しましょう。何時からですか?」


「サムネの準備とかありますので、午後1時からでどうでしょう?」


「良いですよ。詳しくはわかりませんが、ライブ配信ってコンテンツなら当日の流れとかって段取り組むんですよね?」


「う~ん、本来ならそうなんですが、明日は私が鬼童丸さんにお願いして同行させてもらいますから、鬼童丸さんのやりたいようにやって下さい」


 (えっ、それで良いの? 見切り発車で成り立つのか?)


 声には出さなかったけれど、鬼童丸は宵闇ヤミの発言を受けてそれで大丈夫なのかと心配になった。


 行き当たりばったりで計画性がなければ、その場しのぎの配信で固定の視聴者は確保できないのではないかと思ったのだ。


 それでも、宵闇ヤミが自分の都合を前面に出すようなタイプではないことに好印象を抱いたため、明日は多少なりとも配信映えするようにできる範囲で協力することに決めた。


「そうですか。宵闇さん、まだこの後は時間がありますか?」


「大丈夫です。私は自由業ですから時間ならいくらでもあります」


「あっ、はい。でも、家事とか買い物とかすると思うんですが」


「実家暮らしなので大丈夫です」


 (それって言って大丈夫なやつ?)


 VTuberは身バレとか人物特定に関する情報を口にしない方が良いのではないかと思ったが、宵闇ヤミ本人が開示して良いと思っているのであれば自分が口を挟む理由はないので鬼童丸は触れない。


 それよりも明日の配信の準備をした方が建設的と判断し、鬼童丸は話を続ける。


「このまま打ち合わせをしようと思うのですが、その前にフレンド登録をしませんか? フレンドならインしてるかフレンドリストを見てわかりますし」


「そうですね。じゃあ、お願いします」


 宵闇ヤミからフレンド申請が来たので、鬼童丸はそれを承認した。


 フレンド登録することにより、フレンド同士がログインしているかどうかをフレンドリストでわかるようになる上、フレンドにしか見えないチャットができる。


 仲良くなったプレイヤーがいるのならば、フレンド機能は便利なものと言えよう。


「フレンド承認ありがとうございます。これでいつでも鬼童丸さんとすぐに連絡ができますね」


「はい、インしてて取り込み中じゃなければ連絡ができると思います。さて、一緒にプレイするにあたってお互いの使役するアンデッドモンスターを知っておいた方が良いと思うのですがいかがでしょう?」


「そうですね。私はブラックワイトです」


「ブラックワイトですか?」


「見せた方が早そうですね。召喚サモン:ブラックワイト」


 鬼童丸がブラックワイトと言われてピンと来ていないようだったから、宵闇ヤミは実際にブラックワイトを召喚してみせた。


 外見は黒く染まったスケルトンメイジと呼ぶべきもので、宵闇ヤミがブラックワイトについて補足し始める。


「ブラックワイトですが、スケルトンメイジから特殊進化したワイトの進化後の姿です。魔法系アビリティに特化した種族ですね」


 ブラックワイトはLv30が上限で今がLv1だったから、宵闇ヤミはワイトから進化させたばかりなのだろう。


「魔法特化も役割として大事ですよね。2体目もいれば見せてもらっても良いですか?」


「勿論です。召喚サモン:グリムハウンド」


 (宵闇さんはグリムハウンドを倒すだけの実力があるってことね。了解)


 これから話を訊くつもりだが、宵闇ヤミの使役するアンデッドモンスターを見るだけでもある程度実力は予想できる。


 今度は鬼童丸が自分の使役するアンデッドモンスター2体を見せたのだが、宵闇ヤミは自分と鬼童丸の間にある差を思い知って少しの間フリーズしてしまった。


 その後、明日の配信で無計画にやるのは鬼童丸が怖かったから、何をするかざっくりと打ち合わせたところで今日はログアウトした。

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