深海と深森の愛

紙の妖精さん

第1話 孤独な心

菫(すみれ)は静かな夜の自室で一人、広がる暗闇の中で微かに光る星々を見上げていた。窓の外に見える夜空は、彼女の心の孤独感を一層引き立てるように広がっていた。彼女の手には、無造作に置かれた本が一冊。開かれたページには目も通さず、ただぼんやりと見つめていた。


その瞳は、まるで世界のすべてが彼女から隔絶されているかのような空虚さを宿していた。テレパシーを使うことで彼女は他者の思考を感じ取ることができたが、その能力が逆に彼女を孤独にしていた。他人の心の中に侵入できることは、彼女にとって喜びではなく、むしろ厳しい孤立感を生んでいた。心の中で響く誰かの考えや感情が、実際には彼女自身を誰にも届かない孤独の世界に閉じ込めていた。


同じように、嶺零(れいれ)もまた孤独な夜を過ごしていた。彼女は自室の一隅に座り、薄暗いランプの下で手帳を開いていた。テレパシーの能力を持つことで、彼女は常に他者の心の声を感じ取っていたが、その多くは混乱と不安、時には恐怖の感情だった。彼女にとって、心を通わせることができる相手は誰一人いなかった。彼女はその孤独に耐え、誰にも心を開くことができずにいた。


菫と嶺零の孤独な夜は、偶然にも同じ時間に訪れる。彼女たちの心が今までの孤独を超えて、奇跡的な出会いの予感を孕んでいた。


その夜、菫は一通の手紙を見つけた。手紙には奇妙な絵柄が描かれており、「魔法のクッキー」と書かれていた。彼女はその意味を理解できないまま、手紙の後ろに添えられていた小さな袋を取り出した。袋の中には、いくつかのクッキーが入っていた。


一方、嶺零もまた同じように一通の手紙を見つけていた。彼女の手にあった手紙には、同じく「魔法のクッキー」と書かれており、彼女もまた袋の中に入っていたクッキーを取り出した。彼女はそのクッキーを見つめながら、何かの運命のいたずらだと感じていた。


その夜、菫と嶺零はそれぞれの部屋で、手にしたクッキーを一口ずつ食べた。瞬間、彼女たちの心の中で微細な変化が起こり始めた。クッキーを食べた瞬間、心の奥底からふわりとした温かさが広がり、彼女たちの孤独感が少しずつ和らいでいくのを感じた。


彼女たちはそれぞれの部屋で眠りに就くと、夢の中でお互いの姿が微かに見えた。彼女たちの心の中に、これまで感じたことのない感覚が芽生え始めていた。その感覚は、孤独ではない、何か新しいものが始まる予感をもたらしていた。


菫と嶺零の夜は、これまでの孤独な日常を超え、新たな出会いの予感に包まれていた。この夜の出来事が、彼女たちの運命を大きく変えることになるのだと、彼女たちはまだ知らなかった。

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