魔法少女・崩壊童JK3

 誰も知らぬ宇宙の片隅。

 名も無き小さな星の上。

 そこで一頭の肉食獣が、か弱い獲物を仕留めていた。

 肉食獣の名は邪ん肉じゃんにく大王だいおう

 宇宙を股にかけ、あまたの星を滅ぼしてきた大宇宙の狩猟民族。その大ハーン。

 ゆったりとしたパンツをはき、腰回りだけを帷子かたびらで覆っている。上半身はむき出しで、その圧倒的な迫力の大胸筋を、惑星のようにふくれあがった上腕二頭筋を、これでもかとばかりに見せつけている。

 獲物は名も無きひとりの戦士。

 故郷を邪ん肉じゃんにく大王だいおうに滅ぼされ、家族を、友人を、密かに慕っていた姫君を陵辱され、皆殺しにされた男。

 復讐のためにすべてを捧げ、邪ん肉じゃんにく大王だいおうを追いつづけてきた男。しかし――。

 その復讐の戦士も、いまではただの獲物。

 惑星のようにふくれあがった上腕二頭筋の先の巨大な手に首根っこをつかまれ、宙吊りにされている。

 その痣だらけ、腫れだらけの体。

 いったい、何発、殴られたのかさえわからない。

 しかし、それは邪ん肉じゃんにく大王だいおうが手加減していた、いや、遊んでいた証拠。このあまたの星を滅ぼした大宇宙の狩猟民族の大ハーンが本気を出せば、すべてを復讐に捧げた戦士と言えど、ただの一発で殺すことができたのだから。

 そう。己のすべてを復讐に捧げた戦士でさえ、邪ん肉じゃんにく大王だいおうにとってはいたぶり、遊び、からかうだけの弱敵に過ぎない。

 その証拠に邪ん肉じゃんにく大王だいおうのむき出しの皮膚にはかすり傷ひとつついていない。最上級のオイルを塗り込んだ筋肉のきらめきに満ちて、光りかがやいている。

 「貧肉貧肉貧肉ぅぅぅぅっ~!」

 邪ん肉じゃんにく大王だいおうの野蛮を極めたその笑い声は、宇宙の真空すらも震わせ、耳に聞こえる音となって全宇宙に響きわたった。

 「それでも、復讐にすべてを捧げた戦士か⁉ 故郷を滅ぼされ、肉親を食われ、姫を犯された上に殺された! その仇をとるのではなかったか⁉ そのために極限まで鍛え、足りぬ分は機械にかえてまで強くなったのであろう! それでこの程度か⁉ おれさまに傷ひとつつけられないとはなあっ!」

 貧肉貧肉貧肉ぅぅぅぅっ~!

 邪ん肉じゃんにく大王だいおうの野蛮かつ下卑げび、そして、すべての生命あるものを嘲笑う大笑が響いた。

 「ち、ちくしょう……」

 喉元をつかまれ、もはや指一本動かす力のない名も無きひとりの戦士。

 その戦士の腫れあがってほとんどふさがった目から一筋の涙がこぼれ、すべての歯を砕かれて血だらけとなった口からひとつの言葉が漏れた。

 復讐のためにすべてを捧げ、自らの体を機械にかえてまで強さを求めた。

 にもかかわらず、仇相手にただの一矢も報いることができずに敗北した戦士の、悔しさを、無念を、怒りを、慚愧ざんきの念を、ありったけ詰め込んだ涙であり、言葉。

 それをわらえるものなど、この宇宙のどこにいよう。だが――。

 邪ん肉じゃんにく大王だいおうわらった。

 どこまでも大きく、愉快そうに。

 「わはははははっ! 無様なり、復讐の戦士よ! 戦いの場で涙を流す戦士がどこにいる? きさまはもはや戦士などではない。単なる狩りの獲物に過ぎん。その名にふさわしく、鍋で煮て、食らってくれるぞ!」

 そのわらいと共に――。

 邪ん肉じゃんにく大王だいおうは名も無き戦士の喉を握りつぶした。

 「………! 誰でもいい! こいつを……殺してくれえっ!」

 いまわの際に放たれた戦士の叫び。

 その悔しさの固まりを受けとめるものはこの宇宙にはいないのだろうか。

 空しく虚空に吸い込まれるしかないのだろうか。

 邪ん肉じゃんにく大王だいおうは単なる食材と化した戦士の体を放り出し、大笑した。

 「ふははははっ! 次は噂に聞いた『地球』とやらに行ってやるか。なんでも、ウ○ト○兄弟だの、仮○ラ○ダーだの、ス○パ○戦隊だのと常識外れのヒーローとやらがわんさかいる星だそうだからな。おもしろそうではないか。この邪ん肉じゃんにく大王だいおうを楽しませてくれる相手がいることを祈るぞ!」

 わらう、

 わらう、

 わらいつづける。 

 このとき――。

 大宇宙のすべての生命を狩り尽くし、食らい尽くすことを宿命として生まれた狩猟民族が、地球を次の獲物と定めたのだ。


 平和な日本は今日も安泰。

 穏やかな朝日が空にのぼり、道行く人々を照らしだしている。

 そんな朝日のさす通学路。

 多くの学生たちが歩いているそのなかでも、とくに目をひくのが身長二メートル八〇センチ、体重五二〇キロの女子高生。

 日本きってのお嬢さま校に在籍する、異世界よりやって来たオーガ族の戦士、崩壊童ほうかいどうJK。

 史上最強の女子高生は、今日もそのワガママボディをお嬢さま校の可憐な制服に包みこみ、ズシズシと音を立てて道路を穴だらけにして国土交通省のお役人たちに頭を抱えさせつつ、静々と登校していた。

 そんな崩壊童ほうかいどうJKを熱い視線で見つめるのが近くの男子校に通う男子高校生たち。

 その目をキラキラと輝かせ、頬を紅潮させて見つめる姿はまさに『高嶺の花をでる』、そう呼ぶにふさわしいものだった。

 「うぅ~、崩壊童ほうかいどうさん、今日もいいなあ」

 「ほんとだよなあ。あのデカい胸、たまらねえって」

 「ミニスカートから伸びた脚も最高! マジ、憧れるわあっ」

 「おれ、もう我慢できねえよ。今日こそ告白しようかな」

 「やめとけ、やめとけ。あんな高嶺の花、おれたちなんか相手にされないって」

 「だよなあ。雲の上の存在過ぎるよなあ」

 と、指をくわえて見つめる男子高校生たち。

 だが、そのなかのひとりが突然、崩壊童ほうかいどうJKの前に飛びだした。その顔は、興奮のあまり真っ赤に紅潮している。

 「崩壊童ほうかいどうJKさん!」

 その男子高校生は叫んだ。上半身ごと頭をさげ、右手を差し出した。

 「弟子にしてください!」

 「弟子、とな?」と、崩壊童ほうかいどうJK。

 「はい! あなたのその筋肉に惚れました! 自分もあなたのようなマッチョになりたいんです! 鍛えてください!」

 まさに、人生の命運を懸けた一大勝負の決死の告白。その告白にざわめいたのは当の崩壊童ほうかいどうJKではない。まわりを埋め尽くす男子高校生たちだった。

 「お、おい、あいつ……! ずりぃ、抜け駆けしやがったぞ!」

 「ああ、許せねえ! みんな、同じ思いなのに胸に秘めているってのに……!」

 「いやあ、大した勇者なんじゃないか?」

 「んな呑気なこと言ってる場合か! あいつひとりに良い格好させねえっ! おれたちも行くぞ!」

 たったひとりの勇者の決死の行動。

 それが呼び水となって崩壊童ほうかいどうJKの筋肉に憧れていたマッチョ志望の男子高校生たちが一斉に動き出した。

 たちまち一〇〇を超える男子高校生が崩壊童ほうかいどうJKのまわりに群がり、一斉に頭をさげる。

 「弟子にしてください!」

 「ふむ。弟子か」

 と、崩壊童ほうかいどうJKはまんざらでもない様子で現役女子高生らしく首などをかしげて見せた。

 「我は歴史と伝統ある婚約破棄流活殺術の継承者なり。その歴史と伝統をこの世界に伝えることはやぶさかではない。しかし、我が婚約破棄流活殺術は一子相伝の暗殺拳。たとえ、そのとばくちだけであろうとも、学ぶには相応の覚悟がいるぞ?」

 「わかっています!」

 「崩壊童ほうかいどうさんのようなマッチョになるためなら、どんな苦労もいといません!」

 「どうか、お願いします!」

 「うむ。よかろう。そこまで言うなら全員、我が弟子として受け入れようではないか」

 「ありがとうございます!」

 「では、手始めだ! まずは全員、一〇〇〇キロの荷を背負って、己の学校まで全力で走り抜けいっ!」

 「イエス・マッスル!」


 婚約破棄流活殺術道場。

 その看板がかけられた建物のなか。

 そこはまさに、マッチョ志望の勇者たちの天国となっていた。

 崩壊童ほうかいどうJKの弟子となった一〇〇人の男子高校生。その全員が短パン一丁という格好で、むき出しの筋肉を惜しげもなくさらしながら、鬼の形相で筋トレに打ち込んでいる。

 流された大量の汗が体温によってたちまち蒸発し、蒸気となってジムのなかに立ちこめ、室内を白い靄で埋め尽くしている。

 そのなかで一心不乱に筋トレに励む男子たちの筋肉は、汗にまみれて黄金に輝き、その輝きが周囲の霧に乱反射してボンヤリとした光となって広まっている。

 ――まるで、夜霧のなかの灯台の光のよう。

 見るものがいれば、そう表現したにちがいない。

 そして、それはまちがいではなかった。

 その光こそはまさに、人々をマッチョ界へといざなう導きの光なのだから。

 導きの光を放つ一〇〇の弟子たちは、霧のなかの水分に濡れてジットリと固まったプロティンを押しかため、握り飯としてむさぼり食らう。水がわりの卵液で一気に胃袋に流し込み、即座に鍛錬に戻っていく。

 そんな弟子たちに向かい、崩壊童ほうかいどうJKの熱い叱咤が飛ぶ。

 「よいか! 筋肉は一日にしてならず! ただひたすらに鍛錬に励むべし! 食事と睡眠、排泄、入浴の時間以外はすべてを鍛錬に費やすべし! それ以外のことなど考えてはならぬ!」

 「イエス・マッスル!」

 「お肌のお手入れも怠るでないぞ! いかに筋肉を鍛えようと、お肌が荒れていては美しさは望めん! お肌のお手入れも筋肉を育てる重要な要素と認識すべし!」

 「イエス・マッスル!」

 「鍛えよ、鍛えよ、ひたすら鍛えよ! よく鍛え、よく食べ、よく眠る! それでこそ筋肉は鬼ん肉キンニクへと進化する! 鬼ん肉キンニクを求めるならば、一瞬たりともそれ以外のことをしている暇などないぞ!」

 「イエス・マッスル!」

 崩壊童ほうかいどうJKの激に、マッチョを目指す男子たちの声が唱和する。

 地球温暖化を憂いている活動家が見れば、

 「これこそ、地球温暖化の元凶!」

 と、そう叫び、冷却剤をぶちまけるにちがいない、暑苦しいその光景。

 そのさなか、邪ん肉じゃんにく大王だいおう率いる大宇宙の狩猟民族はついに地球にやって来た。

 迎撃に出た各国の戦闘機をハエのように撃ち落とし、狩りを極めし民族の宇宙船は地上へと降り立った。

 「貧肉貧肉貧肉ぅぅぅぅっ~! これがきさまらの言う近代兵器とやらか⁉ 我らの筋肉にかすり傷ひとつつけられないではないか!」

 拳銃の弾を、マシンガンによる銃撃を、戦車による砲撃すらもその筋肉ひとつで跳ね返し、邪ん肉じゃんにく大王だいおうは高笑い。配下ともども地上を練り歩く。

 「ふははははっ! ウ○ト○兄弟はどうした⁉ 仮○ラ○ダーはどうした⁉ ス○パ○戦隊とやらはどこへ行った⁉ 我ら、大宇宙の狩猟民族に恐れをなして逃げ出したか⁉

 それならそれでよい。この星のすべての生命を狩り尽くし、食らい尽くすだけだからな! 食らわれたくないらならせいぜい抵抗してみるがいい! おれを楽しませたなら、我が民族の一員に取り立ててやらぬでもないぞ!」

 高らかに笑いながら歩きつづける。

 その姿を人々は絶望の表情で見上げている。

 「……ああ、なんてことだ。ス○パ○戦隊が終わってしまったばかりに、こんなことに」

 「ちくしょう! 予算不足だからってス○パ○戦隊を終わらせたやつら一生、恨んでやる!」

 邪ん肉じゃんにく大王だいおうはその声を心地良さげに聞きながら町中を練り歩く。

 人々の怒り。

 苦しみ。

 憎悪。

 まさに、それこそは邪ん肉じゃんにく大王だいおうとその配下の狩猟民族の強さの証明。耳に心地良いのが当然だった。

 しかし、それは、狩られる側にとってはまさに絶望。自分がもはや『人』ではなく『獲物』に過ぎないのだと思い知らされる現実。

 このまま地球は、地球のすべての生命は、この大宇宙の狩猟民族に狩り尽くされ、食らい尽くされてしまうのか。

 希望はないのか。

 救世主はいないのか⁉

 否!

 希望はある!

 救世主はいる!

 そう叫ぶかのごとく、邪ん肉じゃんにく大王だいおうとその配下の狩猟民族の行く手に一筋の光が差し込んだ。

 「むっ?」

 いぶかしむ表情を浮かべた邪ん肉じゃんにく大王だいおう

 その目の前に忽然と表われたもの。

 それは、ひとつのステージ。

 その上には千のバックダンサーを従えたほたるが立っている。

 時局をかんがみてか、普段のメイド服を脱ぎすてて、メタリックなミニスカートのステージ衣装を身にまとい、アニメタルのリズムに乗って熱唱する。



そびえる鬼ん肉キンニク たぎるはこぶし

敵に見せるは雄牛の構え

地獄の獣か、地上の鬼か

お前が通ればすべてが砕ける

婚約破棄の申し子、その名は

崩壊童ほうかいどう


お前の行く手に壁などないさ

殴ればすべてが砕けて消える

大地を震わし、歩みつづけろ

婚約破棄の嵐を吹きあらせ


婚約破棄!

それは絆を壊す魔性

婚約破棄!

それはすべてを砕く力

婚約破棄!

拳に乗せて撃ち出せば

この世のすべては塵へとかわる

お前が勝者だ、崩壊童ほうかいどう

婚約破棄は常に勝つ



 宇宙を震わせる邪ん肉じゃんにく大王だいおうとその配下たちも思わず足をとめて聞きぼれるほたるの熱唱。

 そのリズムに乗って表われいずるは我らが鬼ん肉キンニク魔法少女・崩壊童ほうかいどうJKと、その一〇〇の弟子。

 大宇宙の狩猟民族からこの世界を守らんと、まさに一枚の壁となってやってくる。

 ほたるの歌が終わった。

 メタリックなミニスカステージ衣装に身を包んだ少女は、ステージの上で上半身ごと深々とお辞儀した。

 「ありがとう」

 その一言と共に――。

 ほたると千のバックダンサーを乗せたステージはどこへともなく消えていく。

 「おおっ~」

 と、思わず感銘の声と共に拍手を送る邪ん肉じゃんにく大王だいおうとその配下たち。

 「ご静聴、感謝する」

 崩壊童ほうかいどうJKが改めて礼を述べた。

 その姿勢が気に入ったのか、大宇宙の狩猟民族の大ハーンは『苦しゅうない』とばかりに鷹揚おうような態度で答えた。

 「なんの、なかなかに愉快な出迎えではないか。満喫したぞ」

 「それはなにより」

 「して、あのような歌で出迎えたからには、おぬしが我らと戦うと、そう言うことでいいのだな?」

 「むろん。我はこの星にて、ある相手と戦わなければならぬ。それがすむまで、この星を廃墟とさせるわけには行かぬ。いまは不在のウ○ト○兄弟にかわり、この崩壊童ほうかいどうJKと一〇〇の弟子が地球を! 人類を守る!」

 「やってみろ!」

 邪ん肉じゃんにく大王だいおうのその叫びと共に――。

 配下の狩猟民族が一斉に襲いかかる。

 対して、崩壊童ほうかいどうJKもあまたの弟子たちに号令をかける。

 「行けいっ! いまこそ、鍛錬の成果を見せるのだ!」

 「イエス・マッスル!」

 叫びと共に飛び出すは、崩壊童ほうかいどうJKの弟子たるマッチョ志望の一〇〇の男子たち。短パン一丁の姿で、汗とオイルに輝く筋肉を惜しげもなくさらしながら走り出す。


 「フロントラットスプレット!」

 「ぐわあっ!」


 「サイドチェスト!」

 「うおおおっ!」


 「バックダブルバイセップス!」

 「ぎゃああっ!」

 

 「バックラットスプレット!」

 「ふんぎゃあ~!」


 「サイドトライセップス!」

 「どうわあああ~!」

 

 「アブドミナルアンドサイ!」

 「ぐぎゃあああ~!」


 真っ白な歯をキラリと輝かせ、まぶしい笑顔と共に次々と繰り出されるポージング殺法。

 汗とオイルに濡れた筋肉の輝きに、さしもの狩猟星人たちも太刀打ちできずに撃破されていく。

 そして、ついに――。

 「モストマスキュラーポーズ!」

 最後の奥義が炸裂。

 弟子たち全員で一斉に繰り出したそのポージング。

 白い歯をキラッ! と、光らせたその笑顔と共に、弾けとぶ筋肉の輝き。

 その輝きが一兆度の光の奔流と化して襲いかかり、狩猟星人たちを呑み込んだ。

 その光が去ったあと――。

 もはや、狩猟星人たちは跡形もない。

 立っているものは邪ん肉じゃんにく大王だいおうただひとり。

 戦車砲すら跳ね返した大宇宙の狩猟者。

 それを、マッチョの輝きが駆逐してのけたのだ。

 「ほう、やるな」

 と、邪ん肉じゃんにく大王だいおうですら弟子たちの奮闘を素直に認めた。

 「その筋肉、たしかになかなかのものだ。だが、まだ甘い! 真の筋肉とはこういうものである!」

 叫びと共に邪ん肉じゃんにく大王だいおうが披露したのはポージングの原点にして頂点、フロントダブルバイセップス。

 両腕を雄牛の角形に掲げて胸をそびやかしたその姿。全身から邪悪な、しかし、それだけに激しい邪ん肉じゃんにくの光が放たれ、弟子たちを吹き飛ばす。

 「貧肉貧肉貧肉ぅぅぅぅっ~! 見たか! これが我が邪ん肉じゃんにくの輝き! きさまら小僧など敵ではないわ!」

 「ふむ。たしかに、やるな」

 そう言いつつズシリと音を立てて前に踏み出したのは崩壊童ほうかいどうJK。

 例によって地面を穴だらけにして国土交通省のお役人たちの胃を痛くしながら、邪ん肉じゃんにく大王だいおうに対峙する。

 「だが! 甘いのはおぬしの方だ! 真なる雄牛の角の構えとはこう言うものである!」

 崩壊童ほうかいどうJKは叫びと共にグワっと両腕をあげて雄牛の角のポーズを決める。

 鬼ん肉キンニクの炎がほとばしり、邪ん肉じゃんにくの汚れた輝きを吹き飛ばす。

 「な、なんだと……⁉」

 あまりの勢いに体勢を崩された邪ん肉じゃんにく大王だいおうが思わず驚愕の声をあげた。

 「ば、馬鹿な……! この宇宙におれを凌ぐ筋肉の輝きの持ち主がいるなどとは……!」

 「弟子の仇をとるのは師の務め! 受けるがよい! 婚約破棄流活殺術奥義! 諸共地獄落とし!」

 叫びと共に放たれた巨大な拳。

 そのこぶしに乗せられた莫大な、計ることすらもできないほどのすさまじい量の婚約破力が放たれる。

 それは渦を巻いて、集約し、一点へと集中。極限まで圧縮され、変異を遂げ、無限大の重量をもつブラックホールへと進化する。

 「うおおおおおっ!」

 さしもの大宇宙の暴君もその絶対重力には逆らえず、自慢の肉体を呑み込まれる。邪ん肉じゃんにく大王だいおうを呑み込んだブラックホールはそのまま宇宙の果てまで突き進む。

 宇宙のすべての生命を狩り尽くし、食らい尽くそうとした邪悪はここに滅びた。

 宇宙から降りかかるキラキラとした輝き。それは、

 ――ありがとう、ありがとう。

 邪ん肉じゃんにく大王だいおうに故郷を滅ぼされ、復讐を誓いながら、一矢を報いることもできずに殺されていった戦士たちの感謝の声。

 ありがとう、崩壊童ほうかいどうJK。

 戦士たちの無念を晴らしてくれて。

 崩壊童JKはその輝きに包まれながら、ゆっくりと両腕を回転させ、雄牛の角の構えをとる。

 「婚約破棄は常に勝つ!」

 その輝き、まさに勝利の女神。

 輝きに包まれた師の姿に、弟子たちの歓喜の声が響く。

 「すげえっ! さすが師匠、一撃だぜ!」

 「おれたちにできないことを平然とやってのけるっ! そこにシビれる、憧れるぅ~!」

 「うむ」

 と、崩壊童ほうかいどうJKは弟子たちの賛辞に満足げにうなずいた。

 「おぬしたちもよくやった。我が弟子の名に恥じぬ見事な奮闘振りであったぞ」

 「やったあ、師匠に褒められたぞおっ!」

 いまや、単なるマッチョ志望から正義を守るマッチョの戦士へと成長した一〇〇の男子高校生たちが歓喜に沸いた。

 「よろしい。この勝利とおぬしたちの成長を祝い、今宵は宴に興じようではないか!」

 「イエス・マッスル!」

 その声と共に地球は一斉に夕暮れを迎える。

 自然現象をも覆すマッチョの意気。それを祝福すべく降りそそいだ穏やかなる光のなか、どこからともなく表われた櫓を囲み、浴衣姿の千のメイドが踊りを舞う。

 そして、櫓の上ではやはり、浴衣姿のほたるが歌っている。



鬼も一八 番茶も出花

花も恥じらう一八歳

史上最強 女子高生

こぶしうなれば 理屈は吹っ飛び

みんな骸

あまりに強すぎ

一話 一話が 最終回

やって来ました 侵略者

遠路はるばるお疲れさまです

お滅びね~



 話題沸騰、人気絶頂の新番組『魔法少女・崩壊童ほうかいどうJK』ED『崩壊童音頭』に乗って、居並ぶ全員が櫓を巡って踊り出す。

 かくしてここに勝利の宴は開かれ、全地球規模での大盆踊り大会となった。

 地球の平和は今日も守られた。

 崩壊童ほうかいどうJKの手によって。


 その頃――。

 「ゼッ〇ン、ゼッ〇ンはどこにいるのおっ~! 早く出てきてくれないと地球が壊されちゃうよおっ~!」

 小さき妖精の大きな叫びは、今日も空しく大宇宙の深淵に呑み込まれているのだった。


                    完

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