魔法少女・崩壊童JK2
その城は、人々の怨念を塗り固めて作られていた。
千の平行世界に接する狭間の空間。
そのなかに作られた魔性の空域。
そのなかでいま、千の世界から連れてこられた住人たちが、自らの世界の存続と引き替えに石を運ばされ、城を作らされている。
自らの世界を征服し、生殺与奪のすべてを握る怨敵の城を。
奴隷と呼ぶのさえ生ぬるい。
奴隷であれば、主人や権力者に対して保護を求めることもできる。千の世界の住人たちにはそんな贅沢は許されない。
「逆らえば、お前の世界を滅ぼす」
そう脅されて、死ぬまで働かされるのみ。
来る日も来る日も石を運び、城を築きつづける。
魔法もない。
機械もない。
使うことを許されてはいない。
あえて、その身ひとつでの石運びを強制し、苦悶する姿を見下ろす。
それこそが『権力者の楽しみ』というものだった。
過酷な労働にひとり、またひとりと死んでいく。
その無念が、悔しさが、恨みの思いが、一つひとつ抜き出され、城作りの石へとかえられていく。
そして、その石をまた人々が運ぶのだ。
そうして、城は作られつづける。
いつ、終わるのか。
終わりなどない。
この城は永遠に拡張され、永遠に築かれつづけるのだから。
そう。千の世界の住人たちもまた、永遠に石を運びつづけるのだ。
「きさま……。自分の城を築くためにどれほどの人々を死なせた?」
もし、城の
城の
「お前は、家を建てるときに犠牲になった虫の数を数えているのか?」と。
それが、城の
百の世界を滅ぼし、千の世界を征服した平行世界の魔王。
ベイク・ド・サタン。
その身は一〇〇メートルを優に超え、頭には雄牛を思わせる二本の巨大な角。その角をザンバラに乱れる長い髪が覆っている。
その肉体は神に捧げられた彫像のようにたくましく、全身の筋肉が発達している。それでいて、完璧な均衡を保つ機能美を見せつけている。
姿形だけならば真善美の極致のごとき完璧さ。しかし、その身から噴きあがるは、とめどもない支配への欲求、征服への渇望。
すべてを支配し、すべてを我がものとしなければ気が済まない、果てしなき欲求の固まり。
それが、ベイク・ド・サタン。
平行世界の魔王。
その魔王はいま、腹心の部下であるキノッピオからの報告を受けていた。
「魔王さま、魔王さま! 次に侵略する手頃な世界を見つけました!」
「ほう。地球というのか。なかなかに美しい世界だな」
「はい! この世界を見つけたときには心が震えました! まさに、これこそ魔王さまにふさわしい世界です!」
「よろしい。キノッピオ、いますぐに出陣だ! この美しい世界を我がものとするぞ!」
「はい!」
そして、千の世界の征服者は旅だった。
千一番目の世界を手に入れるために。
「祇園精舎の鐘の音、諸行無常の響きあり。沙羅双樹の花の色、盛者必衰の理をあらはす。おごれるものも久しからず。ただ春の夜の夢のごとし」
一切の淀みなく朗々と、しかも、その時代の琵琶法師もかくやという豊かな声量とリズム感とをもって語られるその一説。
平家物語。
日本人には馴染み深いその物語を語っているのは身長二メートル八〇センチ、体重五二〇キロの巨大なオーガ……の、姿の女子高生。
その怪異なる肉体を可愛らしい制服に包みこみ、教室のなかにそびえ立ち、ミニチュアのように見える教科書を開いて朗読している。
そのあまりにも見事な声量、心地良いリズム感に、古文の教師も、クラスメートの少女たちも、一様にウットリと目を閉じ、聞き惚れている。
平和な日本の平和な昼下がり。
日本最高峰のお嬢さま校でのことだった。
「すばらしいわ、
「異世界からの留学生でありながら、日本の古文をそうも完璧に読みあげることができるなんて」
「異世界からの留学生なればこそ」
「この世界に住まう以上、その歴史と伝統を学び、溶け込むべし。そう心得ております」
「ますます、すばらしいわ! まさに、学生の鑑。これからもますます精進してくださいね」
「かたじけない」
『多様性』の名のもとに、多額の費用をかけて校舎を補強し、特別性の椅子と机まで用意して、異世界からやって来たオーガを留学生として迎え入れた日本最高峰のお嬢さま校であった。
放課後の校舎。
その一角からなんとも言えないおいしそうな匂いが漂ってくる。甘く、しかし、上品なお菓子の匂い。
女子部。
その匂いが漂ってくる部室には、そう記されていた。
その部屋のなかには一〇人ばかりの女子高生ともうひとり、身長二メートル八〇センチ、体重五二〇キロの女子高生がいた。お菓子の甘い香りはその巨漢の女子高生のもつオーブン皿の上から漂ってきていた。
「さあ、できたぞ」
そう誇らしげに言いながら、オーブン皿の上のお菓子を取りわけ、一人ひとりの前に置いていく。
その繊細な手付きがまさに淑女そのもの。礼儀作法の講師すべてが『手本にするように』と、生徒に指示するほどのものだった。
その横には白いティーカップ。なかには鮮やかな紅い水色の紅茶が満たされている。
テーブルには精緻な刺繍の施されたクロスがかけられ、少女たちの座る椅子にはやはり、繊細な刺繍の施されたクッションが置かれている。
目の前に並べられたお菓子を見て、少女たちは黄色い歓声をあげた。
「うわっー、すごい! これが
「うむ。ラズベリーミルフィーユタルトのクランベリーソース添えである」
「うわあっ、名前も高級で、すごいおいしそう」
「名前や見た目だけではない。まずは食してみよ。味の良さも折り紙付きである」
「はあーい!」
と、少女たちは元気よく返事をして
「おいしい~」
「う~ん、ほっぺた落ちちゃう!」
と、なんとも甘い『ハート』を辺り一面に飛ばしながらの女子高生たちの賛辞が響いた。
「それじゃ、
「うむ。そして、侵略者を
「わあー、
「まじめだし、勉強もできるし、お菓子作りに刺繍まで……まさに完全体女子! なんだか、嫉妬しちゃうなあ」
「すべては修練の
「やったあっ! よおし、
「おおっー!」
と、元気いっぱいの女子高生たちの声があがった。
そのとき――。
突如として地球全土が闇に閉ざされた。
その闇を裂くようにして空に表われたもの。
それこそは、千の世界の住人の恨みを塗り込んで作られた魔王ベイク・ド・サタンの本拠地。
魔王の誇る浮遊城であった。
その城から朗々たる魔王の声が響きわたる。
「
その声に応じるように戦闘機が発進し、浮遊城に攻撃を仕掛ける。しかし――。
魔王の圧倒的な力によって守られた浮遊城に人類の攻撃など無意味。かすり傷ひとつつけることもできず、逆に戦闘機は次々と落とされる。その様に魔王の高らかな嘲笑が響きわたる。
「ふははははっ! もろい、もろすぎるぞ! この世界の住人の力とはこの程度か! 慈悲深い我が選択肢を与えてやろう! 我に従い、生き残るか。それとも、死に絶えるかをな!」
それはまさに死刑宣告。
すべてを奪われて家畜となるか。
人の誇りを守るために死ぬか。
その究極の二択を迫られている。
地球はこのまま魔王の手に堕ちてしまうのか。
人類は、世界は、その明日を失ってしまうのか。
世界が絶望に覆われた、まさにそのとき。
救世の光は表われた。
中空に浮かびあがるステージ。
千のメイドを従えてセンターに立つのは
いつものメイド服を、清楚な白いドレスに替えて立っている。両目を閉じ、両手を組み合わせ、国歌を斉唱するかのような荘厳な歌声を響かせる。
傷ついたって
血だるまだって
ぶちのめすから平気なの
拳が唸れば、敵が死ぬわ
パンチ、キック、アタック
ワン・ツー、ワン・ツー、
「だけど、女子会したい。女子高生だもん」
敵の生首、空へと掲げて
勝利の雄叫び、あげるのよ
近頃話題の新番組『魔法少女・
「楽しい女子会の邪魔をするとは無粋の極み! 去るがよい、狼藉者が!」
その叫びを受けて――。
浮遊城のなかの魔王は腹心のキノッピオに尋ねた。
「なんだ、あやつは? 他の人間とは種族がちがうようだが」
「さあ? この世界には、あんな生物はいないはずなんですけど」
「まあよい。身の程知らずにも我に歯向かうつもりのようだ。ウルトラメガトンハイパーZン砲で跡形もなく消してやれ」
「はい! ウルトラメガトンハイパーZン砲、発射します!」
浮遊城から莫大なエネルギーの固まりが放たれる。それをまともに受けていれば地球の半分が吹き飛んだことだろう。
そのエネルギーを感じとった
「愚かものめ! 婚約破棄流活殺術奥義! 木の葉竜巻風船落とし!」
その叫びと共に――。
放たれたのは想像を絶する破壊の力。
物質化するほどに超高密度と化した破壊の力が竜巻のなかの木の葉のように渦を巻きながら襲いかかり、ウルトラメガトンハイパーZン砲のエネルギーを、浮遊城を、さらには、魔王ベイク・ド・サタンそのものさえも巻き込み、押し返し、魔王の世界へと叩きつける。
その衝撃でウルトラメガトンハイパーZン砲のエネルギーと、浮遊城に塗り込められた無数の怨念、さらにベイク・ド・サタン自身の無尽蔵の魔力までもが放出され、融合し、とてつもない破壊的、壊滅的な力となって噴きあがった。
その奔流を受けて、さしもの魔王ベイク・ド・サタンも消滅。魔王の作りあげた世界そのものも跡形もなく消え去った。
ここに、百の世界を滅ぼし、千の世界を征服した恐るべき支配欲と征服欲の魔王は滅びた。
千の世界は解放された。
救われたのだ!
ありがとう、
君こそ世界の救世主!
「ふん」
と、一撃のあとの残心の構えをとる
「うわあー、すごい。一発でやっつけちゃった」
「やっぱり、
「うむ。中座などして失礼した。さあ、女子会をつづけようぞ」
「はあーい!」
こうして、楽しい女子会は守られた。
これからも平和な女子会はつづくだろう。
その頃――。
なにかの手違いで
「ゼッ〇ン、ゼッ〇ン! ゼッ〇ンはどこにいるのっ⁉ 早く見つけないと地球が壊されちゃうよおっ!」
完
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