エンドレス入会

春雷

第1話

 あの、入会していただけませんか、と駅前を歩いていたら、声をかけられた。僕はいつもなら素通りするのに、今回は立ち止まってしまった。声をかけてきた彼女が、従兄弟に似ていたせいだろうか。

 僕の横を人々は通り過ぎていく。駅前広場は待ち合わせの人で溢れている。空はやや曇り空で、今は夏だが、今日は風も強く、比較的涼しかった。

「入会していただけませんか?」と再度、彼女は言う。

「何の会にですか?」

「入会のための会に、です」

「入会のための会?」僕は訊き返す。何だそれは。

「入会するためにまず、入会のための会に入会していただき、それから入会するという流れです」

「はい?」全然理解できない。「えっと、あなたは僕に何の会に入会してもらいたいんですか?」

「ですから、まず入会のための会にご入会いただきたいです」

「ええっと、入会のための会に入会すると、いったいどんな得があるんです?」

「入会ができます」

「だから何に?」

「入会のための会に入会した後、入会した方が入会する会に入会できます」

 頭が混乱してきた。

「入会した方が入会する会では、何をするんですか?」

「入会した方々が先に入会した方の講義を聞き、次に入会するべき会とマッチングします」

「どういうことですか、それ」僕は頭を掻く。「つまり、何かに入会するために、その会に入会するということですか?」

「ええ。人生とはつまり入会です。入会をするために入会をし続ける。いわばエンドレス入会です。そのエンドレス入会をするために、まずは入会していただきたいのですが」

 頭が痛くなってきた。いくら風が涼しいとはいえ、雲間からの日差しがきつい。日差しを浴び、頭が鈍ってきたような気がする。もう、「入会」という言葉を聞きたくない。

 僕は「入会はお断りさせてください」と言ったが、彼女はさらに食い下がってきて、「しかし今入会しないと、入会のための会に入会できず、そうなると入会した方が入会する会にも入会できなくなり、入会済みの方専用入会会と入会希望者の集い、入会会、入会するべき会、入会のために入会する会に入会した方限定入会の会、入会会入会希望入会会入会の会の集いにも入会できなくなりますよ?」

 僕はもう何が何だかわからなくなってしまって、入会します、と言った。

 1997年、夏。

 思えば、それが僕のエンドレス入会のはじまりだった。


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エンドレス入会 春雷 @syunrai3333

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