2 告白と返答②

(……稔、私のこと好きだったんだ)


 その夜、もうあとは寝るだけ、となった晶は、ベッドに座り、改めてあの放課後のことを思い出す。


『晶のことが好きだ。付き合って欲しい』


「そう言われてもねぇ……」


 ぽふっ、とベッドに寝転び、


「うまく思い描けないんだよなぁ……」


 晶は呟く。

 稔と付き合うということは、つまり、稔とデートをしたり、キスをしたりするということだろうと、晶は考える。


「……」


 そこまで考えて、ふと、自分が稔の彼女にならないということは、誰かがいつか、そのポジションに収まる可能性があるのだと、晶は気づく。

 稔が誰かと手を繋ぐ。デートをする。キスをする。そしていつかは、その先まで──


「……なんだろ。やだな」


 晶の胸の奥から、モヤモヤしたものが湧いてきた。

 この気持ちはなんだろうか。晶は考える。


「……」


 考えても答えが出ないので、相談することにした。


「お姉ちゃーん」


 晶はベッドから降り、部屋を出て、姉の部屋へ向かう。


「お姉ちゃん。お姉ちゃんちょっと。居る?」


 コンコンコンコン、と長めにノックすれば、ドアが開き、


「何用かね? 君の姉は今、明日提出しなければならないレポートをやっているところなのだよ」


 と、黒髪ボブヘア、大学一年になったばかり、今年十九になる晶の姉の日向ひなたが、頭をひょっこりと出した。

 面倒くさそうな顔をしている日向へ、晶は構わず口を開く。


「そっか。じゃあレポートしながら聞いてくれない?」

「何をかね」

「んー、恋愛相談?」


 それを聞いた日向は、「えっ」と目を見開く。


「晶、好きな人出来たの? ……もしかして、稔?」

「そこがよく分かんないんだよ。だから話を聞いておくれよ」

「おし、それなら聞こうではないか。さあ中に入りたまえ」

「ありがと」


 そして、日向の部屋に入った晶は、日向に勧められるがまま対面になるようにローテーブルに座るよう促され、


「んで? 詳しく聞かせてもらおうか」


 と、ローテーブルに肘をついた日向に、空き教室に呼び出されたところから話しだした。


「──でね、よく分かんなくなっちゃった訳なのさ」

「……稔が不憫だ……」


 遠い目をして言う日向に、


「どうしてさ。そりゃ、お断りしたけれども」

「でも、他の誰かが稔と一緒になるのは嫌なんでしょ?」

「そうなんだよ。そこがよく分かんないんだよ」

「我が妹は……」


 日向は、ハァ、とため息を吐くと、


「今すぐ稔に電話して、答えは保留にさせて欲しいって言ってきな」

「なんでよ?」

「そうしないと、明日にでも稔に恋人が出来てしまうかもしれないからだよ。稔はフリーだ。その上フられたばっかりだ。そんなとこに「好きです! 付き合ってください!」て言われたら、グラっとなっちゃうかもしれない。傷心に新たな恋は響きやすいからな」


 傷心。新たな恋。稔が、誰かと。

 やはりそれを、なぜだか嫌だと思う晶は、


「……分かった。電話してくる」


 と、立ち上がりかけ、


「……なんで電話? メッセージで良くない?」


 日向に意見してみたら、日向は若干呆れたカオで、


「電話のほうが効果があるの」

「効果?」

「いーから早くしてきなさい。あと、ちゃんと、今の自分の気持ちも伝えるんだよ」

「気持ち」

「そう」


 晶は首をひねったあと、「んぅ……? まあ、分かった。ありがと」と言って、日向の部屋を出ていった。


「……上手くいって欲しいけどねぇ……」


 閉められたドアを眺め、日向はため息を吐くように言った。



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