天ヶ崎高校二年男子バレーボール部員本田稔、幼馴染に告白する。

山法師

1 告白と返答①

 4月も半ばに差し掛かる頃。俺は、一世一代の決意を持って、あることに挑もうとしていた。


 ◇


 俺の名前は本田稔ほんだみのる

 自分で言うのもなんだが、健全な男子高校生だ。学年は二年、誕生日はまだ来ていないので、歳はまだ十六。見た目の特徴を言うとすれば、身長が百九十近いことと、メガネを掛けていることくらい。そして、メガネのせいかなんなのか、周りからは真面目な奴だとか、頭が良さそうに見えるらしい。けど、真面目かはともかく、成績はほどほどの高さだ。中の上程度ってところ。

 そして今、放課後の空き教室で俺の目の前に立ち、俺を見上げているのは、中野晶なかのあきら。俺の幼馴染。ちなみに同い年。背中まである髪を茶色に染めていて、俺には誰よりも可愛く見える女子だ。

 晶とは、……ここ何年か疎遠気味ではあるけれど、何かあれば話したり、教科書を貸し借りしたりするくらいの仲ではある。

 で、その、可愛いと思っている幼馴染と、空き教室で二人きり。ちなみに晶を呼び出したのは俺。

 お分かりいただけるだろうか。

 俺は今、晶に告白しようとしている。


「そんで、用事ってなに?」


 晶が首を傾げる。

 このようなシチュエーションで、何も分かっていないらしい表情。もう既に、俺の心は折れかけている。

 が、俺は一縷の望みに賭けた。というか、賭けるしか無い。


「……晶」

「うん」

「晶のことが好きだ。付き合って欲しい」

「……うん?」


 晶が再び首を傾げる。


「えーと……?」


 晶は手に持っていた指定カバンを肩にかけ、顎に手を当て、


「好きって、恋愛としての?」

「そうだ」

「付き合うって、彼女になって欲しいってこと?」

「そうだ」

「……えー?」


 晶は天井を見上げ、俺に顔を向け直すと、


「ごめん、お断りさせてください」


 と、困った顔で言った。とてもあっさりと、俺はフラレた。


「……そうか。分かった」

「用事ってこれ?」

「ああ」

「そっか。じゃあ私行くね。気持ちに応えられなくてごめん。また明日」


 そして晶はなんの未練もなさそうにスタスタと、教室を出ていった。


「…………はぁ…………」


 俺はその場にしゃがみ込み、顔を俯ける。

 いや、分かってた。九割九分、フラれるとは思ってた。

 なぜなら、あいつが俺を恋愛対象として見ていないことは明らかだったからだ。……俺は、たぶん、物心がついた頃から、もう晶に惚れていた。そしてそれを、中学の頃に自覚して、自覚してしまった俺は、晶と距離を置くようになってしまった。あの頃の俺は、好きという気持ちより、そこから来る恥ずかしさが勝っていた。

 ……けど、やっぱり好きで。それは変えようのない事実で、俺は諦められなくて、諦めるのを諦め、当たりに行って、今、砕け散ったという訳だ。


「ハァ…………」


 悲しいし、寂しい。

 晶は良い奴だから、俺を傷つけないようにと、俺から距離を取るようになるかもしれない。……嫌だ。でも、受け入れるしかない。


「………………」


 俺は少しの間感傷に浸り、


「……行くか……」


 部活に行くため、感傷を引きずりつつ、立ち上がった。



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