第2話 家つくり案

成人祝いに家をもらった。

場所は北方ガリア領の大都市オウル。


ここを選んだのが兄上か姉上かは知らないが中々にいい場所である。

ぼくの好みのど真ん中だ。


ガリア領はいい。北側に広大な樹海があり、さらにその奥には竜の住む山脈があるという。一度くらいは見てみたいよな、竜。

オウルの東に行けば海があり、南に進んで行けば実家のあるリリーズ領がある。


ぼくは器用な男だ。

それこそ物心つく前から大抵のことはそつなくこなせてきた。


転生=チートなどと思っていたのだが、なんというか、ぼくの魔法の才は一般的には微妙だったのである。


所謂、火、風、水、土の四大魔法の素養はなく、でも精霊魔法というレア適性はあった。得意不得意でプラマイゼロ。


異種族が得意とし、人間に適性がほとんどないと言われる精霊魔法の適性があっても、そもそも精霊魔法に必要なことや習得方法などは謎であった。


精霊魔法の使い手はそれほどに少ないのだ。

そういう意味では少しマイナスか。


とにかく、四大魔法のないぼくは、その時点で貴族としては片羽。

価値などないのだ。


夕方にやってきた大工の親方と軽い打ち合わせをした後は木材などを買って宿へ向かう。


予算内で希望を出して発注し納期を決める。

この擦り合わせだけで何日かはここに滞在するのは予定通りでもある。


注文をしてしまえば完成まではリリーズ領か王都へ戻るつもりではいたのだ。

いたのだが。


水回りは今後の生活において重要であるし、工房、あるいは研究室、錬金室、作業部屋はきっちりと注文通りに作ってもらわなきゃならない。


こっちは人生がかかっているのだ。

妥協はできないのである。


けれども、ぼくの理想は高すぎたようだ。

大工も騎士達も軽く引いていた。


無知なボンボンの我儘扱いは業腹だ。


なので。

宿に戻ったぼくは設計図を描き、模型をつくった。


理想の店舗、理想の工房を縮小したものである。

設置予定の魔導具、家具なんかも作ってある。


「へぇー、器用なモンですね」


「……色も塗った方がいいと思うか?」


「設計図もできてましたよね?いらないんじゃありません?」


「ソナタ様、ここはなんで壁がないんで?」


「そこはガラスを使うつもりだ」


「それじゃあ、また高価くなっちゃいますって」


「心配するな。ガラスは、ぼくがつくるからタダだ。」


そう。当初、納期が一年以上かかると聞いてぼくは愕然とした。

魔導師様ってのは忙しいらしいもんで──と大工の親方も困った様子だったのを見て思い出した。

オウルは大きな都市ではあるが、やはり地方なのだ。

腕の立つ魔導師は王都の方が圧倒的に多い。

今まで王都にいたからすっかり忘れていた。


壁に耐久性を増す刻印やガラスなんかは手の空いてる魔導師に依頼予定だったが、魔法のあれこれをぼくが引き受けることにした。


結果、大幅にコストダウンでき、尚且つ家具を作る余裕すら生まれたというわけだ。

設計図にはぼくの引き受ける場所を細かく指定してある。


「ガラスだとすぐ割れちゃいませんか」


「強化するから問題ない」


あれこれ悩みながら家を考えていくのは楽しい。


「あ、ソナタ様、この模型を見せるのはいいですが、大工に渡したらいけませんよ?」


「何故だ?」


「いや、家具の配置とか一目でわかるじゃありませんか。セキュリティ上の問題です」


「せっかく作ったのにか」


「なら、色をつけてアリア様にお送りするのがいいと思いますよ。オウルまで来るのは難しいでしょうから」


「喜ぶと思うか?」


「もちろん」


「……考えておこう」


こうして理想の家をなるべくカタチにしていく。

護衛騎士たちも最初は面白そうにあれこれ口を出していたが、一人、また一人と抜けて休んでいく。


ぼくは一人でも作業を続けた。

理想をカタチにするのだ、妥協はしない。


夜明け近くに家の模型は完成した。

設計図も結局は描き直した。


護衛の兼ね合いとスケジューリングも上手くいきそうだし。

理想のスゴい家ができた。


「──まだ、起きてらしたのですか?」


「おお、これを見てみろ。ヤバかっこいい家だろう?」


目を細めてぼくの作った模型を眺める護衛騎士は眠そうな声で答えた。


「……リリーズ籍から抜けて平民になるって言ってませんでしたか?」


「ああ、もちろんだ」


「……でしたら、城を建てちゃあ、色々とまずくないですか」


「いや、これは城じゃない。塔だ」


「おんなじですよ。他領に平民が塔を建てたら、やっぱりまずくないですか。少しお休みになった方がいいですよ、坊ちゃん」


あくびをしながら顔を洗いに行く護衛騎士の背中と模型を交互に見つめたのち、ぼくは寝ることにした。

深夜のテンションは恐ろしいものである。

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