滅法マイライフ

餅木 うどん

第1話 成人祝いに家をもらう


ぼくはいわゆる転生者だ。


前世のぼくが誰で何で死んだのかなんてどうでもいいか。

とにかく気づいた時には転生していた。


よくある話、なのだろうか。

ぼくが生まれたのは魔法や精霊、魔物に異種族なんかがいる、これまたよくあるファンタジー世界だった。


まさに異世界に転生ってコレだよなって感ジ。


中世ヨーロッパ風じゃなくて、近世ヨーロッパ風な異世界だから、まだマシと言えるだろう。石鹸とか普通にあるし。平民でも風呂は入れるしね。


今世のぼくはとある大貴族の末っ子である。

爵位を継ぐ長兄とスペアの次兄。と、もう一人兄がいる。さらに姉が二人。

四男で末っ子のぼくには貴族の義務等なく、なんともお気楽なものであるが、いつまでも面倒を見てもらえるとは思っていない。


基本的に貴族は面倒なのである。自立は早くした方がいいのだ。


幸いにして金と権力はある家だ。小さい頃からやりたいことは家庭教師をつけられて大体やらせてもらえた。


そうして、ぼくは努力した。

将来はこの家を出て、好きなことをしながらダラダラと暮らすための努力は惜しんではいけないのだ。


そう決意してから何年経ったか。気づけば15才になっていた。

この世界では15で成人扱いされるのである。


そして。

成人祝いに祝いに家をもらった。


や、普通に驚いたし、やり過ぎだとも思う。

他領に引っ越しをさせて暗殺されてしまうのかとも思った。いや、ホント、一瞬だけ。


ぼくがもらった家は北方はガリア領にあるオウルという大都市にある。


王都から東に進んで行くとリリーズ領。そこから北上すればガリア領の南側、領境にある大都市オウルに着く。


王都を出て、リリーズ領──実家によって──オウルに着いたのは王都を出てひと月ほどかかっただろうか。


「坊ちゃん、ここがそうですか?」


兄のつけた護衛騎士の一人が成人祝いにもらった家の前で呟く。


「そうだ。いいだろう? 今日からここがぼくの城だ」


「なんというか……大きな平民の家って感じですね」


「何を当たり前なことを……。リリーズの籍から外れて、ぼくは平民になるんだぞ」


ぼくはその少し汚れた我が家を見て満足そうに答えた。

売りに出されていたその家は元は職人の家だった。

店舗の奥に住居スペースがあり中庭を挟んで工房と住み込みの弟子の生活スペースがある。


都市の外側にあるが、日当たりはいい。

近所に人が少ないが、中庭だけでなく側面にも庭がありとにかく広いというのが特にいい。


「まぁ、この土地は兄上が、上モノの建て替えの払いは姉上だ。タダでもらったんだ。文句どころか、ぼくは気に入ったぞ」


「そういうもんですか」と気の抜けたようなことを言う護衛騎士を無視してぼくは建物の中へ。

ぼくも大貴族の血を引くからか、平民のような家はふさわしくないとでも思っているのだろうか。


やはり貴族は面倒だな。


少し埃っぽいが十分な広さはある。

一人で暮らすのなら掃除は大変だろうがいずれ人を雇えばいい。


「大工が来るのは夕方と言ったな? ぼくはここで大工を待つからお前たちは帰っていいぞ。兄上には非常に喜んでいたと伝えてくれ」


「いいえ、我々は建て替えがすむまでの護衛ですし、建て替え費用はこちらが一時負担したのちアリア様へ請求というカタチになりますんで」


「そうか……お前たちは邪魔なんだけどな。家ができたら兄上と姉上には何かお返しをしなきゃならんな」


ふむ──と、ぼくはうなずいて歩きだす。

何か、いいものはあるだろうか。


一通り家を見て回る。

気に入った家ではあるが、やはりそれなりに放置されていたからか。

汚れや隙間が気になるな。


気になる所をメモしながら歩くと、改装費用が結構いきそうだなと思った。


「……そういえば、ここの改修費の予算はどのくらいか聞いているか?」


「アリア様からは土地代と同額までは好きに使って良いとおっしゃってましたが?」


「……姉上はぼくに甘くないか?」


「それは──」


“自分で産んだ子も可愛いのだけれど、弟たちも可愛いのよ。中でも一番下の弟は手のかかる子だったわ。それだけに弟たちの中じゃ一番可愛いのよ”


護衛騎士から伝えられた姉上の言葉に気恥ずかしくなってぼくは黙った。


ぼくの名はソナタ・リリーズ。

今日からただのソナタだ。

万能ではないが、それなりに有能な男だと思っている。


恩はきっちりと返そうと思う。



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