第2話 雨の三人

 木樵きこり小屋があると言うことは、近くに村か町があるのだろう。その集落に住まう何人かの木樵たちが、共同で使っている小屋のようだ。体調が整ったら、集落に挨拶をして幾ばくかの礼を置いて行くつもりだった。

 体調も回復してきたので、そろそろ出発を考えていたら雨が降り始めた。かなり激しい雨で、雷も鳴り響いている。


「もう一日、ここに泊まらせて貰おうか」


 わざわざ雨に濡れて歩きたくはないし、そもそも目的があって急いでいる訳でもない旅だ。しかし、問題もあった。ここ数日の体調不良で寝込んでいる間に、保存食を食べ尽くしてしまっていたのだ。


「ああ、食べ物がないのか。今夜は食事抜きで我慢だね」


 もっとも我慢するのは、わたしだけだ。ノアールは食べないのだから。


「ラゲルナ様は病み上がりなのだから、ちゃんと食べないと駄目です。また体調を崩したら大変ですよ。妾が何か探してきますから、ここで待っていて下さいね」


「え? 探してくるって……ノアール!」


 そう言うなり、緑のドレスを脱いで黒のローブを手にする。

 ノアールの裸身には、右手の鉤爪と左脚に巻き付く蛇が見える。その、鉤爪とベビを隠すように、緩い黒のローブを羽織ると雨の中を出て行ってしまう。

 扉の外を見ても、もう姿はどこにもない。空間を別の何処かに繋げて、別の場所に行ってしまったようだ。

 扉を開けておくと、雨音がうるさいし、砕けた水滴が小屋の中へ入ってくる。扉を閉めて、ノアールが帰ってくるのを待つことにする。

 緑のドレスを脱いだのは、お気に入りの服を雨に濡らしたくないからだろう。



 少しすると、男の三人連れが木樵小屋に飛び込んできた。三人は同じ紋章の入ったマントを羽織って、その下には革鎧を身に付け剣を携えている。旅の冒険か、さもなくば傭兵と言った身なりだ。


「先客がいたのかい。まあ、この天候だ。一緒に雨宿りさせて貰うぜ」


 話しかけてきた男が、リーダー格らしい。頭一つ分でかい身体に、腕の露出した部分には無数の傷跡がある。


「わたしも雨宿りさせて貰ってるだけだから、遠慮はいらないんじゃないかね。後で、ここを管理してる村には挨拶するけどね」


 取り敢えず、わたしが良いとか悪いとか言う立場ではない。三人は、マントを脱ぐと、小屋の開いているところに座り込んで寛ぎはじめた。

 一人が、寝台の脇に置いてある海賊の剣ヴァイキングソードに気付いたようだ。顔に警戒の色を浮かべながら、他の二人に何かを耳打ちしている。その二人の視線も海賊の剣ヴァイキングソードへ向く。

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