第15話 森の深部

 魔狼ワーウルフ3体を同時に相手にするのは、なかなか大変だろう。だからと言って、わたし達に対してまでリーダー風を吹かされても迷惑だ。

 わたしは、ノアールに視線を送る。ノアールはニッコリと笑いながら歩き出した。

 ノアールとわたしは、レイバー達3人が魔狼ワーウルフ3体と対峙している脇をスタスタと歩いて行く。


「おい!」


 レイバーの大声が聞こえた。を無視されたことに機嫌を損ねたのか、不用意に戦闘の場に割り込んだことに憤ったのか。

 どっちにしても無視だ。



 ノアールとわたしは、レイバー達の脇を抜けて森の奥へ向かおうとした。すると、レイバーと向かい合っている魔狼ワーウルフの視線がこちらに向いた。

 オオォォォォーン

 一番左側にいた魔狼ワーウルフが、傍を歩いて抜けようとするノアールに向かって爪を立てた右腕を振り上げた。それに気付いたノアールが足を止める。

 ノアールの双眸が魔狼ワーウルフに向く。すると、ノアールに睨まれた魔狼ワーウルフは、右腕を振り上げたまま震えだした。


「動きを封じる魔法か?」


 ああ……レイバー達には、そう見えたか。

 そう言う面倒なことをノアールはしない。ただ単に魔狼ワーウルフが、恐怖して固まっただけだ。

 ノアールが、右半身を覆っているマントの端を左手で持ち上げた。マントの下から、鉤爪の右手が表れて魔狼ワーウルフの胸を抉った。その胸の穴から黒い砂が流れ出して、魔狼ワーウルフは依代だった野犬の死骸に還る。



 突然、黒い砂になり崩れていく魔狼ワーウルフとマントの下から伸びた鉤爪。


「おい! 何が起こった? 何をした?」


 背中からレイバーの大声が響く。先ほどよりも更に感情が高ぶっている。この様子だと、例の約束は完全に忘れているな。

 問い質されても面倒だから、残り2体の魔狼ワーウルフは残しておくよう合図した。ノアールとて《《食事》は静かにしたいはずだ。魔狼ワーウルフには、足止めをして貰う。

 レイバー達なら、何とか切り抜けるだろう。



 大声をあげるレイバーと他2人をその場に放置して、ノアールとわたしは森の深部へ向かった。

 明らかに森の様子が変化している。草木の色が緑ではなくなり、毒々しく黒ずんだ紫色になってゆく。


「これ……いつの間にか、ズレた世界に引き込まれちゃったの?」


 強力な魔力があれば、この世界とそっくり同じような疑似空間を作れる。その疑似空間は、作った魔物の結界であり、ズレた空間に引き込まれると言うことは、相手の結界に閉じ込められることだ。


「いえ。これは、皆この世界の存在ですよ。この森に集まってきた魔が草木を依代にして、実体化しているんです」


 草木が魔物になった……魔力を集める強力な呪いが森にかけられたのか?

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