第12話 約束

 ノアールのために、花を冠にするよう編んでいると、サリアが傍に来た。


「……手伝います」


 一緒に花を編むつもりでやって来たようだ。


「あんたを休ませるためにやってるんだよ。向こうで休んでな」


 ゴツゴツした岩も転がっている登り坂の途中だ。こんな場所で、ろくな鍛錬もしていない女が、花を探しながら休めるわけはない。

 魔弓をもっていないサリアは、今回は普通の弓装備で参加している。弓だけではなく背中には矢を背負っているから、それだけでもキツいはずだ。


「あの馬鹿な剣使いの傍に行って、くれぐれも約束を違えないように念押ししておいてちょうだい。もし、約束を守らない気なら……魔物の他に、あんたら3人も片付けることになるんだ。手間を掛けさせないでおくれよね」


「はい。ちゃんと言っておきます」


 レイバー達3人がついてくると言った時に、わたしは条件を出した。


『何が起こっても、何を見ても他言しないこと。全てを見て見ぬふりをすること!』


 レイバーは、これを「わたし達がレージェの弓の盗んだ」ことだと曲解したらしい。


「魔物を倒すまでは、あんたらに預けておいてやってもいい。心配しなくとも、レージェの弓さえ返ってくれば全部水に流してやる」


 何やら、妙に恩着せがましい物言いになっている。「全てを見て見ぬふりをする」との約束の意味を、完全に取り違えている。



 3人には、この時間を利用して持ってきた燻製肉とチーズを胃袋に入れておくよう伝えた。わたしも花を編みながら食べておく。

 ノアールは食事をしないのだが、それをレイバーが見咎める。


「あんたもちゃんと食っておけよ」


 ノアールにチーズを勧めたり、自分が持参した焼き菓子を渡したりとお節介を焼く。ノアールの方は、わたしの言いつけ通り3人とは一言も喋らず、渡された焼き菓子も無視している。


「レージェの弓の件と、これは別だ。遠慮しないで食えよ」


 元冒険者のギルド職員が言った通り、根は良い奴なのかも知れない。しかし、ひたすら面倒くさい。



 花の冠が完成して、それをノアールの頭に乗せてやったのだが……ノアール自身が確認する術がなかった。姿が映る鏡も水面もない。ノアールは非情に残念がりながらも、花の冠をわたしの頭に乗せて喜んでいた。自分の頭に乗せた姿を想像しているのだろう。

 花の冠は、わたしの小物を入れるズタ袋にしまう。


「帰りは、水辺の方を回って行こうよ」


「はい。そうしましょう」


 ノアールは、わたしの提案に大きく頷く。これで帰り道は、相当な回り道をすることになる。だが、それは仕方がない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る