第24話
俺の絵が盗まれた。
うん、俺だってかなり悲しいし、犯人に怒りを感じる。なにより、一生懸命描いたグレイスのことを思えば……胸が痛い。
だが、そんな俺以上に隣には静かに怒りを見せる3人がいた。
「グレイス様が丹精込めて描いた絵を盗むなんて酷い方だわ!! 許せないわ!!」
ソフィアが悔しそうに言った。
「エドワードがあれほど尽力してくれた絵を……今後こそ絶対に捕まえる」
アレクから冷気が漂ってくる。
「私のエドワードの絵が盗まれただと……これは侯爵家に対する挑戦状だな!! 絶対に犯人を捕まえて絵を取り返す」
ガラードからは烈火のような熱さを感じる。
俺はこの状況になってようやく思い出した。
確かアニメでもアレクの家のお抱えの画家の絵が盗まれるという事件が起きた。
そして、それをソフィアとアレクが聞き込みをして解決するのだ。
実はアレクの家の者が犯人と繋がっているのだが……名前も顔もよく覚えていないし、手口も覚えていない。こんな曖昧な記憶では本当にいざという時に使えない……
ただ、犯人を捜す過程でアレクとソフィアが深く信頼し合い、結婚するきっかけになる重要な事件だということはわかる。
でも、盗まれたのが俺の絵って……まぁ、アニメではかなり価値のある絵が盗まれたという設定だったので、俺の絵でよかったのだろうか?
グレイスは他にも絵を描いていたので、俺が絵でいいのか不安になる。
しかもアニメではこの調査にガラードは手を貸していなかったはずだ。
「絶対に犯人を見つけ出し、私のエドワードを奪還する!!」
たぶん、ガラードが調査に参加しないということは……ないだろう。確実に……
「必ず犯人を捕まえましょう」
「ええ。必ず」
「ああ、絶対にだ!!」
3人は一致団結し、闘志を燃やしている。
その後、俺たちは画商から盗まれた時の状況をそれはそれは詳しく聞いた後に、作戦会議のためにゲイル侯爵家に移動することになったのだった。
◇
ゲイル侯爵家に着くと、すぐに作戦会議が行われた。
「まず話を整理しましょう。今日の午前中に画商の馬車がアレク様の屋敷から、画廊に移す間に盗まれたのですよね」
ソフィアの言葉に、アレクが頷いた。
「はい。しかも、まるで狙っていたかのような早さだとか……」
「ふむ、アレクの家から画廊まではそれなりに遠い、しかも定期的に移動しているというわけではなく、昨日描き上げて、今日移したのだろう? 狙っていたにしては早過ぎるな……」
ガラードの言葉に俺は、アニメで知っていたことを口にした。
「アレクの家に賊に情報を流している人がいたりして」
俺の言葉にみんなは静まり返った。
そして、アレクが口を開いた。
「信じたくないが……このタイミングでは内通者を疑うべきだろうと思う。私は内通者を洗い出してみます」
アレクの言葉に頷くと、ソフィアが口を開いた。
「あとは……ルートですね。絵を売るには基本的に画商が作品を登録する必要がありますわ。それがなければ、誰も買えませんわ」
ソフィアの言葉に、ガラードが頷いた。
「ああ。絵画は国に財産として認定される。登録のない絵を持っていたら、脱税などで国に掴まるからな」
ガラードの言葉にアレクが頷いた。
「はい。国内に画商は数名いますが……賊はどこかに持ち込む可能性がありますね」
「では、画廊を徹底的に調べるように手配しよう」
ガラードの言葉にアレクが頷いた。
「ええ。そうして頂ければ、絵が持ち込まれた時点で犯人を捕らえることができます」
俺は何も言えないが、みんなの意見を聞いて、ふと時計を見た。
「申し訳ございません、私は明日の茶会の打ち合わせもありますので、そろそろ家に戻ります」
絵のことは気になるが、今日は兄と明日のお茶会の打合せをする約束をしているのだ。
俺の言葉を聞いてガラードが「ああ……明日は茶会だったのか」と言った。
「待って下さい!! そのお茶会で色々な方にさりげなく聞き込みをするのはいかがでしょう? よくない画廊の噂などが聞けるかもしれません」
ソフィアの言葉にガラードが「茶会なら多くの人間が集まるな」と言った。
するとアレクが「もしかして、茶会とはピスケル公爵家のベルーナ様でしょうか?」と尋ねたので、ガラードが「そうだ」と答えた。
「私も明日、ピスケル公爵家の茶会に呼ばれております」
アレクの言葉に、ソフィアが声を上げた。
「まぁ、では、アレク様もいらっしゃいますのね?」
「私も一緒に聞き込みをします」
「決まりだな」
こうして、俺以外の3人は絵についての聞き込みをすることになったのだった。
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