第23話



 ――何もしないとは?


 俺たちは食事の用意が出来たとの知らせを貰って、今はガラードに腰を抱かれながら食堂に向かっていた。


「エドワード様!! ようこそ。本日はいかがされたのですか?」


 先に食卓に座って待っていてくれたソフィアが声をかけてくれた。


「そういえばエドワード。今日はどうしたのだ?」


 ガラードが俺の顔を覗き込みながら尋ねた。


「え? 今まで一緒に過ごされて、聞いていないのですか?」


 ソフィアが驚きながら声を上げた。


「エドワードが可愛すぎて、他に色々とやることがあり余裕がなくて聞けなかった」


 ちょっと~~~!!

 ソフィアに何言ってるの!?


「余裕? もう、ガラードったら、エドワード様のお話も聞かずに、自分の話ばかりしていたの?」


 自分の話ではなく、主にをしていました……

 

 俺は顔が熱くなり思わず下を向いてしまった。


「まぁ、そんなところだ。ところで、エドワード。一体どうしたのだ?」


 ガラードが顔を覗き込んで来たので、俺は顔を上げて今日来た目的を告げた。


「実は、絵が完成しました。ガラード様が欲しいとおっしゃっていたので、一応報告を……あと、アレクから売買に関する書類を預かってきました。でも、買わなくてもいいと思いますので無理は……」

「なんだって!! すぐに購入しよう!! ずっと待っていたのだ。すでに飾る場所も決めてあるし、すでに額装師に額を頼んであるのだ」


 あ、本当に買ってくれるんだ……しかも、額装師って何かよくわからないけど、凄そう……


 興奮した様子のガラードに向かって、ソフィアが言った。


「まぁ、ガラードは絵を購入いたしますの? 私も楽しみにしていますわ」


 どうしよう、すごく恥ずかしい。

 だが、絵の中の俺は別人レベルだったので俺だとわからないかもしれない。


「あまり見せたくはないですが……部屋に飾る予定ですので見たければどうぞ」


 ガラードは俺の顔を見ると嬉しそうに言った。


「早速、明日にでも見に行こう」

「あ、なんか画商に見せるって言ってましたよ。詳しくは書類に書いてあると思いますが……」

「では、そちらに見に行こう」


 ガラードの提案にソフィアも「私も行くわ」というので、明日は3人で絵を見に行くことが決まったのだった。





 次の日の放課後に、俺はガラードとアレクとソフィアと共にゲイル侯爵家の馬車に乗っていた。


「昨日の今日で、ゲイル様たちが画廊にお越しになるとは、画商も驚くでしょうね。今日の午前中には画廊に運び込んでいるはずです」


 アレクもとても嬉しそうに言った。

 画廊は今日は開いているはずなので、特に約束はしていなかったが、どうしても早く完成した絵が見たいというガラードたちと共に行くことになったのだ。


「これでも待ったほうだ。早くエドワードの絵を見るのが楽しみだな」

「ええ、ぜひご覧ください」

 

 アレクも笑顔で答えた。



 画廊に到着すると物々しい雰囲気が漂っていた。

 画廊の前には警備兵や、騎士が集まっている。


「何かあったのだろうか?」

 

 アレクは馬車を降りると、兵たちに中に入れてもらって画商に話かけた。


「どうしたんだ?」


 アレクが尋ねると、画商が汗を拭きながら言った。


「実は、グレイス殿の新作が賊に盗まれてしまいました!!」

「なんだって!?」


 青い顔になるアレクに向かってガラードが震える声で言った。


「まさか……グレイス殿の新作とは……エドワードの絵ではないだろうな!?」


 アレクは悔しそうに唇を噛みながら言った。


「そのまさかです……」


 どうやら俺の絵は賊に盗まれしまったようだった。

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