第11話 元カノには言いたくないらしいです
それから豆腐のパックを開けて水を切る。重しを乗せてさらに水を切る。これはしばらくほったらかし。後でトマトと大葉と合わせてドレッシングであえるサラダにする。
ピーマンとベーコンは塩コショウでサッと炒めて箸休めに。冷めたらタッパーに移して保存。
メインは唐揚げと、その唐揚げの保存用の甘酢かけの二種。
少し物足りなさそうなので野菜の揚げ浸しも追加する。
——これくらいで良いかな。
だいたいの仕込みが終わるころ、鷹田も部屋の片付けを終えていた。もうすぐ乾燥機も終わるだろう。
「掃除機かけますね」
「いや……俺がやる」
ほほう。珍しいこともあるものだ。
夢乃は鷹田が掃除機をかけるなんて見たことなかった。夢乃がいなければ自分でするのだろうが、そんな姿を夢乃に見せたことは無い。
ジロジロ見過ぎたせいか、鷹田が夢乃に尋ねてくる。
「なんだ?」
「えーと、珍しいなって思って」
「そ、掃除くらい自分でする」
ぶっきらぼうに答える鷹田に夢乃はまた「かわいい」と思ってしまう。
——思うだけだから!
鷹田の何気ない振る舞いにきゅんとするたびに、夢乃は自分を戒める。もう終わった恋だから、自分は倒れてたこの人を放って置けなかっただけだから。
——そうよ、たとえ空腹で倒れてたとしても、知り合いが倒れてたら放置できないでしょ。
そうは思ったものの、心療内科の薬を飲んでいることを考えると、やっぱり倒れていたのは別の理由があったんじゃないかと気にかけてしまう。
「鷹田さん」
急に名前を呼ばれて、鷹田は驚いて振り返る。ちょうど掃除機を物置用のクローゼットに仕舞った所だった。
「……な、なに?」
「昨日倒れてたのって、忙しくて食事してなかったんですか?」
「う……」
鷹田は正直に話そうか迷った。
夢乃に着信拒否され、さらに本人からも拒否されショックで食事が取れなくなった——と。
しかしそんなカッコ悪い、なんならしょうもない理由で憔悴したなどと打ち明けるには鷹田のプライドは低くなかった。
「うん、まあ」
「鷹田さん、忙しいですもんね」
「……うん」
その返事に夢乃は鷹田の病気を追及するのをやめた。元カノには言いたくないのだと考えたのだ。
「あと唐揚げ揚げておきますね」
明るくそう言うと夢乃はキッチンに戻って行った。
——まいったな。誤解を解くチャンスが無い。
鷹田はそっとため息をついた。
つづく
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます