第17話 お姉さんとの楽しい温泉旅行

「裕樹君。起きて……朝だよ」


「う……」


 翌朝、佳織姉さんにユサユサと起こされて目を覚ますと、佳織姉さんは母親のような優しい眼差しで俺を見下ろして、


「おはよう」


「おはようございます……ふわああ……もう、朝ですか」


「うん。そろそろ朝御飯だよ。朝食は一階の食堂でバイキングだから」


「はい……」


 そう言われて、ゆっくりと起き上がり、旅行バッグにしまってあった着替えを取り出す。


 何か今日は新鮮な気分だな……そうか。


(佳織姉さんに朝、起こされたの珍しいかも)


 普段は、いつも俺より起きるのが遅いので、彼女に起こされると言うのはそもそもあまりなかったと思う。


 こういうのも悪くないな……。


「ん? どうしたの?」


「え? いえ、何でも……」


「そう。あ、もしかして、おはようのキスして欲しいとか♪ 良いよ、ちゅっ?」


「――!」


 別にそういう訳では無かったのだが、佳織姉さんも変な勘違いをし、俺の頬にキスをする。


 良いなあ、こういうの……これだけでも生きてて良かったって思う。


「じゃあ、着替えて行こうか」


「はい」


 服に着替え、一階の食堂に二人で向かい、朝食を摂る。


 旅行なので、食事の用意や洗物もする必要が無くいつも以上に羽根を伸ばして楽しむ事にしたのであった。




「んーー、足湯、気持ち良いねえ」


「ですね」


 チェックアウトした後、街中を軽く散策し、二人で足湯に浸かって、まったりと過ごす。


 足湯って何気に初めてだけど、悪くないなこれ。


「ふふ、これも良い絵になりそう」


 足湯に浸かりながら、佳織姉さんもデジカメで周りを撮影していき、イラストに使う背景の素材をゲットしていく。


 これも仕事の内か……気楽な商売だなと、ちょっと思ったりしてるけど、こんな光景でも仕事に使えないかと考えながら、温泉も楽しんでいる。


 好きじゃなきゃ出来ない仕事なんだろう。


 俺もいつかはこんな仕事が出来る様になれば……と言うのは、甘いのだろうか。




「今日は温泉めぐりするよ。気合入れて行こうね」


「こんな時間から入るんですか?」


「うん。最低でも二、三件は入りたいと思って。良い絵が描けるようにね。あ、裕樹君は無理に付き合わなくても良いよ。自分が好きな場所を巡ってくれて構わないから」


「いや、付き合いますよ」


 足湯から出た後、佳織姉さんがデジカメを持ちながら、気合を入れてそう言ってきたが、流石に彼女が仕事している最中に、一人で旅行を楽しむ気にもなれない。


 せめて、困っている時は手助けをしてやりたいが、佳織姉さんの方から頼まれない以上は、邪魔になりそうなので、黙って付いて行くだけであった。




「ふわああ……温泉良かったねえ……体がふやけそうだよー」


 温泉を三つもはしごして、旅館に戻った佳織姉さんがマッサージチェアに座り、疲れを取る。


 三回も風呂に入るのは流石に疲れたが、これが温泉巡りって奴なんだろう。


「ちょっと疲れちゃったね」


「いえ、俺は付いて来ただけなんで」


「それでも結構歩いたから疲れたんじゃない?」


「まあ……でも、佳織姉さんの方が疲れたんじゃないですか?」


「くす、温泉入ってたから、大丈夫ー……今日はゆっくり休もうと」


 と言いながら、マッサージチェアに揺られて、佳織姉さんも眠りそうになる。


 結局、今日も佳織姉さんに全て金を出して貰って終わってしまい、俺自身は一銭も使う事なく旅行も終わろうとしていた。




「ふうう……これと、これと……」


 夕飯を食べ終わると、佳織姉さんはノートパソコンとデジカメを繋いで、撮影した写真をまとめたり、編集したりする。


 夜中でも仕事とはな……結構、大変じゃないか。


「くす、裕樹君は、今夜はどうするの?」


「またアダルトチャンネル見ても良いですか?」


「良いけど、イヤホン必須ね。もう、エッチなんだから」


 冗談で言ったが、あっさりと了承したので、遠慮なく今日もエロ番組を見る事にする。


 こんなの中々、見る機会ないからな……普通のAVとは違うので、堪能せねば。




「…………」


『あ、だめっ! そ、そんな激しくしちゃあ』


 アダルト番組を見ながら、佳織姉さんの方をチラっと見るが、こっちは視線も向けずに、ノートパソコンを真剣に見て、時折、ペンを走らせる。


 ちょっと悪戯しちゃおうっと。


『ああ、いやあっ!』


「っ!」


「あ、すみません。イヤホン外れちゃいました」


「も、もう……ビックリしたじゃない」


 わざとイヤホンを外して、喘ぎ声を大音量で流すと、佳織姉さんもビックリして頬を膨らませる。


 うん、これは良い反応だな。


「そういうの、セクハラになるから、私以外にしちゃ駄目だよ」


「佳織姉さんはオッケーなんですか?」


「もう、そうじゃないよお。私は大目に見るけど、調子に乗りすぎちゃダメ。そういうの興味あるなら、お姉さんが……」


「ん?」


「な、何でもない! ほら、イヤホン装着!」


「はーい」


 と言い掛けた所で、佳織姉さんが顔を赤くして言葉を詰まらせ、俺に慌ててそう命じる。


 アダルト番組を見るのも、何か満更でもなさそうだが、あまり怒らせてもあれなので、




「ん……そろそろ寝ようと」


 日付が変わる時間になり、佳織姉さんもようやく仕事がひと段落したのか、床に就く。


 俺の隣に敷いてある布団に躊躇いも無く横になり、灯りを消した所で、


「えい」


「きゃっ! ひ、裕樹君、まだ起きていたの?」


「ちょっと眠れなくて」


「こらあ。もう、我慢できなくなった?」


 佳織姉さんに抱きついて、胸や太股を触っていくと、佳織姉さんも特に抵抗もせずに甘い声を上げてはしゃぐ。


 もはや、こんな乳繰り合いも日常になってしまったが、これでもまだ付き合っていないんだよな俺たち。




「あんなエッチな番組見て、その気になったんだ……い、いいよ」


「う……すみません。調子に乗りすぎました」


 本気にしてしまったようなので、慌てて体を離すと、


「む、ダメだよ、男なら責任取らないと」


「責任と言われても……」


「せめて、キスして」


「え?」


「キスしないと襲う」


 と言いながら、佳織姉さんが抱きついて、俺を真顔で見つめながらそう迫る。


 小玉電球に照らされた彼女の顔がとても綺麗で、見とれてしまいそうになっていたが、


「わ、わかりました……んっ」


「んっ! ちゅっ、んんっ!」


 彼女の胸を手で触りながら、言われた通り、唇を重ねる。


 その瞬間、佳織姉さんの方から抱きついて、唇を啄ばみ、二人で肌を密着させながら布団の中でキスにおぼれていった。




「ん、ちゅ……もう、終わり?」


「……は、はい」


「そう。お休み。ちゅっ」


 キスを終えると、瞳を潤ませながら佳織姉さんはそう言い、俺も頷くと、頬にキスをしてやっと終わる。


 結局、佳織姉さんに甘えたまま、旅行も終わってしまい、ずっとこんな調子で過ごすのかと、思いながら眠りについたのであった。

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