第12話 ゴールデンウィークもお姉さんとのヒモ生活
「んーー、今日からゴールデンウィークだね」
「え?」
いつもの様に昼過ぎに起きてきた佳織姉さんが、背伸びしながらそう言ってきたので、日付を確認すると、確かにもうそんな時期であった。
毎日が日曜状態の俺には既に曜日や日付の感覚も麻痺しつつあったので、祝日なんかも気にしなくなっていたが、確かに町の雰囲気もいつもと違う感じはあった。
去年までは学校が休みでうれしかったけど、今は特に何も感じないなあ。
「そうだよー。どっか遊びに行く?」
「良いですけど、混むんじゃありません?」
「だよねえ。でも、家に居るのも暇だしさあ」
在宅の仕事だから、いつも家に居るのは慣れているのかと思いきや、やはりずっと篭りっきりなのは苦痛なのか。
元々、割とアクティブな性格だったと思うから、遊び回るのは好きなんだろう。
「じゃあ、今から行きます?」
「今日はちょっと遅いから、明日にしよう。今日は久しぶりにゲームで対戦しない?」
「はは、そうですね。やりましょう」
よく晴れた休日の昼から、佳織姉さんと対戦ゲームで遊び、まったりとすごす。
そして、次の日……。
「うわああ、混んでるね。さすが、ゴールデンウィーク」
二人で秋葉原に出かけて、佳織姉さんもいつになく人だかりが多い、通りを見て、目を輝かせる。
この前、松川と行ったばかりなんだが、佳織姉さんと行くのは初めてであり、彼女と手を繋ぎながら、町を歩いていく。
別に何か買い物がある訳ではないが、彼女とアキバの町を歩きたいと思い、適当に同人ショップを見て回りながら、秋葉原の散策を続けていった。
「このゲーム、私がキャラデザしたキャラが居るんだよ」
「へえ。どんなキャラですか?」
「えっとね……この子」
大きな看板で広告を出していたソシャゲを指差して、佳織姉さんがスマホを出して、ディスプレイに写し出されていた、金髪の巨乳の戦士のキャラを見せてそう解説する。
ファンタジー物のゲームっぽいが、あまり興味が湧くジャンルではないんだけど、佳織姉さんが関わっているなら、やってみるかなあ。
「ふふん、この広告も私が描いてるんだぞー」
「はは、凄いですね」
「何か、褒め方が頂けないな。もっと敬ってえ」
「敬ってますって! ちょっと!」
と言うと、佳織姉さんが頬を膨らませて、俺の腕をぎゅっと引っ張る。
こんな拗ねた所も可愛らしく、どんどん佳織姉さんを意識するようになっていった。
「んーー、ここのパンケーキ、美味しいんだよねえ」
秋葉原を散策した後、今度は渋谷へと出向き、人気の喫茶店に行って、スウィーツを舌鼓する。
パンケーキだけで二千円とか言うとんでもない値段だが、ドンと払える辺り、太っ腹だなあ。
「渋谷、来るのも久しぶりー。専門学校行ってる時は、友達とよく行ったんだけどね」
「俺、何気に来るの初めてかもです。凄い人ですね」
「そうだよー。ビックリするよね。私も最初来た時、目の玉飛び出る程、驚いた。金沢でもここまで人がたくさん居る場所なんてないし」
一体、何処からこんな人が集まるのかと驚いたが、正直、渋谷に来ても、俺なんかは以外にやる事がない。
しかし、佳織姉さんは楽しいらしく、浮き浮きしながら、ファッションセンターのビルなんかを見て回っていた。
「あ、ちょっとそこのファッションセンターに寄っていきたいんだけど、良い?」
「何か服でも買うんですか?」
「買うって言うか、どんな服が流行なのかチェックしておきたくて。キャラデザする時も最近流行の服とか意識しないといけないし」
「ああ、そういう事ですか」
仕事も兼ねて、最近流行の服もチェックするという訳か。
確かに可愛い美少女キャラ描く時も、古臭いファッションじゃ、見栄えが悪いし、これもイラストレーターの仕事として当然か。。
「ほら、もっと食べな。お姉さんの奢りなんだから」
「は、はい」
奢りだからこそ、遠慮してるんだが、もうこんな事も慣れてしまい、適当に頼んだクラブサンドを口にする。
結局、今日も交通費から何から何まで佳織姉さんのお世話になってしまっているなあ。
「ふむふむ……これが、最近のティーンの流行りかあ」
人がたくさん居る中、佳織姉さんが十代向けの服を色々と物色していく。
真剣に見ているなあ。
「ねえ、裕樹君は、どんな服好き?」
「着られれば何でも」
「もう、参考にならないよ。男の子も描くから、今、どんなファッションが男子高校生の間で流行ってるのか教えてよ」
いや、そんな事を言われても困ってしまう。
ぶっちゃけファッションの事なんか、微塵も興味がなかったので、適当にファストファッションの店で安いのを買っていたから、最近の流行とかよくわからないのだ。
「ああ、こういう服とかよく買いましたけど」
「へえ。なるほど、なるほど……」
適当によく買うジーンズなんかを指差すと、佳織姉さんも興味深そうに頷く。
結局、服は買わなかったが、カタログを何冊か貰って、店を後にした。
「今度、何処に行きます?」
「えっと、ここ行きたい?」
「ん? ぶっ!」
店を出て、渋谷を後にし、乗り継ぎ先の駅を降りてしばらく歩きながらそう言うと、佳織姉さんがとんでもない所を指差す。
「こ、ここって、ラブホテル……」
「いやー、ちょっと入ってみたくて。裕樹君、もう十八歳だから、大丈夫だよね? 入らない」
「入ってどうするんですか!?」
「しゅ、取材も兼ねてだよ! いやらしい事とかしないから!」
と、顔を真っ赤にしてそう言うが、何だ取材も兼ねてか。
「お願い、嫌?」
「嫌じゃないですけど、どうせならいやらしい事もしたいなって……」
「っ!?」
半分冗談でそう言うと、佳織姉さんも顔を真っ赤にして黙り込む。
そうだよ、どうせラブホに入るなら、そこまでやらないと気が済まない。
何もおかしな事はない。俺だってもう高校卒業したんだから、オッケーな筈だ。
「も、もう! そ、そう言うのは家でも出来るじゃない!」
「ですよね、はは……じゃあ、家でなら……」
「う……まだ、私達早いと思う! 一緒に住んで一ヶ月くらいし、裕樹君も二十歳になってないんだから!」
「え? じゃあ二十歳になったら……」
オッケーって事? 来年には二十歳になるぞ俺。
「や、やっぱり帰ろう! 遅くなると電車混むし!」
「は、はい!」
佳織姉さんが俺の手を引いてそう叫び、結局そのまま家路に着く。
何だかヤキモキしてしまったが、彼女の態度を見ると、変な期待をせざるを得ず、その日の夜は眠れずにいたのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます