横恋慕だった晴翔君、横から恋を差し込まれる
Tさん
第1話 晴翔のひとりごと
俺の名前は藤枝晴翔(ふじえだはると)という。高校2年生である。
そして、本日はなんと2月14日。そう、皆がよく知る聖バレンタインデーとかいうやつだ。そのよき日に俺は………。
振られてしまったのである。
くそ―――、なぜこんなことに………。
いや、ちょっと言葉が正確ではないな。振られたということではなくて、「失恋した」というのが本当のところだろうか。
俺が好きだったのは幼馴染の女の子という、鉄板テンプレートな展開であり、その子は俺の親友と付き合うという、これまたいきなり修羅場な展開で、え?なに?NTRなの?
とか思われるかもしれないが、それはちょっとちがう。というのも、仲を取り持ったのは俺なのである。そう、なんなら俺がキューピットなのである。いやはや、ほんと我ながらなんでこんなことになってるんだって思うよね?
で、幼馴染の女の子は、大谷陽葵(おおたにひまり)と言って、目も大きくて、髪もサラサラストレートロング。黒髪なんだけど、色素が少し薄いのか太陽とかに当たる少し茶色になる。これがとてもキラキラして綺麗だ。ほんとに名前に負けないようなひまわりのような温和でふんわりで笑顔も可愛いんだよね。
しゃべり方もややゆっくりなこともあり、可愛い系女子の代表的で、これでドジっ子だったらほんとなにこの天使?ってなるけど、そこは逆で、意外に運動神経が良くて動きは機敏というギャップがある。
性格もとても良いんですよ。父親がお医者さんで、とても温厚な方である。俺も何度か会って話したことあるけどいつもにっこりになっちゃう。陽葵もそれを引き継いでいてしゃべってるといつの間には笑顔になってる。逆に母親は警察官で格闘術に優れていてとても正義感が強い。意外に運動神経が良いのは母親譲りというやつである。
こんなの俺じゃなくてもたいていの男子は好きになっちゃうやつだし、というかですね、これ系の女子の場合はよく女子からハブられるとかあると思うんだけど、ふんわりアンド正義感からかとてもすごいカリスマ性があって、女子からもめちゃくちゃ好かれているというまさにパーフェクトコミュ力お化けでもあるんだよね。
俺とは小学校のころからの付き合いで、家もほとんど近所で親同士も仲が良いという鉄板テンプレート設定。こんなの幼馴染アドバンテージを生かしてそのうち付き合うんだって思っていたよ。やんわりとね………。
で、その陽葵と付き合うことになった男というのは、先ほども言ったが俺の親友である。
彼の名前は勅使河原悠人(てしがわらゆうと)、彼とは高校2年になって初めて同じクラスになった。1年の頃は別のクラスだったが、いろんな意味で目立っていたので知ってはいた。
というのもスペックがえげつないんよ。だからと言ってというほどではないが、1年生の時はあまり近寄らないようにしていたのは本当である。
まずは親のスペック。海外で活躍する俺でも知っているような有名なバイオリニストの父親と、ピアニストの母親なのである。
何回か、彼の家には行ったことあるが、東京都内なのに超豪邸に住んでいる。お手伝いさんもふたりいる正真正銘の金持ちさんである。
いやいや、俺の家だって父親が弁護士、母親は会計士をしているから、学校内においてもかなり裕福な自覚はあるんだけど、それでもまさに「ケタが違う」というのはこのことなんだと思う。
で、彼本人のスペックだが、勉強の成績は学年でいつも10番付近に入っている。あ、ちなみに俺も勉強はできて、高校になってからは万年2位である。
そして、なんとこれは悠人の家族も知らない俺だけが知っている秘密の情報であるのだが、彼はプロゲーマーをしている。正式に2社もスポンサー契約しているほどの腕前だ。
で、悠人自身、家の事情もちょっと複雑なのと、本人のもともとの性格なんだろうけどあんまり人付き合いを進んでやるタイプでもなかったんだよね。俺が悠人の秘密を知るまでは………。
いやねぇ、確かに陽葵がすごい世話焼きなことは知ってたんだけど、悠人のこういうちょっと危ういって言ったら語弊があるけど、そういうところが世話焼き母性をくすぐるみたい。
俺が悠人と友達になったことを陽葵に言ったら俄然喰いついてきて、そんでまあ、確かに右往左往あったんだけど、俺がキューピットになって無事にふたりは付き合うことになりました!
ってなったわけである。
いや、もう、だってしょうがないじゃんか!
陽葵が悠人を好きになっちゃったんだから!!
で、悠人もさあ、彼の妹含めた家族ですらあんまり興味を抱かないやつが、まあ、ちょっと興味があるような雰囲気出してたからさあ………。
ここまできたらさ、お人よしとか言われちゃっても、もう俺がどうのこうのってレベルじゃないのはわかるじゃんか!?
ホントは陽葵とは恋人として付き合いたかったけど、そうじゃなくても付き合っていきたい人だし、悠人も絶対に親友でいたいやつだし………。
いやはや、さっきも言ったけど、てっきり俺は陽葵と恋人同士になるものだと思ってたし、今もまだ正直吹っ切れてないし………。
ってか、陽葵も陽葵だよ!
俺の気持ちは知っていたはずだし、ってかクラスのみんなも全員知っているレベルだからね。まさかこんな自分の好きな子をキューピットするとは1ミリたりとも思ってなかったんだよ。
あれ? あれれれ? これはもしかして………、もしやめっちゃ引きずっちゃいそうなやつじゃないかな?
あるいはもう俺は恋愛なんてすることは無くなっちゃうんじゃないのか?
って、それくらいトラウマだよ………。
実は今、自分の教室にいる。先ほどまで陽葵と悠人と3人でいたのだが、ふたりを見送ったので今はポツンとひとり自席に座っている。
わざわざ戦闘に巻き込まれるようなことをする必要もないからな。
暖房は授業終了とともに切れていて寒かった部屋、さらにふたりがいなくなりもっと寒くなった。あれ? 寒いのは部屋のせいだけか?
とか思っていたら、ひとりの女子生徒が教室にやってきた。
背中まであるストレートロング。目はキリッと釣り目だが、そこまでキツクないイメージの女の子。
まさにサラッというSE音で髪をなびかせて、教壇に立ち晴翔に向けて指を指し言い放ったのである。
「どうせ、俺はもうめっちゃ失恋したからもう恋愛はできないよう! とか思っているんでしょうね?
ふふーん、ざんねーーん。それは無理だわ!
だって、あなたはこれから私と付き合うんだからね!」
………。
あからさまに間が空いてキョトンとしている晴翔であった。
指を指したままボーゼンと立ち尽くす少女。明らかに気まずい雰囲気になった。そしてたまらなくなって少女はさらにキレて叫ぶように言った。
「ちょっと! 何かいいなさいよ! 決めポーズまでしてんのにめっちゃはずかしいじゃない!」
「え? あっ。ごめんなさい。いきなりのことだったんで脳の処理が追い付かなかったよ。」
「もう、ほんとにしっかりしてよね! これから私と付き合うんだから!」
「あっ、その件についてはごめんなさい。流石に失恋したばっかりでかつ、いきなり知らない人から言われても、しかもめっちゃ上からだし、ちょっと無理です。」
「ちょっと!? 知らないって何言ってるのよ? 私よ? わ・た・し!」
「あああ―――!? その凛とした透き通る声、もしかして結愛(ゆあ)なのか?」
「そうよ! やっとわかったの?」
「ごめん。ぜんぜんわからなかったよ。
だって、めっちゃギャルな外見だったじゃん? 髪の毛もサイドポニーだったのが、ストレートになってるし、ピアスとか指輪とか爪とかめっちゃゴリゴリコーデしてたのが全部無くなってるじゃん?
そりゃあ、瞬時に理解しろって言われても無理だよ!」
「そうよ。確かにギャルっぽくてゴテゴテしてたわよ。でも、あんたがゴテゴテしているのは嫌いっていうから全部止めたんじゃん。
いちおうあんたに気を遣ってあげてるんだからね。で、そういうことなんでこれから付き合うからよろしくね!」
「あ、いや、でもそれとこれとは別なのでお断りします。」
「えええ―――――!? なんでよ!?」
親友と初恋の幼馴染とのキューピットをして、自身は大失恋となるはずだった。
が、しかし、そこへ親友の妹が現れて告白を差し込むのであった。
ふたりのどこかの漫才のような落ちを付けて次につづくのである。
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