1-3
「『テネル』、ご存じでしょう? 強力な火の魔法の家系の子どもで、魔法協会から指名手配されてる超ド級の危険人物」
どういうつもりなのか問いかけるよう視線を送るも、ルドは私を無視して男性の反応を待つ。
男性は半信半疑な眼差しで私を凝視しながら、疑問を口にした。
「それって、確か12歳の赤毛の女の子なんじゃ……」
今の私は5歳の澄んだ青色の髪の幼女だ。
あと、この世界では、必ずではないにせよ髪の色とその人の魔法の属性は概ね一致するものらしい。赤なら火の属性。そして青なら水の属性。
「ああ、あんなの嘘っぱちですよ。今目の前にいるこの子が『テネル』です」
「でも、髪の色が……」
「関係ありませんよ。考えてもみてください。指名手配されるなんてよっぽどのことですよ。そのよっぽどのイレギュラーな子どもが、一般論の通じる相手だなんて、本気で思いますか?」
ルドの荒唐無稽な回答に、男性の眼差しからは疑念の色が消えていく。なんだか雲行きが怪しくなってきた。
まともに考えればルドの話が滅茶苦茶なことくらい、わかるはずなのに。
「この子にかかれば、どんなマズイものでも、灰すら残さず綺麗に燃やし尽くすことができますよ」
ギラリと男性の目が光る。
私は悪戯を楽しむ少年のような笑みのルドと怖い顔をする男性とを交互に見やり、なんとかしてこのわけのわからない状況を打破できないかと思案する。
「……女房なんですけどね、口うるさくて」
おもむろに、男性が語り始めた。
目の焦点が私にピタリと定まり、先ほどまでとは比べものにならないくらいに口調もはっきりとしたものになっていて、逆に怖い。
「それで、ちょっと小突いてやっただけなんですけどね、なんか、血が出て、なんか、動かなくなっちまって」
小突いて、血が出て、動かなくなった?
それはこんなところで油を売っている場合ではないのではないか。
はやく医者に……。
「それで、まあ、実家に戻っちまったとでも言えば、ねえ?」
男性が締まりのない顔でニヤリと笑う。
私はワンテンポ遅れて理解が追い付き、ゾっとした。
つまり、この男性はまだ生きているかもしれない奥さんを、灰も残さず私に燃やし尽くしてほしいと言っているんだ。
助けを求めて男性の後ろに立つルドを見る。
しかしルドは、自信満々の笑顔で私を見つめ返すだけだ。
「なるほど、いろいろとご苦労絶えないものですねえ。でもまあ、これで苦労の種が一つ、消えてくれるってわけですね」
ルドはしたり顔で男性に同調するようなことを言う。
じゃあ、さっそく現場に移動しませんか? ああそうだな、さっさと片付けちまってくれ。
二人のやりとりが頭の上で繰り広げられ、勝手に進む状況に頭を抱えたくなった。
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