第26話 うるまたちの初陣 最終話
とある日曜日。僕の家にたくさんのお客さんが来て、母さんはてんてこ舞いだ。
朝からたくさんのサーターアンダギーを揚げて、沖縄から送ってもらったマンゴーなんて奮発して、お客さんがお酒を飲むからって、ラフテーとかチャンプルーなんて作って、沖縄そばなんかも作ってる。
お酒を飲む人なんて、母さんと、もうひとりしかいないでしょ?
お客さんは太斗、幸、安座真さん、そして、千代だ。
「ことのはちゃん!それで?うるまはあんたのこと、好きなのかい?」
「やだ!優梨さん、私が見た昔の優梨さんってすっごく優しくておしとやかで、子鬼にも負けちゃう人だったのに!なんでそんな風になっちゃったんですか?」
「お!言うねぇ、ことのはちゃんは私と漆間のこと、全部見たんでしょ?だからこんなになっちゃったの!ははは!」
「優梨、もう、酔いすぎだよ。子供の前だよ?いい加減にしないと!」
「なに?酔いすぎ?雄心こそもっと呑んで!雄心のために買って来たんだよ?泡盛の10年古酒!高かったんだから」
場は和やかだ。母さんは出来上がってるけど、和やかだ。
あれ以来、僕たちの絆みたいなものはものすごく固くなっている。太斗と幸は、なぜかいつもニコニコだ。今は何を言っても怒らない。
「太斗さ、なんか幸と良い感じなんだけど、もう付き合っちゃってるの?」
「はぁ!!うるま何を言い出すかと思えば!!俺らはそんなんじゃ、なぁ?」
「そうよ、うるま君と千代こそじゃないの?私たちよりずっと!」
「ほらぁ、幸は全然否定しないじゃん。大体さ、太斗さ、大学も幸とおんなじ大学を目指すんでしょ?」
「・・・・」
「・・・・」
「うるま、もういいじゃない。このふたりはもうね、いいのよ。ところでさ、まだうるまの志望校聞いてないんだけど」
「え?言ってなかったっけ。俺の志望校は、琉大、琉球大学」
「そうなんだ。それでさ、沖縄でなにするの?」
「いや、それはね、まぁね」
そんなこと言わなくったって、僕の記憶を全部見た千代には分かってるはずなのに、志望校だって?わざとらしいな。何を狙ってる?
「じゃさ!優梨さん、安座真さん、私も琉球大学に行くことに決めました!今のいまっ!!」
わっ、そう来たか。
「なにが、じゃさ!なのよ。そんな沖縄の大学なんて、ことのはちゃんのお母さんが許してくれないでしょ?」
「いえ、優梨さん。今回のことで、うちの母はいたく乗り気です。ぜひうるまくんと一緒のところへって。それに父も言ってました。お前を守る人と一緒にいなさいって!」
母さんと安座真さんは顔を見合わせている。やっぱりこのふたり、息がぴったりだ。
しかし千代、しっかり大人たちを巻き込んじゃったぞ?でも、千代を守る人と一緒にいなさいって?千代のお父さんはそんなこと言ってない。
本当は、千代を守る人が現れるまで、お父さんが守ってあげる、だ。
「そうか、千代、沖縄に一緒に行くって事は、また怪異と闘う漆間を助けるってことにもなるんだが、それは理解してるのか?」
「もちろんです!安座真さん。私はもう、優梨さんよりうるまくんのこと、知ってるんですから!」
その瞬間、母さんが千代の後ろに回り込み、首をがっつりロックした。千代、今のはまずいって!
「なぁ~にぃ~?ことのはちゃんが行くなら私も行く!帰る!沖縄!!雄心もね!!」
安座真さんは頭を抱えている。千代は母さんに背中から抱きしめられて嬉しそうだ。太斗と幸は・・・普通に嬉しそうだ。
あ~ぁあ!もう我が家はめちゃめちゃに和やかだ。
でも僕は、この高校生活でかけがえのないものを手に入れたみたい。
もう大丈夫だよ?お母さん。
待っててね。
もうすぐだ。助けに行くよ。
そして僕はもう、ひとりじゃないからね。
逢魔が時に、出会うもの うるまたちの初陣 了
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