第21話 うるまたちの初陣 ⑫

 翌日の放課後、安座真さんは生徒指導室を借りて、関係する生徒を集めていた。幸を始め、幸がRINGで繋がった生徒たち、それと太斗と千代。それに僕だ。

 母さんももちろん来ている。表向きは今回の件に関して保護者同伴の指導、というものだった。


 安座真さんがまず声を上げる。幸と、怪異に遭遇した幸の友人たちにだ。

「今日集まってもらったのは、君たちが遭遇した怪異についての話をするためだ。怖いだろうが、少しの間頑張って欲しい。それと、もしかしたら君たちは、幸のことを疑っているかもしれないね。最初にそれを説明しておくよ」

 幸の友人たちはお互いに顔を見合わせているし、幸自身も俯いている。それは当然だろう。

「安座真監督!」

 太斗が声を上げた。

「それ、俺に説明させてもらえませんか?みんな剣道部で、俺もみんなのこと知ってるから」

「ん?そうか、分かった!赤城に任せる」

「ありがとうございます」


 昨晩、ひとり残った安座真さんは、千代と一緒に太斗も呼んだそうだ。そこでふたりは、千代の家で何が起こったのかを聞いている。

 気がついた幸は、千代の胸の中で泣きじゃくっていたらしい。


「わたし覚えてる、ぜんぶ覚えてるの!女子トイレの前で何かに取り憑かれたことも、仲の良い子たちにRINGしたことも!だめだって分かってたのに、自分ではなにもできなくって、怖くて、悲しくて、みんなの顔を見るたび“助けて!”って叫ぶんだけど、誰にも届かなくて、ううん、漆間君だけは、気がついてくれたけど」


 幸は怪異に取り憑かれている間のことを全部覚えていた。でも、どうすることも出来なかったんだ。そして幸は、自分の家族を襲い、そして気を失うまで、母さんたちと闘った。

 恐ろしかったろう、悲しかったろう。でも自分ではどうも出来なかった。

 太斗はそのことを、幸の友人たちに話している。みんなも怖かったろうし、被害者なんだけど、幸が一番の被害者なんだと。

 そして、その恐ろしい怪異を、安座真さんと母さんが追い詰めたことも。


「でさ、こんなことを経験したみんなだから教えるんだけど、漆間もね、そういう妖怪と闘う力を持ってるんだよ。安座真監督と漆間のお母さんが強いのはさっき話したろ?今回は漆間も闘う。絶対やっつけられるんだ。みんな!力を貸して!!」

 幸の友人たちはお互い顔を見合わせていたが、ひとりが頷いて、幸に近づいた。

「幸、大変だったね、みんなも怖がっていたんだけど、分かった、幸が一番辛くて怖かったんだって。じゃ、やっつけてもらおうよ!漆間君!あいつやっつけてね!」

 安座真さんが笑みを浮かべながら頷いている。

「みんな、ありがとう!!じゃ、早速お願いだ、みんなスマホを出して!」


 安座真さんは生徒指導室の机を丸く並べ、その上に幸と友達全員のスマホを、ロックを外して置いてもらった。


「オーケー!じゃあみんなは廊下で待っていてくれるかな?」

「安座真監督、これで、どうするんですか?私たちは何もしなくていいんですか?」

 女子のひとりが聞いた。

「ん、この怪異はSNS、いや、ネットの中に潜んでるんだ。そしてみんなのRINGは一度怪異を呼んでいる。怪異と繋がったことがあるんだ。つまり、みんなのスマホが大人の花子さんを呼び出す鍵になる。そしてその鍵を差し込むのは、幸だ」

「安座真さん、俺と千代は?」

 太斗が疑問を投げた。自分らがいても、なんの役にも立たないと思っているからだ。

「うん、太斗、千代、ふたりは竹刀を持っておけ。それでな、ふたりには漆間と一緒に幸を守って欲しいんだ。言っておくが、お前たちは無力なんかじゃないぞ?それはすぐに分かる。漆間も、いいな?」

「お、おう!漆間!じゃ、一緒に闘うぞ?俺は別に怖くなんかないからな!幸も、俺の後ろにいるんだぞ?」

 太斗が気勢を上げる。幸は嬉しそうに太斗を見ている。

 千代は気丈に顔を上げた。

「私は大丈夫!だけど漆間!私が危ないときは守ってよ?絶対よ?」


 そうか、安座真さんはやはり母さんとふたりで片を付けるつもりだ。幸は花子さんを呼ぶ鍵だからここに置くが、それを僕たちが守る。太斗と千代は自分の力を知らないけど、かなりの力持ちだ。今日はそれを知ることになる。


 僕の覚悟も決まった。

 これからみんなで、ネットが作りだしたブギーマン、大人の花子さんと闘うんだ。

「じゃあ、幸、花子さんを呼び出すぞ?いいか?ここにあるスマホ全部にRINGでメッセージを送るんだ。内容は、そうだな・・・お前がみんなに、最初に送ったメッセージでいいだろう」

 幸は緊張の面持ちでメッセージを入力する。

「送っていいですか?それと、私はどうしたら」

「うん、そのまま漆間たちの後ろにいてくれ。幸は花子さんに憑かれていたから、あいつが出るとお前の霊気が反応するはずだ。そのとき私たちのそばにいないとまずい。またすぐに取り憑かれるかもしれない」


 幸は身をすくめた。花子さんに取り憑かれた、あの感覚を思い出したんだろう。


「大丈夫だよ、幸。今度はひとりじゃないだろ?俺たちがいるから」

 太斗が幸を勇気づける。僕と千代も幸を見ながら頷く。幸も頷いた。

「分かりました!みんなお願いね?じゃ、送ります」

 幸はメッセージを送信した。すぐに、机に丸く配置した全てのスマホが着信を告げる。

「幸、何度も送ってくれ、あいつは、花子さんは必ず反応する」

「分かりました」

 幸は同じメッセージを再送する。幾度目かの再送の後、突然、ひとつのスマホが違う着信音を奏でた。


「来た!あいつだ!!」




つづく

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