第19話 真鏡優梨と安座真雄心

 中畑幸なかはたさちに取り憑いているのは、ネットに生じ、長い時間を使って成長した怪異、ブギーマン。


 僕たちは幸の中にいるそいつに、千代の目を使ってずっと見られていた。

 安座真さんはすぐに怪異を祓わなければ、幸が危険だという。

 そこで安座真さんと僕が、幸の家に向かうことにした。


「漆間!私も行く!幸は親友なのよ?」

「千代、気持ちは分かるけど、狙われてるのは千代なんだよ?今の状態なら、あいつは千代に手が出せない。さっき瘴気は祓ってあるから、今は帰った方がいい」


 僕は、千代に声を掛けたとき、霊気に混ぜられていた瘴気を祓っていた。


「太斗、千代を頼む。今夜祓えれば、もう何も起こらないから」

「くそ、俺じゃなんの役にも立たないか、分かった!漆間、負けんなよ!」

「おう!まかせろ!」

 本当は太斗が役に立たないわけじゃない。僕はそう思いながら、安座真さんと幸の家に急いだ。

 幸の家に着くまで、車で約10分。僕は母さんに電話して、学校での事を話した。母さんには強い力がある。怪異と戦うんだ、黙っていたってすぐ見抜かれる。


「漆間!何言ってるの?あなたにそんな事できるわけないでしょ?」

 母さんは、僕が全てを思い出して、そしてこれまで霊力を高めていることを知らない。でも、もう言う時だ。

「母さん、黙っててごめん。高校1年の時、剣道部に移ったでしょ?あのときね、僕の力と記憶を思い出させてもらったんだ。それで剣道部で、これまで力を高めてきたんだよ。だから大丈夫。それにさ、その剣道部の監督さんも一緒なんだ。だから、ね?」

「その監督を電話に出しなさい!!」

 耳がキンっとした。これはダメだ、母さんが折れない。安座真さんに代わるしかない。


「安座真さん、僕の、母です」

 安座真さんは車を止め、“うひゃー”という顔をしながら電話を代わった。


「もしもし、安座真と申します。漆間には、いや、漆間くんには・・」

「何考えてるんです!!どんなヤツかも分からないのに!危険です!!」

「いや、あの、お母さん、お気持ちは重々分かります、ただ漆間君は強いですよ?それに私だってそれなりに。相手も土着の神ってわけじゃないので、ご心配は・・」

「あなた何言ってるの!漆間が強いことは知ってる!!相手を舐めて掛かるんじゃないって言ってるのよ!」

 耳がキンっとした。安座真さんはそんな風に首をすくめる。

「あなた!!場所を教えなさい!私が出る!!私が着くまで、待ちなさい!!」

「は、はい!!」

 安座真さんは幸の家の住所を教えている。そして電話を切った。


「漆間、おまえの母さん、すげぇなぁ。来るってよ?大丈夫なのか?」

 僕は少し面白いなって思ってしまった。笑顔で応える。


「はい、大丈夫ですよ。うちの母、強いですから」

 時間は午後8時を回った。

 安座真さんと僕、そして母さん、真鏡優梨は、幸の家の玄関に立っていた。


「それで安座真さん、どういうおつもりで漆間の力を引き出したんです?」

「え?いやその、漆間君の気は恐ろしいほど大きくて、潜在能力も凄まじいのに、本人には全く自覚がないというか、その~」

「だから引き出したと?ホントに迷惑なんですけど!!私と漆間の暮らしを壊すおつもり?」

「いやまさか!ご家族の事情も考えず、申し訳ないと思っております」


 あの安座真さんが平身低頭だ。ちょっと面白い。でも今は、そんな場合じゃなかった。


「母さん、もういいでしょ?僕は安座真さんに感謝して、そして信頼もしてる。母さんのことも大好きだ。全てを思い出したとしてもだよ?それより今は、同級生を助けなきゃ」

「まぁ、そうね漆間!えらいわぁ~、さすがだわぁ~、じゃ、行きましょ!」


 僕は安座真さんに頭を下げた。僕の母がすみません、っていう意思表示だ。安座真さんが僕に近づいて、小さな声で言った。


「すごいな、お前のお母さん、霊気が半端ない。それに女性がいる方が良かったかも。しかしすごい、俺、負けそう」

「は?なにか言いましたか?行きますよ!!」

「は、はいはい!」


 真鏡優梨と安座真雄心、僕のかあさんと僕の師匠、このふたりの気はぴったりだ。僕の見立ては外れない。




つづく

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