アルトラ -Ultimate Ultra-

phenomenon:1-1

 狭い部屋。男性一人が寝転がって機器ガジェットを弄ることができる、その程度の広さの空間。眼の前で青白い光を発するデスクトップコンピュータの画面でのみ、俺は世界と繋がることができる。指先で文字列を生み出す。会話が生まれる。画面の向こう側にどのような世界が広がっているかは定かではない。今の俺にとっては三つのモニタに映る文字列こそ世界だ。

 パーソナルコンピュータ、俺。

 この空間にはそれ以外のものは何も無い。後は堆積物。飲み終わった缶。食べ終わった缶詰キャンベルとヌードルの残骸。頭垢フケ。いつのものとも知れぬ細かなゴミ。その他……その日限りの物品の数々。これらは定期的に掃き捨てられる。ド汚い空間であるにも関わらず、ここは実に心地が良い。だが、外から見ればここは紛うことなき、文字通りの掃き溜めだ。俺も、コンピュータも、その他も、全てやんごとなき先進国市民からすればゴミそのもの――或いは、それこそが俺自身だ。もしくはこれ自体世界自体の暗示。資本主義の具現。吾こそが世界。そう、まるでこの空間自体が哲学や心理学の思考実験のようだった。何とか言う哲学者の名前がついた思考実験だ。確か……意識に関係する……。

<世界とは、俺の脳みその中で小人がみてる映画に過ぎないってやつ、なんだっけ>

<DKわからん>

<DKわからん>

<WTFふざけてんのか?>

<頭沸いてんのかlolワラ>

 無学な上に口の悪い連中だ。

<教養ってモンがねえよ>

<教養がよ>

<lolワラ>

<hahaha草生える>

<そういうお前は教養あるんですかっつの>

<ナードにも教養が必要な時代だよ>

<動画サイトのファスト教養ぐらいしか分かんねえ奴が何をわめいているんだか>

<くたばれ。糖尿病なって#ね!>

<テメーこそ肝臓壊しておっ#ね!>

<それよりも、暗黒星雲SFMMOが俺達を呼んでいる。噂によれば大会戦が起こるらしい。情報屋の奴が言っていた。稼ぎ時だぜ?>

<mobaをやろうぜ。素人をシャークすいじめるのはとてつもなく楽しい。今度のランクはもう少しで地域大会参加枠に預かれる。今がやり時だ>

<暗黒星雲SFMMOはともかくmobaは駄目だ。計画的にやんなきゃ時間の無駄だ。俺達の資源リソースは限定的だ。もう少し頭を使ってやらなきゃならん>

<インテリぶりやがって>

<haha! 全くだ>

 こいつらは本当に駄目な連中だ。何も知りはしない。そう俺は思った。とは言え、ここにはそういう奴しか集まってこないのだが……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る