バズれ迷宮攻略RTA幼女 ー現代日本には存在しない【異世界魔法】で、難関ダンジョンを片っ端から最速踏破するー

ラストシンデレラ

00、プロローグ



 悪魔共の下卑た笑い声が聞こえて来る。


『女になった気分はどうだ?』

『そんな小さな体で何が出来る?』

『随分可愛くなっちまったなぁ、あのニコラ様がよォ』


 眼前に広がる景色いっぱいに、自身を討伐しようとする異形の軍勢が立ちはだかっている。


 異形の化け物、悪魔にニコラと呼ばれた少女は重たい溜息を吐いた。


「最悪な気分だ」


 ニコラはその生涯を悪魔祓いあくまばらいとして捧げてきた。


 人を喰らう異形である悪魔を何百、何千と殺し続け、これも全て世の為だと働き続けてきた結果が今だ。


 悪魔の呪いで体を幼い子供にされ、その悪魔共に『可愛い、可愛い』と笑いものにされている。


 それも当然の結果か。

 人間にとっての英雄は、悪魔にとっての仇敵なのだから。

 恨みを買い過ぎたのだ。


 だが運はニコラのことを見捨てなかったらしい。


──《ニコラ様、ご提案があります》


 眼前の悪魔達にこの声は聞こえていない。

 頭の中に直接響いている。

 

 不思議な気分だった。


──《そのお体を、元に戻したいとは思いませんか》


 このちんちくりんな体を元の姿に戻せるのなら何でもする。

 ニコラが頭の中でそう囁くと、声は返事を戻してきた。


──《ここより遥か離れた異界に『どんな願いも叶える秘宝』があります。それを手に入れれば、ニコラ様の願いは成就するでしょう》


「それは本当か」


──《事実です》


 口に出しても返事をしてくれるようだった。

 頭に響くこの声が言うには、女子供となってしまった体を元に戻せる[秘宝]があるとのこと。


「だとしてもどうして提案なのか。何かの交渉事か?」


──《そうです。私の主が窮地に陥っています、どうにか助けてやって欲しい。ニコラ様が持つ『魔法』ならそれが出来る》


 声が頭の中で願いを申し出ると、ニコラの後方で空間が突如としてヒビ割れた。宙に亀裂が入り、中からドス黒い空間現れる。


 どうやらここに足を踏み入れると、異界でピンチになっている声の主の元へ行けるらしい。


──《転送します》


「少し待って欲しい」


──《え?》


 これが何かの罠である可能性もなくはない。

 しかし先ほど『体を元に戻せるのなら何でもする』と言ってしまった手前、やっぱり疑わしいからやめるとも言い難い。


 ニコラは眼前の悪魔達に手の平を向けて構えた。


「そちらの提案を呑むのはあの悪魔共を蹴散らしてからだ。こちらが女、それも幼い子供と見て勝てる気でいるらしい。まったく勘違いも甚だしい。身の程を教えてやる」


──《……どうかお早めに》


 頭の中で声が溜息を吐いていた。


『ゲヒャヒャ! やる気だ、やる気だぞあいつ!』

『あの体で戦うつもりだ! 大馬鹿野郎だ!』

『待て待て、今のあいつは野郎なんかじゃないぞ!』


 女だ!

 と一匹の悪魔が腹を抱えて笑いだす。


──《確かにちょっとムカつきますね》

 

 声も同意見らしい。

 ニコラもはらわたが煮えくり返りそうだった。


──《1分ほどお時間を与えます。それ以上は交渉決裂です、主が死んでしまう》


「1分も掛からない」


──《頼もしいですね。それでは『日本』でお待ちしております》


 ニホン。

 聞いたことない地名だったが関係ない。

 そもそも声は異界と言っていたのだからそれも当たり前か。


「悪魔共、すまないが用事が出来た。手早く済ませるぞ」


 ニコラが構えた手の平からまばゆい閃光が走った。

 


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