平凡高校生の僕が異世界のバグを直すことになった件について

エピソード1: 古本屋での運命の出会い

　空はオレンジ色に染まり、佐藤ケンジが住む小さな町を包み込んでいた。肩に学校の鞄をかけたまま、ケンジは歩道をとぼとぼと歩いていた。

「今日もつまらなかったな…」と、ケンジは道端の小石を軽く蹴りながらつぶやく。

　ケンジは普通の高校生だ。成績も普通、友達も少なく、将来の夢も特にない。彼の日常は退屈そのもので、唯一の楽しみといえば、自分の空想の中で冒険を繰り広げることだった。そこでは彼は英雄となり、世界を救い、喝采を浴びる。しかし、現実はいつも彼を引き戻す。

　その時、ふと彼の目に止まったのは、角の古びた店だった。「古書店カフェ」と書かれた木製の看板が風に揺れている。

「こんな店、今まであったっけ？」と、ケンジは首をかしげながらつぶやいた。

　興味が湧いた彼は、そのまま店の中に入ることにした。

　扉を開けると、チリン、と小さなベルの音が鳴った。店内には古い紙の匂いとコーヒーの香りが漂い、木製の棚にぎっしりと並んだ古い本が目に入った。店の隅には、丸い眼鏡をかけた老人が本を読んでいる。

「いらっしゃい。」老人は顔を上げずに軽く声をかけた。

　ケンジはゆっくりと店内を歩きながら、棚に並ぶ本を眺めた。どれも古びていて、時間が止まっているような不思議な空間だった。

　そして、彼の目に一冊の本が映った。棚の一番上に置かれたその本は、黒い表紙に謎めいた模様が描かれているだけで、タイトルも何も書かれていない。

「なんだ、この本…」と、ケンジは思わず手を伸ばした。

　その瞬間、指先に微かな震えが伝わり、彼の心臓が高鳴る。

「目の付け所がいいな。」突然、老人の声が背後から聞こえた。

　ケンジは驚いて振り返った。「あ、いや、なんとなく目についただけです。」

　老人は薄く笑った。「その本は売り物ではない。しかし、もしどうしても読みたいのなら、持って行ってもいい。」

「えっ、本当に？でも…」

「本というのは読者を選ぶものだ。若者よ、これは君にとっての運命だと思っていい。」

　ケンジは戸惑いつつも、その本の魅力に抗えなかった。「じゃあ、ありがたくいただきます。」

　その夜、ケンジは自分の部屋の机に座り、黒い本を前にしていた。

「ただの本だよな…？」彼は自分に言い聞かせるようにつぶやいた。

　意を決して本を開くと、最初のページには何も書かれていなかった。ただの白紙だ。だが、次のページをめくった瞬間、部屋中が眩しい光で包まれた。

「なんだこれ!?」

　光は彼の体を覆い、ケンジは体がどこかへ引き込まれるような感覚を覚えた。

　ケンジが目を覚ますと、彼は深い森の中に立っていた。木々の間から差し込む日差し、耳に響く鳥のさえずり。全てが現実とは思えないほど鮮やかだった。

「ここは…どこだ？」彼は呆然とつぶやいた。

「もちろん、異世界だよ！」突然、明るい声が答えた。

　ケンジが振り向くと、そこには小さな光のようなものが浮かんでいた。それは手のひらほどの大きさの妖精で、輝く羽を持っていた。

「私はリリス！君を導く妖精だよ！」

「導くって…何の話だよ？そもそも俺、なんでこんなところにいるんだ！」

　リリスは楽しそうに笑った。「君はね、『修復者』としてこの世界に呼ばれたんだよ！アーセリアっていうこの世界を救うためにね！」

「は？待てよ！」ケンジは頭を抱えた。「俺はただ本を読んだだけだぞ！それに、ここで傷ついたら現実に戻れなくなるのか？」

　リリスは無邪気に頷いた。「そうだね、死んだらそれで終わりだよ！だから気をつけてね！」

　ケンジは大きくため息をついた。「帰りたい…」

「それは君次第だね！」リリスは指を鳴らし、空中に地図を浮かび上がらせた。「ここから近くにある『光の神殿』へ行けば、君の疑問に答える手がかりが見つかるはずだよ！」

「もし行かなかったら？」

　リリスは意味深な笑みを浮かべた。「その場合、君はここで迷い続けることになるだろうね。運が悪ければ、モンスターに食べられるかも！」

　渋々ながら、ケンジは地図を受け取った。「わかったよ。このゲームに乗ってやる。でも、気に入らなかったら自分で帰り道を探すからな！」

　リリスはクスクスと笑った。「頑張ってね、修復者さん！この世界は君にかかってるんだから！」

　ケンジは、不承不承ながらも新たな世界での冒険を始めることにした。地図を片手に、不思議な妖精リリスの案内を受けながら、彼は森の奥へと足を踏み入れる。

「アーセリアか…どんな世界なのか見せてみろよ。」