「業火」の大陸

意志の勝利

「ドイツ軍は十中八九ライン川の渡河を狙うだろう。我が国は戦車を作れるほどの余裕はない…塹壕を掘り、歩兵で耐え続けるだけだ。」アルバート・ファランクスは、広げられた地図をじっと見つめながら静かに言った。

彼の声には重みがあり、その表情には国家の命運がかかっていることがひしひしと伝わる。ファランクスは、常に冷静で計算高い指導者であり、その判断は誰もが一目置くものであった。

その言葉を受けて、リュシアン・バダンテールが静かに口を開いた。「確かに、ファランクス閣下の言う通り、我々の戦車生産力は限られています。しかし、それだけでは不十分かと存じます。ドイツ軍の戦車部隊の機動力に対抗するためには、徹底した持久戦と浸透戦術を採用しなければならないと思うのです。」

バダンテールの声は落ち着いており、貴族らしい品位を保ちながらも、その言葉の背後にある戦略的洞察は確かだった。彼は若干20代でありながら、数多くの戦争経験と予測を元にした先見の明で名を馳せた人物だった。

「浸透戦術とは、敵の防御を無視して、彼らの後方へと素早く進軍し、補給線や指揮系統を断つことです。」バダンテールは地図の上で指を動かしながら解説を始めた。「ドイツ軍の機甲部隊の強さを削ぐためには、その兵站線、通信網、補給線を切り離すことが不可欠です。しかし、単に戦場で直接的に戦うのではなく、敵の重装備を持つ機甲部隊の背後に浸透して、時間を稼ぐのが鍵なのです。」

ファランクスはバダンテールの言葉に頷きながら、彼の計画を自らの戦略に組み込むことを決意した。彼の目は鋭く、冷徹でありながらも、戦術を練るときには一切の妥協を許さない。

「確かに、ドイツ軍の機動力をそのまま放置するわけにはいかない。」ファランクスはそう言うと、深く息を吐きながら続けた。「だが、ただし耐えるだけではない。守りながら反撃の機会を待つ。全ての戦術を一手に組み合わせ、相手を不利に立たせることが肝心だ。」

ファランクスの言葉には、将軍としての冷徹な強さが滲み出ていた。それは単なる防衛ではなく、時間を稼ぎつつ、ドイツ軍の優位性を削ぐために意図的に戦力を散発的に動かし、相手の消耗を促す方法だった。

「持久戦の重要性は分かっている。」ファランクスは続けて言った。「だが、それだけでは戦争を勝ち抜くことはできない。特にドイツ軍の機甲部隊に対しては、歩兵だけでは通用しない。だからこそ、持久戦と並行して浸透戦術を採用し、相手に自分たちの強さを見せつける必要があるのだ。」

バダンテールは再度頷いた。彼もファランクスの将軍としての強さを理解している。戦争は単なる物理的な戦闘だけでなく、戦術と戦略がどれだけ緻密に構築されているかが重要だ。そしてファランクスは、常にその一歩先を行く指導者であった。

「ファランクス閣下、我々が行うべきは、ドイツ軍に戦争の進行を遅らせ、消耗させることです。」バダンテールは冷静に言った。「戦車のような重装備に対して歩兵だけで抗うことは無謀かもしれませんが、それでも我々は戦い続ける力を持っています。」

「もちろん。」ファランクスは静かに答えた。「それに、歩兵に加えて、我々の戦術的な要素がすべて揃えば、ドイツ軍を制することができる。彼らの戦車が強力であろうとも、我々には戦いの中で適応し、打開する力がある。」

その後、ファランクスとバダンテールは一緒に作戦を練り続けた。ドイツ軍がもしライン川を渡河して攻撃を開始すれば、彼らは前線に塹壕を掘り、歩兵を配置して防衛の体制を整える。しかし、それだけでは足りない。ファランクスは常に一手先を見越して動く。そのためには、歩兵の隙間を突き、浸透戦術を徹底的に実行することが不可欠だと確信していた。

「ドイツ軍に勝つためには、彼らの戦車を直接的に倒すことはできない。しかし、彼らが行進する先々で、我々が耐え、そして相手を圧迫し続けることで、最終的にはその自信を失わせることができる。」ファランクスは自信満々に言った。

バダンテールは少しだけ煙草を取り出し、喫煙しながらその言葉を聞いていた。そして、その煙が漂う中、静かな決意が部屋に充満していた。

「確かに、ファランクス閣下。」彼は穏やかに言った。「我々の使命は、長期戦に持ち込むこと。そして、耐えながらその隙間を突いて、最終的にドイツを屈服させるのです。」

その時、二人の間に戦争の重みが深く感じられ、彼らの心は固く結びついていた。戦争はまだ始まっていないが、その準備は確実に進んでいた。

ファランクスとバダンテールが静かに作戦会議を続けている中、外の空気は一層重くなっていた。戦争の影は着実に迫りつつあり、その時が近づくたびに、二人の思索はさらに深まっていく。

「ファランクス閣下、浸透戦術を実行するには、兵員の訓練が必要です。特に歩兵の機動性を高め、即応性を養うことが重要です。」バダンテールが煙草を消し、視線を地図に戻しながら言った。「また、我が国の地形も考慮に入れ、戦術的に有利な地域を選定する必要があるでしょう。」

ファランクスは無言でバダンテールの言葉に耳を傾けながら、静かに頷いた。彼は長年の軍歴を活かし、戦略家としての直感を鋭く研ぎ澄ませていた。そして、彼の頭の中では、すでに数手先の未来が織り成す複雑な戦局が浮かび上がっていた。

「地形の選定…」ファランクスがつぶやく。「確かに、我々はそれを見逃してはならない。ドイツ軍の進撃路を計算し、可能な限り我々の有利な地点での防衛体制を整えなければならない。」ファランクスは地図上の特定の地点に指を置く。「ここが我々の勝負どころだ。アルザス地方の山岳地帯は防御に有利で、ドイツ軍の機甲部隊に対して有効に働くだろう。」

バダンテールはファランクスの指の動きに合わせて、慎重に考えを巡らせる。「その通りです。特にドイツ軍が機甲戦力を前面に出してくる場合、戦車の機動力に頼る戦術は非常に強力ですが、地形に縛られることで、彼らの弱点が見えてきます。もし我々が山岳地帯で防御し、接近戦を強いれば、ドイツの装甲部隊に対して有効な抵抗ができるでしょう。」

二人は地図を前にし、いくつもの可能性を模索し続けた。ファランクスの目は冷徹で、どこかのんびりとした外見を見せることなく、緻密な計画を練り上げていく。

「だが、我々の歩兵だけでは戦局を変えることはできない。」ファランクスはさらに深い考えにふけりながら言った。「戦車や航空機といった機動力を持つドイツ軍に立ち向かうためには、戦局を一変させる決定的な一手が必要だ。それが我々の勝利を引き寄せる。」

その言葉を受けて、バダンテールは静かに息を吐きながら答えた。「では、我々が持つべきは持久戦だけではなく、決定的な反撃の機会を狙うことです。そのためには、まず防衛に徹することが肝心ですが、相手の消耗を待ちながら、隙を見つけて反撃の時を待ち続けるべきです。」

ファランクスはバダンテールの意見をじっくりと考えた後、ゆっくりと口を開いた。「その通りだ。我々の立場は消耗戦に持ち込むことで、ドイツ軍を疲弊させ、最終的には勝機を得ることだ。しかし、持久戦ばかりではなく、必要なときには速やかに反撃することも視野に入れるべきだ。」

その言葉が会議の場に重く響き、二人は再び作戦の進行に集中した。戦争はまだ始まっていない。しかし、彼らは確実にその戦いに向けて準備を進めていた。すべてが戦局を左右する一手となる。

「一つだけ言わせてください。」バダンテールは顔を上げ、真剣な表情でファランクスに向き合った。「ドイツ軍はその機甲部隊だけでなく、空軍の支援も大きな武器となるでしょう。我々が反撃に転じるタイミングを見計らう際、その空襲が我々にどれほどの打撃を与えるか、十分に考慮しなければなりません。」

ファランクスはバダンテールの指摘を聞き、深く頷いた。「確かに、空軍の支援は無視できない。だが、我々には独自の対空防御と戦車に対する対抗戦術を用意しなければならない。」彼の目は鋭く、戦術家としての自信に満ちていた。「ドイツ軍が機甲戦力と空軍をフル活用するならば、我々もそれに対抗できる準備をしなければならない。特に防空体制の強化と、歩兵による戦車撃退戦術を進めるべきだ。」

バダンテールはその言葉を胸に刻み、再び戦術の修正案を提案しようとした。しかし、ファランクスはゆっくりと立ち上がり、部屋を歩き回りながら言った。

「リュシアン、我々が成すべきは、徹底した持久戦、そして機を見た反撃だ。そして、その反撃が決定的であるならば、我々の勝利が見えてくる。戦争は単なる数の戦いではない。戦術がすべてだ。」

バダンテールもまた、彼の言葉に深く共感し、静かに頷いた。「ファランクス閣下、我々は決して無駄に戦いを挑むことはありません。勝利を手に入れるために、すべての戦術を駆使するのみです。」

そして二人の心は一つになり、次に何をすべきか、どんな戦術を選ぶべきか、その答えが少しずつ明確になっていった。戦争が始まるその日まで、彼らは静かに準備を進めるのみだった。

ファランクスとバダンテールが作戦会議を終え、戦局に備えた準備を続けている頃、フランドル国民王国の首都パリでは状況が急速に悪化していた。国際的な緊張が高まり、フランドル王国に対するドイツ軍の圧力が日に日に強まっていった。

首都パリ。都市の繁忙を保ちながら、軍部と政府は戦争に備えて動き始めた。しかし、戦争は想定通りには進まない。最悪の場合、市街地戦が避けられなくなることも考えられた。

パリ市街で戦闘が発生すれば、それは非常に困難で厳しい戦いとなるだろう。フランドル王国には戦車や航空機の供給に限界があり、特に市街地での機械戦力の有効性は低くなる。逆に、ドイツ軍が侵入すれば、その強力な機甲部隊と優れた空軍を使い、都市の中心部に突入するのは時間の問題だ。

「最悪のシナリオを考えなければならん。」ファランクスは静かに言った。「もしパリで市街地戦に突入すれば、我々は一気に戦局が不利になるだろう。」

「確かに。」バダンテールも思索しながら答えた。「市街地戦では、機甲部隊や大規模な航空攻撃の効果が薄くなります。しかし、ドイツ軍の歩兵や特殊部隊は、高い訓練と精度を持ち、都市の中での戦闘では非常に強力です。」

ファランクスは少し黙って考え込んだ後、再び口を開いた。「フランドル軍の側も、戦車や重火器の支援が限られている以上、持久戦を余儀なくされるだろう。我々は都市の各区画に防衛線を敷き、塹壕やバリケードを作り、敵の進撃を遅らせるしかない。しかし、最悪の事態が起きた場合、どうするべきだろうか？」

バダンテールは無言で煙草を取り出し、ゆっくりと火をつける。「まず、最も重要なのは住民の避難だ。パリには多くの市民が住んでおり、戦闘が激化すれば多くの犠牲者を出すだろう。」彼は煙を吐き出しながら続けた。「政府は、市民の避難計画を早急に整備する必要がある。戦線がパリに迫った段階で、民間人を守るために即座に避難指示を出さなければならない。」

「そうだ。」ファランクスも煙を吸い込みながら、冷静に続けた。「だが、市民の避難を行いながら戦線を維持し、ドイツ軍の機動力を止めるためには、我々の兵力をどのように運用するかが鍵になる。歩兵だけではドイツの攻撃を防ぐことはできない。各地区での防衛戦力を強化し、必要なタイミングで反撃を加える必要がある。」

「その通り。」バダンテールは再び煙草を吸いながら、頭を振った。「フランドル軍の歩兵は、ドイツ軍の精鋭部隊に対して勝るとも劣らない戦闘力を持っている。しかし、市街地戦では、戦術を機動的に変える必要がある。特に、ドイツ軍の特殊部隊が市街地に進入してくれば、情報戦とゲリラ戦を駆使するべきだ。住民がいる以上、無差別な戦闘は避けなければならない。」

ファランクスはバダンテールの言葉に頷きながら、今後の戦略を思案していた。市街戦では、密集した建物や狭い道をうまく活用し、ドイツ軍を引き込んでその機甲部隊や航空攻撃を使わせる隙を与えないことが必要だ。

「一つだけ確実なのは、我々が防衛線を維持する間に、ドイツ軍は無駄に消耗することだ。」ファランクスはそう言いながら、心の中で最悪のシナリオに備えて準備を進める必要性を感じていた。「フランドル軍は市街戦の中で非常に有利な立場に立つことができる。しかし、最も重要なのは、市民を守るために戦うことだ。」

バダンテールは、これからの戦いがどれほど過酷で無情なものであるかを感じていた。戦争の恐ろしさは、兵士だけでなく、無辜の市民たちにも深刻な影響を与えるだろう。戦線が進む中で、ファランクスとバダンテールは、どんな最悪の事態にも対応できるよう、準備を整えていくのだった。

「我々がすべきは、市街戦で持久し、都市をドイツ軍の罠に引き込むことだ。」ファランクスは再度決意を込めて言った。「どんなに困難な戦局でも、最終的にはフランドルの意志が勝つことを示さねばならない。」