平和の為の準備

アンドレイ・クルバノフは疲れたように椅子に深く沈み込むと、再び机の上に広げた地図をじっと見つめた。帝国の戦力、フランドル国民王国の動向、そして遠くのドイツにおける軍事力の伸長。頭の中で様々なシナリオが交錯し、彼の思考は途切れることなく続いていた。


「う~む...しかし考えようだな。」

つぶやくように呟き、クルバノフは手を頬に当てて、しばし黙り込む。彼が抱えている問題は山積みだ。戦争の影は、いよいよ現実となりつつあった。


「フランドル国民王国の基本戦術『浸透戦術』は素晴らしい。」

クルバノフは自分に言い聞かせるように話すと、続けて語った。

「だが我が国の『縦深戦術』も似ているのだよな…。 二正面を強いても、あちらは恐らく共通性に気付いていずれ不利になるだろう…。」


その時、静かにドアがノックされ、イヴァン・ヴァガノフとヴァレリー・クラサフチェンコが部屋に入ってきた。


「失礼いたします、クルバノフ様。」

ヴァガノフが丁寧に挨拶をし、彼の後ろでヴァレリーが煙草を取り出して火をつけた。

「ヴァガノフ、大丈夫だ。君たちも少しは考えていたのだろう?」

クルバノフは立ち上がり、二人を迎え入れた。


「はい。」

ヴァガノフは穏やかな声で答えた。「ドイツの軍事力について、少し調査をして参りました」


「ドイツの戦車は基本的には『パンツァーII』や『パンツァーIII』といった比較的小型の戦車が中心であり、機動性や火力には限界があります。」

ヴァガノフは続けた。「しかし、それでも、機械化された戦車部隊が主力となることは確かです。戦車自体の数は多くないかもしれませんが、精度の高い指揮と優れた機動戦が組み合わされることで、大きな脅威となる可能性はあります。」


ヴァレリーが煙草の煙を吐き出しながら口を挟む。

「そう、だが、問題はその戦車の運用方法だ。」

彼は煙草を吸い込みながら、思案するように話を続けた。

「ドイツ軍は、戦車を単独で動かすのではなく、歩兵部隊と連携させることで、戦車の長所を引き出してくるはずだ。最初のうちは、単独の戦車で戦況を覆すことができても、最終的には戦線を支える歩兵との協力が不可欠になる。」


クルバノフは少しうなずき、地図を指さした。

「フランドル国民王国が浸透戦術を採用しているというのは、恐らくそのあたりを予測してのことだろう。しかし、我が国の『縦深戦術』も基本的には似たようなものだ。敵の深部に侵入して後方を突く。これを巧妙に組み合わせれば、ドイツの戦車戦術に対抗できる可能性がある。」


ヴァガノフはしばらく黙って考え込むと、再び口を開いた。

「ただ、ドイツ軍の戦車部隊に対抗するためには、まずはドイツ軍が陸上戦力において優位に立たないようにする必要があります。彼らの戦車は、機動力と火力に関してはそれなりに高いが、まだ防御力は完璧ではない。特に、『パンツァーIII』などは、正面からの攻撃には耐えきれない場合が多い。」


ヴァレリーが煙草を吸い込みながら、視線を落とした。「その通りだ。しかし、ドイツはまた、『近代的な補給システム』や『後方支援』に強みを持っている。無論、それに対抗するためには、私たちも同じように補給路を守りつつ、重要な拠点を押さえていくことが必要だ。」


クルバノフは頷きながら言った。

「我々の縦深戦術では、敵が補給線を失い、戦車が孤立すれば勝機が見えてくる。ドイツの戦車部隊が機動力に頼るならば、補給線を絶つことでその強さは半減するだろう。」


ヴァガノフとヴァレリーはそれぞれ自分の思うところを述べ、議論は続いた。

「対ドイツ戦では、機動力のある部隊を巧妙に配置し、敵の予想外の動きを引き出すことが重要です。」とヴァガノフ。

「そして、攻撃の際には速さが命です。歩兵、戦車、そして航空機の連携をうまく取ることで、ドイツの戦車部隊を翻弄することが可能だ。」とヴァレリーが続ける。


クルバノフは彼らの意見を受け入れ、次のステップを考えた。戦争はまだ起こっていない。しかし、何か大きな動きが近づいているのは明白だった。ドイツが戦車部隊を主力として強化し、フランドル国民王国の戦術も着実に進化している。彼の頭の中では、戦局を見越した準備が着々と進んでいた。


「我々が今すべきは、ドイツの戦車戦力にどう対処するかを再確認することだ。」

クルバノフは思考を整理しながら、再び部屋の地図を見つめた。「そして、我が国の戦力を最大限に活用できるよう、各部隊との連携を深めるべきだ。」


ヴァガノフは静かに答える。「その通りです、クルバノフ様。戦争の予兆を感じる今こそ、準備を怠らず、戦局を有利に進める方法を模索するべきです。」


ヴァレリーが煙草をもう一度吸い込んで、静かに言った。「我々の準備が整えば、どんな戦争にも対応できるはずだ。」


その言葉に、クルバノフは無言で頷き、深い決意を胸に刻んだ。戦争が起これば、それに対する準備は十分でなければならない。そして、彼はその準備を着実に進めていた。


クルバノフは、ヴァガノフとヴァレリーの言葉を胸に、さらに深く考え込んだ。戦争は確実に近づいており、今後の動向を予測し、対策を講じることが一層重要だ。ドイツの機甲戦力、フランドル国民王国の戦術、そしてモスコーヴィエンの動向。これらすべてを把握し、迅速に対応する必要がある。


「それにしても、ドイツの戦車の機動性はやはり脅威だ。」クルバノフはつぶやいた。「『パンツァーII』や『パンツァーIII』は、今の我が軍の戦車よりも速く、火力も強い。ただし、防御力に関しては若干の隙間がある。しかし、もし彼らがその弱点を補うような形で改良を加えた場合、非常に手強い相手になるだろう。」


ヴァガノフは静かに頷き、少し間をおいてから答えた。「ドイツの戦車部隊が進化すれば、我々の戦術も一歩先を行かなければなりません。しかし、ドイツが戦力を集中させる一方で、我々には補給線の確保と後方支援の強化があります。機動性では劣るかもしれませんが、縦深戦術を駆使すれば、その差を埋めることはできるはずです。」


「その通りだ。」とヴァレリーが煙草を片手に言った。「ドイツの戦車が強力であっても、無敵ではない。むしろ、我々が補給網を断ち切り、機動力を活かして敵の背後に回り込めば、戦車を持ってしても立ち回れなくなるだろう。あとは、地上戦の他にも空中戦の要素を活かすことが重要だ。航空部隊を連携させれば、敵戦車の動きを封じ込める手段も見えてくる。」


クルバノフは、彼らの言葉を繰り返し思い返しながら、地図を見つめた。その時、急に考えが閃いたように彼の表情が変わった。


「待て。フランドル国民王国が採用している『浸透戦術』は、確かに優れた戦術だ。しかし、ドイツの戦車部隊は、我が国の縦深戦術を突破するほどの機動力を持っているわけではない。」


「それでも、彼らは深い防御ラインを突破するために精密な連携を取る。」ヴァガノフが冷静に言った。「浸透戦術は、相手の防御の隙間を狙って突破し、その後は後方の脆弱な部分を攻撃する戦術です。もしドイツが機動力を活かし、その後ろの防御ラインに接近してきた場合、我々が反撃に出る余地はほとんど無い。」


クルバノフは頷きながら再び手を組んだ。「それならば、まずドイツの戦力をいかに分散させ、浸透戦術の核心部分である『隙間』を見つけさせないようにする必要がある。そして、その隙間を見つけたら、最初に突くべきは彼らの補給線。ドイツ軍が前線に深く浸透してきた場合、補給が途絶えれば、機甲戦力は有効に機能しなくなる。」


ヴァレリーが煙草を片手に地図に目を向けながら、ひとしきり煙を吐いた。「その通り。敵の補給網を断つことができれば、ドイツの機甲部隊はただの鉄の塊になる。しかし、問題は、ドイツがこの戦争で機動戦と共にどのように補給システムを強化してくるかだ。」


「だからこそ、我々は先手を打たなければならない。」クルバノフが再び立ち上がり、手のひらで地図を指し示した。「戦局が本格的に開戦したときには、ドイツの戦車部隊がどのように動くかを予測し、そこに我々の縦深戦術を重ね合わせる必要がある。そして、それを支えるための空中支援を適切に配置する。」


ヴァガノフが静かに答えた。「理解しました、クルバノフ様。私はこれから、戦車部隊の動きを予測し、最適な配備案を練ります。」


「ありがとう、ヴァガノフ。ヴァレリー、君も戦術面での提案を続けてくれ。」クルバノフは二人に言った。


ヴァレリーは煙草をもう一度吸い込み、ふっと吐き出してから答える。「わかりました。情報を集めて、もっと具体的な戦術を練り直します。」


その後、数時間の議論が続き、クルバノフは結論を出すことができた。ドイツの機甲戦力を突破するための鍵は、単なる戦車戦ではなく、いかにして彼らの補給ラインを遮断し、機動戦に持ち込むかにかかっている。戦争はまだ始まっていないが、すべての準備が着々と整いつつあった。

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