土砂降りの晴天

ねむ

土砂降りの晴天(一話完結)

「痛っ」

 ふいに頭上を襲った衝撃。視界の先、フローリングには赤い、懐かしい冊子が落ちていた。

(赤本だ。懐かしい)

 二次試験終了と同時にやけになり押し入れの奥へと放り投げたが最後、今日まで日の目を見ることが無かったのだろう。反射的にそれを開くとあの時のまま、黄色の蛍光マーカーが目に入る。

(大学受験に勤しんでいたあの頃が、僕の最初で最後の青春だったのかもしれない)

 机に置いたスマートフォンが振動する。そういえば今日は成人式だったか。今頃元同級生は振袖やスーツ、袴なんていう装いで笑い合っているのだろうか。その輪の中で、彼らと一緒に笑い合う自分の姿を想像しようと試みたが、上手くいかなかった。

(まあ、それもそうか)

 赤本から顔を上げると、澄み切った青空が見えた。日の光に照らされて部屋の中を埃がちらちらと舞っているのがよく見える。埃の積もった勉強机、通学バックに学生服…すべてがあの時代のまま静止しているようだった。かといって僕自身の時間は止まることなく、もう戻ることはできないけれど。

(今日が土砂降りの雨だったらよかったのに)

 そう思った。

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土砂降りの晴天 ねむ @nemu-san

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