第18話

語り手:セシリー


 目が覚めた時、男達は少し離れた場所にいた、こっちから背を向けて何か話しているようだ。


 「こう行ってこう行ってこっちか?」

 「ちがーう!こっちだ!」


 会話に夢中になってこちらに対する注意が疎かになっている様子だ、今なら逃げられるだろうか、いや、行くしかない。

 私は、気付かれないように静かに自分の腕に縛られた縄を火魔術、”レスファイア”で焼き切った、リリちゃんは?


 慎重に首を左右に振り周りを確認し、リリちゃんの身柄の存在を確認する、すぐ隣ですやすやと眠っている様子だ、縛られているロープをほどいてあげ、優しく抱きかかえ音を立てないように、足早に走り去る。


 正直どこに向かっているのか分からない、しかし今はそんなことはどうでも良いと思った、とにかくあの二人から逃げられれば良い、頭のずっしりとした鉛の様な重さを耐えながら、ぐにゃぐにゃと、木が布の様に歪んで見える目の前の道無き道を、なんとか進んでいく。


 辺りは極太で長い木々が不規則に並び立つ、若干霧が漂いちょっと呼吸しづらい、地面は湿ってはいるが走れないほど柔らかくない、こんな状況が一切変わらず続く。


 見渡せど見渡せどここが一体どこか分からなくなり、流石に足を止めた、とりあえずリリちゃんを木の根元に横にして寝かせておく、とても気持ち良さそうにぐっすりして眠っている、そんなリリちゃんの頭を私はそっと撫でる。

 そのまま私は隣に内股の三角座りで腰掛けた。


 「は〜、どうしよう」


 ここで大人しく動かないで待つか、自分でネオ君を探すか、でもこれ以上はもう余計なことしないほうが良さそうね、事態が悪化しそう。


 そうだ、今の状況を把握しておかなきゃ、鞄は置いてきちゃったな、もったいないけどあの状況なら仕方ないよね、命には変えられないもん、でも地図もあの中だしな、それに何日も何も無しで生きていかなきゃいけないって思うと、きついなぁ…何かないかな。


 リリちゃんから少し離れてしばらく周りを探ってみる、しかしそんなに都合よく見つかるわけもなく、私はしばらく彷徨い続けた。


 「うーん、せめてちっちゃくても良いから食べられる物が欲しいな」


 これ以上リリちゃんから遠くへ行くわけにはいかないし、一回戻ろうかな…そう思い引き返そうとした時、水の流れる音が微かに聞こえた、私はその音に近付くように走って行く。


 すると運良く川が見つかった、これで水には困らないし、あと魚とか捕まえられないかな、と、いろいろ考えながら川の横を歩き回っていると、たまたま見つけた木の根元が空いており、大人二人が一緒に入れそうなスペースがあった。


 「ついてる!ここにリリちゃんを運んで寝所を作っちゃお!」


 私はすぐにリリちゃんの所へ戻り、抱き抱えて穴まで運んだ、まだすやすや眠っている。


 とりあえず今は川へ行き水を汲む、魚掴みにも挑戦してみた、足の裾を上げ川の中に入ったが冷たいどころじゃなく、キンキンに冷えてしまい冷たいを通り越して痛かった、それでも気合を入れて手を突っ込んだ、魚をしばらく探しなんとか一匹捕まえる、今日はリリちゃんにこれをあげよう。


 戻ってその場に木を組みレスファイアで焚き火を作り、その前で三角座りをして休む。


 これでとにかくなんとかなりそう、今日はここで野宿かな、凄いことになっちゃったけどきっと大丈夫だよね、きっとネオ君が探してくてれるはず。


 「ん〜、お姉ちゃん?」


 リリちゃんが目を覚ました、よかったぁ、正直このまま目を覚まさなかったらどうしようって思ってたけど、どうやら杞憂だったみたい。

 リリちゃんに体を向け話しかける。


 「リリちゃん、起きたのね、お水飲む?」

 「うん」


 リリちゃんの上体をゆっくり起こして水を飲ませる、だんだん頭が冴えてきたのか元気にお喋りしてくれる。


 「お姉ちゃんが全部やってくれたの?すごーい!」

 「全然、こんなのネオ君の方が上手くやるだろうし、やっぱ私一人じゃ大変だわ」


 魚を焚き火で焼き、二人でそれを見つめながら喋る私達。

 いつも仕事で遠くに出向くことはあるけど、こんな森で一人で全部やることになるなんて思わなかったな、魔物に見つかりづらい野宿できる場所を見つけてくれたのはネオ君だったし。


 「あ、お魚焼けたね、はい、リリちゃん」


 私はよく焼けた魚を焚き火から引き抜いて、リリちゃんに手渡した、リリちゃんは感動した様な表情を見せて魚に手を伸ばそうとしたが、私の方を見て手を止める。


 「お姉ちゃんは?」

 「私?私は良いの、一晩くらい大丈夫!」


 私は両腕を上に曲げポージングして、大丈夫アピールをした。

 するとリリちゃんが魚を手に取り食べ始める、そうよ、子供は大人のことなんか気にせず食べなさい。

 ぐ〜〜

 あー、お腹なっちゃった。


 「ふふ、お姉ちゃん!はい、半分こ」

 「リリちゃん…」


 私に半分食べた魚の残りをくれた、でもリリちゃんの方がいっぱい栄養取らないといけないし。


 「気持ちは嬉しいけど全部食べなさい?私よりリリちゃんが倒れた時が大変だから」

 「そんなのお姉ちゃんだって一緒だよ〜!これ一生懸命獲って来てくれて疲れてるのに、何も食べれないなんてお姉ちゃんの方が倒れちゃうよ!」


 リリちゃんが私に魚を上下に揺らして向けて行ってきた、少々行儀が悪いけど確かに私が動けなくなったら、この子をこの間誰が守っていくのか。

 私は上下に揺れる魚を掴み取り笑いかけた。


 「ありがとう、リリちゃん」

 「うん!」


 リリちゃんも満面の笑みだ、可愛いなぁ。


 魚を食べ終わった頃には辺りが真っ暗になり、焚き火がないと周りの状況が分からないくらいになっていた。

 

 「川から組んできた水があるんだけど、リリちゃんも体洗お」

 「ううん、私はいいや」


 まただ、リリちゃんはいつも体を洗うことを拒否する、汚いから綺麗にした方がいいんだけどなー、それでもネオ君と無理やり洗わせようとした時には暴れ出したこともあったので、無理強いは良くないと思いそこからは押し付けない様になった。

 結局私一人で洗うことになり、水浴びを済ませた。


 「そろそろ寝よっか」

 「はーい!」

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