第53話「飛躍の証と映画の現場」
東京での生活が始まってから、もうしばらく経った。大輝は初めての東京での仕事に少しずつ慣れてきたものの、日々新たな発見があり、緊張感が途切れることはなかった。バックバンドとしての仕事も、最初は戸惑いが多かったが、他のメンバーやプロフェッショナルなスタッフたちに囲まれ、徐々に自信がついてきた。
今日はいつもと違う雰囲気が漂っていた。月城プロデューサーが自分に話があると言って、呼び出されたのだ。大輝は軽い緊張感を抱えながら、指定された場所へと向かう。
月城プロデューサーは、落ち着いた笑みを浮かべていた。「大輝、最近の君を見ていると、確かに成長していることが分かるよ」と、静かながらも確かな声で言った。
「ありがとうございます!」大輝は少し驚きつつも、すぐに礼を述べた。
「今日は、君にご褒美を用意している。少し息抜きも必要だろう。これからある場所に連れて行く。」
大輝はその言葉に驚きながらも、期待に胸を膨らませた。「どこに行くんですか?」
「楽しみにしていてくれ」と、月城プロデューサーは意味深な微笑みを浮かべて答えた。
そして大輝が連れて行かれたのは、映画の撮影現場だった。大輝は初めて見る映画のセットに、目を見張った。大勢のスタッフが忙しく動き回り、カメラがセットの中心に据えられていた。その光景に、大輝は圧倒された。
「今日は特別に、この撮影を見学させてもらうことになった。実は、ここにKanonが出演しているんだ」と月城プロデューサーが言った。
大輝は驚きと喜びが入り混じった気持ちでセットを見渡した。そして、セットの中心に立っている奏音を見つけた。彼女は真剣な表情でスタッフと話し合い、ワンシーンの準備を進めていた。
カメラが回り、奏音―Kanonが演技を始めた。彼女のプロフェッショナルな姿勢、集中力、そして情熱が画面から伝わってくる。大輝は、その姿に目を奪われた。奏音はただのミュージシャンではなく、プロの表現者として自分の道を進んでいることを痛感させられた。
撮影が一段落し、奏音が休憩に入ったところで、大輝は彼女と顔を合わせた。「久しぶりだね、大輝」と奏音が微笑んで声をかけてきた。
「奏音、すごいよ。こんなにプロフェッショナルに仕事しているんだな」と大輝は感嘆の声を漏らした。
奏音は少し照れくさそうに笑った。「ありがとう。でも、私はまだまだだよ。もっと上を目指しているから。」
その言葉に、大輝は心を動かされた。自分もまだまだ未熟で、もっと成長しなければならないと強く感じた。
帰り道、大輝は今日の出来事を振り返りながら歩いた。奏音の姿勢に影響を受け、今の自分に満足してはいけないと心に誓った。もっと努力して、もっと成長しなければならない。彼女に追いつくために。
「自分ももっと頑張らないと…」大輝は自分に言い聞かせ、次のステップに向けて新たな決意を固めた。
その日、東京の空は澄んで青く広がっていた。大輝はその空を見上げ、再び歩き出した。夢への道はまだまだ続いている。
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