第51話「進むべき道」
朝から晴れ渡る東京の空の下、大輝はスタジオのドアを押し開けた。今日もバックバンドとしての練習が始まる。プロの世界に足を踏み入れたばかりの大輝にとって、すべてが新鮮であり、同時にプレッシャーでもあった。
スタジオにはすでに他のメンバーが集まっていて、各自の楽器の調整をしている。彼らの動きはスムーズで、まるで息をするかのように自然に見えた。大輝は自分のギターを手に取り、チューニングを始めるが、指先が少し震えているのを感じた。
「おはよう、大輝。」バンドリーダーが声をかけてきた。「今日も気合入れていこうな。」
「おはようございます。よろしくお願いします。」大輝は少し緊張しながらも、頭を下げた。
練習が始まり、曲が流れ出す。初めのうちはリズムに乗れていたが、曲が進むにつれて、複雑なフレーズに指がついていけなくなった。何度も同じ場所でミスを繰り返し、焦りが募る。
他のメンバーが目を向けてくるのを感じ、大輝は冷や汗が流れるのを覚えた。ここにいる全員がプロであり、彼の一挙一動を見逃さない。そんなプレッシャーの中、彼は何とか最後まで弾ききったが、自分の未熟さを痛感していた。
「大輝、ちょっと休憩しよう。」バンドリーダーが声をかける。「少しリラックスして、もう一度頭を整理してみるといい。」
スタジオの外に出ると、冷たい風が大輝の顔に当たり、少し気持ちが落ち着いた。リーダーが隣に立ち、ポケットからタバコを取り出しながら言った。
「プロの世界は厳しい。でも、お前にはその厳しさに耐えられる力がある。焦らず、一歩ずつ進んでいけばいいんだ。」
その言葉に、大輝は少し気が楽になった。リーダーのような経験豊富なプロが、自分を認めてくれている。その事実が、彼に新たな自信を与えた。
スタジオに戻ると、大輝はリーダーの言葉を胸に、再びギターを手に取った。今度は少し肩の力を抜き、自分のリズムを取り戻すことに集中した。次のテイクでは、以前よりもスムーズに弾けた気がする。
練習が終わり、メンバーたちが片付けを始める中、大輝の携帯が震えた。画面を見ると、影虎からのメッセージが届いていた。
「オーディション、無事通過したよ。次のステージも頑張るつもり。お前も頑張れよ!」
大輝は影虎の成功を喜びつつも、自分との実力差に焦りを感じた。影虎がどんどん前に進んでいる中、自分はまだ足りない部分が多すぎる。しかし、その焦りが逆に彼の中で燃えるような決意を生み出していた。
その夜、大輝は一人部屋でギターを手に取り、静かに弦を弾いた。音が部屋に響き渡る中、これまでの自分の道のりを振り返った。奏音がどれだけの努力を積み重ねてきたか、自分がどれだけ彼女に勇気をもらってきたかを思い出す。
「やらない後悔よりも、やって後悔したほうがいい…」
その言葉を胸に、大輝は新たな決意を固めた。プロの世界で生き残るためには、まだまだ学ぶべきことが多い。だが、彼はそれに立ち向かう覚悟を決めていた。
次の日、大輝は再びスタジオへと向かう。まだ自分には足りないものがあることを知っている。だが、それを補うために、全力で練習を重ねる覚悟ができていた。
東京の街を歩きながら、大輝は自分の進むべき道を見据えた。その道は決して平坦ではないが、自分の力で切り拓いていくしかないのだと強く思った。
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