そこそこ自由に生きています
クククランダ
第1話 入学して1日で決闘することになりました
30年前、この世界では戦争があった。エルフ、竜人、鬼人、獣人、人間の戦争。きっかけが不明の戦争。あらゆる種族が己の種の存続の為に他の種族を滅ぼそうとした悲しく、虚しい戦争だ。
しかしそんな戦争も3年で終結した。そして各国の王は2度とこのような戦争を起こさない為に1つの学園を用意してそこで全ての種族が交流できるように学園を設立した。
それが”ジルベ学園”。果たしてなぜそんな話をしたのか。俺が今その学園の前に立っているからだ。俺の視界に巨大な扉がそびえ立っている。
「はぁ、まじかよ」
思わずため息が出てしまう。俺の手には1つの手紙が握られている。目の前の学園の編入するための紙だ。
「いや、いやいやいや。だからってなんでここなんだよ。ここは選ばれた奴しか入れないんだろ? なんで俺が?」
俺は中に入る気が起きずに扉の前でぶつぶつと独り言を漏らす。周りから見たらただのやばい奴だがそんなことは今は気にしていられない。
「くっそ、だからあいつ学園の名前書かなかったのか」
俺は1人の人間を思い浮かべる。そいつがここに編入するように手配した張本人だ。そこには行き先と乗り物の切手が入っていた。
それを見た時は断りたかったけどそいつは家族ぐるみで仲が良いので断ることができなかった。
断ったら絶対に家での居心地が悪くなるし。
「まぁ、ここまで来たら入るしかないよなぁ」
俺は覚悟を決めて扉の前に立つ。扉は何かしらの仕掛けがあるのか、目の前に立つと扉は音を立てて開いた。一体どういった仕掛けなんだろうか? そう思いながら学園の中に入る。
「ほえー。すっげぇな」
思わず間抜けな声が出てしまう。中は果てしなく広く、そして色々と備わっていた。おそらくエルフが好む森のような場所に空は竜人が翼を出して飛んでいる。
俺は周りを見渡しながら歩く。流石は最大にして最難関の学園。全てにおいて規格外だ。
「あいつに会えたらとりあえず設備の紹介とかしてもらうか」
俺はとりあえず建物の中に入る。手紙に書かれていた地図を頼りにして部屋を見つけるしかないが、まぁなんとかなるだろう。そう思っていた。しかしその考えは甘かったらしい。
「み、見つからねぇ」
かれこれ2時間は歩いた。なのにまるで見つかる気がしない。ここが馬鹿みたいに広いせいだ。
「なんでこんなに広いんだよ。もっと狭く作ってくれよ」
思わず文句を言ってしまう。誰だよこんなデカく作ったやつ。なんでこんなに歩く必要があるんだよ。なんの罰ゲームだよ、一生見つけれる気がしねーわ。
「……仕方ない。最後の手段だ」
最後の手段。それは人に尋ねることだ。うん、最初からこうすれば良かった。なんで俺は自力で見つけようとしてたんだ? 馬鹿じゃねーのか?
俺は辺りを見て話しかけられそうな人を探す。すると1人の人物が目に映った。腰まで伸びた赤い髪、柔らかい目元、そして額には2本の角が備わっている。
「あいつに聞くか」
俺は外の設置されている椅子で本を読んでいる鬼人のところまで歩く。おそらくあいつはぼっちだと見た。あいつなら優しそうだし丁寧に教えてくれそうだ。
「なぁ、ちょっと良いか?」
「……あ?」
鬼人はこちらに視線を向けると不機嫌そうな目を向ける。一瞬びっくりして目を見開いてしまったが俺は言葉を続ける。
「読書中に悪いな。ここに行きたいんだけど行き方とか分かるか?」
「うるせぇ。他の奴に聞け」
鬼人はそう言うと再び読書を再開する。女なのに随分と男勝りな口調だ。なんか教えてくれなさそうだし、他を当たるか。
そう思って俺が離れようとした時に突然1人の鬼人がこちらへ走ってきていた。
青色のショート、顔は少し幼い印象が残る少女が赤色の鬼人の側まで駆け寄った。
「イーラ様、勝手にどっか行かないで下さいよ! 探したんですからね!」
「別に私がどこに行こうが勝手だろうが。ほっとけよ」
「そういうわけにもいきませんよ! 私はあなたの付き人なんですから」
なんだか聞く限りはこっちの方はまだ優しそうだ。こっちの鬼人なら教えてくれる気がするな。俺が尋ねようとする前に青色の鬼人はこちらに目を向ける。
「それで、あなたは一体なんなんですか?」
「あぁ、俺は今日から編入するマルクだ。これからよろしくな」
「「…………」」
2人は俺を見て固まっている。俺なんかおかしなこと言ったか? 思い返してみても特に変なことは言ってないと思うんだが。
俺が首を傾げていると青髪の鬼人が口を開く。
「そうですか。あなたがそうなんですね」
「ん? なにが?」
「あなたが噂の人物だったんですね。あの人の知り合いってだけで実力もないのにこの神聖な学園に入ってきた不届き者」
青色の鬼人は忌々しい物を見るような目で俺を見る。ふと横を見ると赤色の鬼人も同じような目をしていた。
「は? いやいや、待ってくれ。なんだその噂は。え、まじでそんな噂広がってんの?」
「えぇ、今はこの噂で学園は持ちきりですよ。どんなふてぶてしい顔の者が入ってくるのかと。こんな顔だったんですね」
「……まじかぁ、そんなことになってんのかよ。めんどくせぇ」
思わずげんなりしてしまう。なんで入りたくもない学園に入れられた挙句にこんな噂までされにゃならんのだ。まじでだるい。
俺がまじで帰ってやろーかなと思っているとイーラが不機嫌そうな低い声で話す。
「実力のないカスはこの学園に相応しくねぇ。とっととこの学園から失せろ」
俺はあまりにも失礼なことを言ってきたこいつに思わず頭に来てしまった。
「あ? なんだお前。随分な物言いだな、おい。その馬鹿みたいな角へし折ってやろーか?」
喧嘩腰でこられたので俺も喧嘩腰になった。すると2人は俺の言い方が気に食わなかったのか目を見開いて小さく震えていた。
しばらくするとイーラは何かを抑えるように深呼吸して俺を睨む。
「鬼人の誇りである角を貶すとは、良い度胸してるじゃねぇか。ツテで入ってきたカスのくせに」
「先に喧嘩を売ってきたのはお前だろーが」
俺たちが睨み合っていると青髪の鬼人の姿がどこにもなかった。
「排除します」
後ろから声が聞こえた。おそらくあの青髪は俺の背後からなんらかの攻撃をしようとしているのだろう。だが、それも意味はない。そんなことは俺もとっくに気づいている。
俺は前をイーラから目を離さずに体を横にずらす。俺は視界に入った青髪の腕を掴んでそのまま地面に転がした。
「!! クッ!」
青髪は体勢をすぐに立て直して悔しそうな表情で俺を見る。俺は一瞬だけ青髪の方を見たがすぐに視線を戻した。
「で、これでもお前らは俺をツテで入って来たと思うのか?」
「……確かに、ある程度はできるようだな。まさかニナが簡単に転ばされるとはな」
「あ、あんなのは偶然です! もう不覚は取りません!」
どうやらこっちはニナと言うらしい。ニナはまた性懲りも無く俺に突っかかろうとしてくる。するとイーラがニナの前に手を出して止める。
「やめろ。ここでやったら悪くなるのは私たちだ」
「で、ですが!」
「言うことを聞け」
「……分かりました」
イーラが強めに言葉をかけるとニナはしぶしぶ引き下がる。けれど俺のことはしっかり睨んでる。おー、こわっ。
「じゃ、お前の言う通りに他の奴らに聞くわ。じゃあな」
「待て」
「………」
「待て」
俺はため息をつきながら立ち止まる。こいつらと話すとストレスが溜まるのであんまり話したくはない。これが最後だ。自分にそう言い聞かせて俺は振り返る。
「なんだよ。まだなんかあんのか?」
「私と戦え」
「は? 嫌だけど」
「お前に拒否権はない。お前は鬼人の誇りを侮辱した」
「ならお前だって俺のこと貶したじゃん」
自分のことを棚に上げて良くそんなことが言えるなこいつ。俺が呆れているとイーラは口角を少し上げて笑う。
「私は事実を言ったまでだ。違うと言うのならば戦いで証明して見せろ」
「お前、まじでめんどくせぇな」
「フッ、怖いのか?」
「お前ごとき、怖いわけないだろ。何言ってんだよ」
俺はやれやれとばかりに息を吐く。イーラの眉が小さく動く。そして隣にいたニナがわなわなと震えて声を上げる。
「この人は鬼人の中でもトップクラスの実力者なんです! あなたなんかじゃ足元にも及びません!!」
そうは言われても俺はこの学園のレベルを知らん。とりあえず何か反応した方が良いのだろうか?
「あぁ、うん。すごいな」
「な、なんですかその反応は!? あなたやっぱり馬鹿にしてますね!」
「いや、別にそんなことはねーよ。うん、鬼人の中で。すごいんじゃねーの? 他の奴ら見てないけど」
「くっ、この!」
「ニナ」
「っ……はい」
ニナは一瞬悔しそうに唇を噛む。イーラは立ち上がってどこかへ歩いて行く。ニナもその後に続く。俺が2人を見ているとイーラがこちらへ振り向いた。
「明日、同じ時間にまたここに来い。逃げるなよ」
「へいへい」
「……べーっ」
ニナは俺に向かって舌を出して馬鹿にしてくる。2人はどこへ行った。
「あー、まじでしんどい」
なんで1日目でこんな目に合わないといけないのか。本当に最悪である。
そこそこ自由に生きています クククランダ @kukukuranda
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。そこそこ自由に生きていますの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます