第45話 孤児院にて case-5

「パプリカ。ねえ、パプリカ聞いてる?」

シルファはジト目でパプリカを非難する。


「ごめん。聞いてなかった。」

パプリカは授業を終えてすぐで、なんだかうとうとしており、話しかけてきたシルファに対してどこか上の空といった様子だった。


「ねえ、どうしていつも私を適当に扱うの?」


「適当に扱ってなんか。」

パプリカは自信なく答える。


「嘘よ。ねえ、ちょっと今日は付き合ってくれる?」

シルファはちょっとだけ意地悪な表情を浮かべた後にそう言った。


「私も聞きたいことがあるわ。」

パプリカはシルファ真顔で尋ねる。


「どうして今日が休みだって知ってるの?」

パプリカは不思議だった。シルファはいつまでもパプリカを気にかけてくるし、ただ単に珍しい獣人が修道院で勉強をしにきたことに対する好奇心ではここまで深く付き合おうとはしてこないだろう。


「それはね。」

シルファは嬉しいそうにしている。


「それは?」


「シンシアは私の祖母なのよ。だから、あなたの動きはおばあちゃんを通して筒抜けなの。」

何やら彼女はドヤ顔をしている。


パプリカは少々驚いた。シルファの祖母といえば、この国でも絶大な権力者である枢機卿の一人ではないか。普段、孤児院にて子供たちと戯れている老婆のどこからもそのような権力者のオーラを感じなかったからである。


「なるほど合点が言った。」

パプリカは手短に答えた。


「おばあちゃんから貴方のサポートをするようにって言われているの。」

シルファがパプリカの入学当初から色々と便宜を図ってくれているのにはそういう事情があったらしい。


「ありがとう。でも詮索はやめてもらえるかしら。」

パプリカはあまり自分の行動を監視されるのが好きではなかったし、場合によってはシルファ自身にも危険が及ぶ。


「詮索ってそんなつもりはないわ。」


「色々と面倒をみてくれるのは嬉しいけれど。」

パプリカは少々迷惑そうな表情を浮かべる。


「パプリカ。今日は休みだって聞いたわ。

この街にでてからどこにも行ってないんでしょう?私が紹介するわよ。」

そういうとシルファはパプリカを先導する。


「ちょっと話を聞いてた?」

パプリカは抵抗した。


「この街にはあるのよ。」


パプリカは黙っている。


「美味しいコーヒーもケーキも。いいからついてきなさい。」

パプリカは頑張って抵抗していたが、食べ物の話に心が緩み、その隙に連れて行かれたのである。


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「それにしてもシンシアがおばあさんだなんて。」


「似てない?」


「ということは枢機卿ということ?」


「まあそうなるわね。」

シンシアに連れられるままパプリカは街の露天を周りながら会話は繰り広げられる。


「ちょいとごめんよ。」

シルファは移動中に自分よりも少し年上の女性とぶつかる。パプリカは一瞬で彼女がスリだと見抜いた。

この程度の輩を見逃すような鍛え方はしていない。


パプリカは咄嗟に取られたシルファの財布を取り返す。少し遅れてからシルファも自分がスリの被害に遭ったことに気がついたようだ。


「パプリカどうしよう。さっきの人...」

シルファは顔面蒼白といった様子だ。


「シルファ。慣れているんじゃなかったの?」

パプリカは懐から財布を取り出した。


「これどうして。」


「さっき落としてたから。驚かそうと思って。」

パプリカは適当に言っておいた。本当のことをいう必要もない。


「何はともあれ助かったわ。今日はおすすめの場所があるの。行きましょう。」

シルファはパプリカをお気に入りの喫茶店に招待すると、財布のお礼にケーキとコーヒーを振る舞った。


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パプリカは休日を楽しんで孤児院に帰宅した。

出迎えたのは子供たちだ。


「姉ちゃんがいなくて寂しかったよ。」


「明日はおままごとしてよ。」


「また弓矢教えてくれよ。」

いつの間にかパプリカは子供たちにとって欠かせぬ存在になっているらしい。


パプリカは手短に子供たちの相手をする。


「パプリカ。おかえり。」

シンシアは料理を用意しながら待っていた。


「驚いたわ。シルファがシンシアの孫だなんて。」


シンシアはそれを聞いて思い出したかの様に、

「そういえば言ってなかったわね。どうかしら、あの子とはうまくやれてる?」


「今までどうして彼女が親切にしてくれるのかわからなかった。」


「あら、友達は多い方がいいわよ。」


シンシアは黙ってパプリカに夕食のテーブルにつくように催促した。


「シンシアは枢機卿なの?」

パプリカはシンシアに尋ねる。教会の権力機構は今回の任務にとって非常に重要になる。

できるのであればここで近づいて情報を獲得したい。どのように接触するのか糸口を探っていたパプリカについては渡に船であった。


「そうよ。」

シンシアはあっさりと答えた。


「パプリカちゃん。貴方がどんな人間かは本当の意味で知ることはできないけれど、これだけは言えるわ。

どんな目的があっても亞人の貴方が教会の中枢に入ろうだなんてのは辞めなさい。」

シンシアは続けて強い言葉をパプリカに告げた。


「それはどうして。」


「まずは夕食をお上がりなさい。」

シルファはそういうと、話を切り上げて、自分の用意した料理を丁寧に温めなおした。


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